巨根とブサメン
エリスちゃんが肩を上下して息を切らしている。
どれだけこちらに剣を振るっても俺のちんこがことごとくガードをしているためだ。
最初に剣を振るわれたときはさすがに死ぬかと思ったのだがこのちんこ、自分の意志とか無関係に剣を受けるべく右に傾いたり左に傾いたり、しまいにはぐにゃりと曲がって俺の体の左側に伸びたりするのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。貴方、私を馬鹿にしているのかしら。」
剣を振り回し始めて半刻ほど経った頃だろうかエリスちゃんが俺に話しかけてきた。
「いや、あの、決してそういうわけじゃなくてですね。私のこれはどうにも自分の意志に関係なく動いてるようでして、流石に自分でもちょっとびっくりしてるところです。」
「そんな人間がいるわけがないでしょ!!!」
ごもっともである。
ちょっとばかり俺が自身の人間性に首を傾け始めてるところである。
しかし難しいかもしれないけどこればっかりはエリスちゃんにも自身の人間性をアピールしておかないとゴブリンとして今後も追われることは想像に難くない。セックスするためにこの世界にやってきて結局セックスしないままデッドエンドなんてのは避けたい未来だ。
「落ち着いてください。いずれにしても私は貴方に対して敵意などございません。そうでなければこのような街中でわざわざ人目に付くところで飲んでたりしませんよ。」
「・・・わかったわ。貴方の言い分を受け入れるわ。いずれにしても私の剣が貴方に効かないのであればどうすることも出来ないのだし。」
俺のことを人間として認めてくれたのか、単純に斬るのを諦めただけなのか判断に苦しむところだな。いや、後者だろうな。視線が未だに人間を見る目じゃないもんな。
そう言ってエリスちゃんが剣を鞘に納めて落ち着いたところ、ふと気になって周囲を見てみたところ、冒険者さんたちの俺を見る目が多種多様な感じになってる。
と言ってもほとんどの冒険者さんたちは気持ちの悪いものを見るような目で若干引き気味である。そりゃそうだ。
そんな中でも男性冒険者さんの数名は俺のちんこを凝視しながら口を開けたまま絶句、また極数名の女性冒険者さんは俺のちんこと顔を見ながらにやにやしている。
まぁわかるよ。
俺も高校生の頃、修学旅行の風呂で仲良しだった同級生のでっかいちんこを見たときは負けたって思ったもん。なんていうかこう、男として負けたって気がしたわ。勉強やスポーツでそいつに勝っても「でもこいつ、俺よりちんこ大きいんだよなぁ」って思ったもん。
そんな回想に耽っているといつの間にやら俺のちんこは元のサイズに戻っていた。
「そのイチモツの体積変化はどうなってるのよ。」
剣を置いて俺に近づいてエリスちゃんはそう言うと一瞥してカウンター席に腰を落ち着けた。
「私も本当に自分の身体のことながら不思議に思ってる次第です。」
「根元から切り落としてしまえば刃は通るのかしら。」
恐ろしい事を言うエリスちゃんだ。未だ自身の剣が通らなかったマイサンの討伐を考えているのか。
「さぁ、どうでしょう。私も試したことないのでわからないのですが流石に試したくはないですね。」
「ふぅん。」
後ろを振り返ると誰もかれもが俺から視線を逸らしてテーブルに座ろうとしている。なかったことにされるのがなんか辛い。
大丈夫。ブサメンはこういうの慣れてる。社会人時代にも優秀な成績を収めた時も周囲の同僚は拍手こそしてくれたもののイケメンがトップを獲った時にように声をかけてくれることは皆無だった。それもこれもブサメンなのがよくないことはわかってる。
「マスター、今夜は騒々しくしてしまってごめんなさいね。補填は必ずするから。」
「いや、客が怪我したというわけでもないし、商品がダメになったわけでもない。気にするな。」
近衛騎士様を前にこの様な口調は侮辱罪に当たったりしないのだろうかとも考えたがもしかしたらエリスちゃんが近衛騎士になる前からの知り合いなのかもしれない。そもそもエリスちゃんがどれだけ偉い立ち位置にあるのかもわからないしな。
「貴方にも謝罪をさせてちょうだい。見た目の気持ち悪さからあなたをゴブリン扱いしたこと、心から謝罪するわ。本当にごめんなさい。」
なんて謝罪が下手なのだろうか。気持ち悪いなんてのは学生以来そうそう言われることは減ったぞ。面と向かって言うのと言わないのでは全く受け取り方が違うぞ。
「いえ、こちらこそ、変なものをぶら下げてしまい大変申し訳ございません。私が女性だったとしたら多分似たような認識を持ってしまうと思います。」
何故に俺が大事なマイパートナーを悪く言わないといけないのか、これもまたブサメンたる所以だろうな。
きっとイケメンの巨根だったら話は違ったのだ。
顔で女の子を釣って巨根でおいしく頂くのだ。
そんな世界がよかった。
イケメンがよかった。
イケメンは全ての頂点に君臨している。
イケメンが右を向けば女の子たちも右を向く。
ブサメンが左を向いても女の子たちは気づかない。
何故ならブサメンは女の子の視界に入れてもらえないのだから。
ブサメンは飲んだ。それはもう飲んだ。
飲み放題をいいことにしこたま飲んだ。
「ちょ、ちょっと貴方大丈夫?もうそれ、何杯目?」
カウンターのエリスちゃんから心配されるの嬉しい。
こんなブサメンのことを心配してくれるなんて天使なんじゃないだろうか。天使ちゃんだろう。あ、でもこの子、さっき俺のちんこをガンガン斬りつけてきたな。悪魔ちゃんだ。あぁでも可愛い。こんなに可愛い悪魔ちゃん、小悪魔ちゃんでしょ。
ブサメンはおいしいカクテルに飲まれて思考が全然まとまらなくなってきた。
「エリスさん、私はね、不細工なんですよ。こればっかりはね、どうしようもないんですよ。」
「べ、別にそこまで言うほどの不細工とか思ってないわよ。私自身、そこまで顔の造形に自信があるわけでもないし・・・。」
「何言ってるんですか。私はエリスさんほど美しい方を見たことなんて今までの生涯で一度もありませんよ。」
べろべろになって普段言えないことが口から出てしまう。そもそもお酒の席で隣に女性がいたことがなかった。
「ゴブリン討伐依頼も取り下げてもらうから。貴方のその、ペ、ペニスに関しては何かあれば私が証言してあげるから。」
エリスちゃんの口から「ペニス」出ました。
「ちんこ」でも「イチモツ」でもなく「ペニス」です。
あぁなるほど、セクハラってこういう気持ちになるのか。なんだか無性にエリスちゃんにペニスって言わせたい衝動が沸いてくるな。
女性の新入社員が入るとまずセクハラ発言を連発してた部長の気持ちが今になってよくわかったわ。結局その部長は一人の新人女性社員に訴えられて会社を去ってしまったけど。噂によるとほかの女性社員の証言も含めて集団訴訟になって慰謝料は三百万円になったとか聞いたけど考え方によっては三百万円で若い多数の女性社員にセクハラができたと考えればこれはこれでアリなのかもしれない。
その時である。
どうやってエリスちゃんにもっと「ペニス」と言わせようかと考えていると店全体が大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴゴ・・・。
震度四くらいだろうか。
その場にいた冒険者、エリスちゃん全員が異変に気付きざわざわしだした。
「ギャーーーーーー!」
お店の外から何やら悲鳴が聞こえてきた。
揺れがおとなしくなったのを確認してまずエリスちゃんが飛び出した。
それから冒険者さんたちがぞろぞろとお店の外に出て行った。
俺自身はというとベロベロになっていたこともあり千鳥足で最後にお店の外に出ることとなる。
エリスちゃんを先頭に全員が上を見ている。
何事かと思い俺も上を見てみると
おぉ・・・。マジか。
あれ、ドラゴンじゃね?
体長十メートルはあろう大きさにその尻尾は体長の約半分くらいだろうか五メートル、両翼をみると横にやはり十メートルくらいはありそうなドラゴンが羽ばたきながら地上にいる我々を見下ろしている。
皮膚は全体的に深い緑色をしているようにも見えるけど夜ということも相まっていまいちわかりづらい。
って言うかやっぱドラゴンっているんだなぁ。
こういうのってゲームスタートから早い段階で登場するのも珍しくないもんなぁ。
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