巨根と店長
ヴァレリオが店長としてこの飲食店をオープンしたのは八年も前のことだった。
当初は飲食店というよりおしゃれなバーを経営したかったのだが店舗の周囲のバーの数や飲食店の数を考慮して飲食店のほうがニーズがありそうと判断しての今の店となった経緯がある。
しかしながらやはりバーのマスターへの憧れも捨てられず五年前に店内の一部をバーカウンターに改築した経緯がある。
飲み放題プランをもともと設定していたこともありこれが思いのほか、常連に喜ばれ売上も大きく伸びた。
今となっては料理やフロアの接客などは従業員に任せて自身はカウンターでカクテル作りとカウンター客とのトークだけをやっている。
年齢にして四十路を直前に控え、正に今までの努力が実を結び人生の絶頂である。
「あ、あなたっ!!そのイチモツはどういうつもりよ!!!」
エリスちゃんが俺のちんこを凝視したまま、椅子から立ち上がった。
右手を左側の腰に当てて剣を抜く動作をしているがその腰に剣も鞘も存在しないことから相当焦っていることがうかがえる。
「そ、その、そのの、そのイチモツは見覚えがあるわ!!この前草原で立っていたゴブリンね!!!どうしてこんなところにいるのよ!!!」
周囲のお客さんたちの目が一斉にこっちに向かう。
小さくなれ、小さくなれ、小さくなれ、小さくなれ・・・。
ダメだ。エリスちゃんのノーブラおっぱいが目の前にある。どうにもこうにも治まらない。
なんなら小さくなれと願えば願うほど、俺の愚息は血の巡りを活発にしているような気がする。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください。確かにちょっと私の性器が大きいことは認めますがそれだけでゴブリン認定はおかしいですって!」
なんとか説得しようとしてみるもエリスちゃんは全く以て聞く耳を持ってくれない。
「そんなイチモツを持った人間がこの世にいるとは思えないわ!!!」
エリスちゃんは完全に俺をゴブリン認定したみたいで近くのテーブルに立てかけてあった冒険者の剣を見つけると即座に走り出し剣を抜いてこちらに構えた。
やばいやばいやばい・・・。
エリスちゃんって近衛騎士なんだよね?絶対強いよね???
とりあえずステータスウィンドウプリーズ!
名前:エリス・ウェントワース
ジョブ:近衛騎士
Lv.75(処女)
HP:786/786
MP:40/40
攻撃力:548
防御力:869
体力:656
魔力:40
魔法防御力:756
美しさ:265
運:11
お強くいらっしゃる、全体的に防御力が高いのは近衛騎士というジョブから来るものだろうけど攻撃力も決して無視できない。っていうか運の低さが気になる。なんだか可哀そう。
でもこれはちょっといい事を知れたぞ。なんとかなりそうな気がする。
「エリスさん、繰り返しますけど落ち着いてください。私はれっきとした人間です。あなたと同じ言葉を話し、あなたと同じ食事を食べる、あなたと同じ人間なのです。それをゴブリン呼ばわりするのはさすがにひどくないですか。」
これを周囲のお客さんにも聞こえるように説明する。
エリスちゃんは両手で剣を構えたまま、俺を凝視してる。
なのでこれに加えてもう少し演説を続けてみよう。せっかくなら討伐依頼もここで却下してくれれば御の字だ。
「そもそも、私はほら、こうして冒険者ギルドに登録もしています。」
身分証を見せながら自身が人間であることを改めて認識してもらいながら頑張ってアプローチ。
「た、確かに・・・。けれどこれが本当に人間のイチモツなの・・・?」
やっとこさ、なんとか落ち着きを取り戻して会話が出来るようになった気がする。
「えぇ、まぁ私も確かにこれが通常の男性のそれとは考えておりませんがこればっかりは身体的特徴としてお伝えするしかありません。」
ここでやめておけばよかった。エリスちゃんのノーブラおっぱいを楽しんで討伐依頼も取り下げてもらえそうだし、ここでやめておけば誰も損はしなかった。
「そもそも貴方はそんなの多くの男性のモノを見てきたんですか?それほど経験があるようにはお見受けできませんが・・・。」
剣を元あったテーブルに立てかけようとしたエリスちゃんの目が完全にすわった。瞬きもせずにこちらを見据えている。
そのまま剣をもって構えるでもなく俺の下に跳んできた。
ヴァレリオがこのお店を経営して八年間、これまでも冒険者同士での喧嘩やお尋ね者の逮捕劇なんかざらに見てきた。
そんな出来事、この街だけでなくても結構な頻度で起こりえることだろう。冒険者同士の喧嘩で店に損失があれば冒険者ギルドが、逮捕劇などで発生した損失は国が補填してくれる。
つまりエリスとスズキの喧嘩なんか別段気にするほどのことでもない。
さっさとバックヤードにでも隠れたり、店の外にでも逃げたりすれば良さそうなものだ。
特にエリスは近衛騎士だ。
そうそう負ける姿など考えられないし、損害が発生しても間違いなく国が補填してくれるだろう。
しかしヴァレリオは逃げることも隠れることもしなかった。
出来なかったといっても差し支えないかもしれない。
その理由の一つにエリスの流麗な剣技が挙げられるだろう。
頭に血が上ったとはいえ、普段使っている剣でないとは言え、子供のころからずっと振っていた剣の太刀筋は素人目に見てもやはり美しかった。普段冒険者の剣技を見る機会があったわけでもないので誰と比較してどうこうというわけでもないのだがそれだけエリスの剣技は見る人を魅了するのだと思う。
またほかの理由に店にいる客、スタッフ、誰一人としてそこから動くことができずにエリス、スズキの攻防を見ている事が大きい。
その場にいた全員が無言で立ち尽くしている。
それもこれもスズキの巨根が原因なのである。
ヴァレリオは自分が今、何を見せられているのかがわからないでいる。
エリスの剣技を全てスズキが自身の巨根で受け止めているのである。
二人の表情を比較すればエリスは完全に頭に血が上っており全力で剣を振るっているのであろう、その表情は手加減など一切を感じさせない。スズキの表情はというと完全にエリスの剣筋を見切れていないことがわかる。そもそもその巨根が邪魔でエリスのことが見えているのかどうかもわからない。
ただ、ヴァレリオにはその巨根自身がまるでスズキを守る様に自意識を持って動いているように見えた。
この夜、この出来事が世界史の一ページ目に書かれることになるとは夢にも思わないヴァレリオであった。
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