6日目

「俺……私が仕事してる間に、たっっっぷりと愛を育んだようね?」


 晩飯の時間になり、半日にぶりに会った男バージョンキャシー博士は、顔を引きつらせながらそんな事を言ってきた。

 俺が言った事をきっちり守ってくれるその真面目な性格、とても好感が持てます……口調以外男だけど。

 そしてキャシー博士の手には山盛り天ぷら定食。

 確かに豪華にって言ったが、料亭とかで見る持ち手付きの竹籠に盛られている、ガチの天ぷら定食。

 諸々の気まずさから、左腕をさすり目を反らしながら、ふへへっと曖昧に笑ってみる。

 ブラインドを下ろしてから、手当たり次第スビと遊んでみた。

 まずはお触り。くすぐったり転がしたり、そんなのを飽きるまで。

 その後はキャッキャ走り出したスビを追いかけ、疲れて甘えてくるスビを持ち上げゆっくり揺れてやる。

 うん、育児! 

 しかし、そんなかいあってか、腕のマンドラゴラはいつ弾け飛んでもおかしくないほど、ぱんっぱんに熟し切っていた。

 間引いてあるからか、ここまで育っても不思議と痛くはないが、マンドラゴラが生えている周りの皮膚が、少しひび割れ本当の土のような見た目になっている。

 晩飯をテーブルに置いたキャシー博士は俺の前にしゃがみ込むと、記録用の写真を何枚か撮り、俺の皮膚の一部を採取していく。

 

「これだけ周囲の皮膚が変異しているなら、抜いても痛みは無さそうだな。試しに抜いてみるか、もう少し様子をみるか……」


 即刻素の口調に戻っているけど、今はツッコんだらいけない時だ。

 キャシー博士が確認するように、一番大きなマンドラゴラを摘まむと、少しだけぐりぐりと揺らす。

 すると、それまでスリングの中で大人しかったスビがてしてしとキャシー博士の手を払いのけ、俺の顔に貼り付く。


『マダ ダメ』

「ま、え!? 博士! 今スビが喋った!」


 顔面にスビを貼り付けたまま、半ばパニックになりキャシー博士の頭を鷲掴みにする。

 何に対して驚いているのか、目をまん丸にしたキャシー博士は、スビと俺を交互に確認する。


「う、ん……? 申し訳ない、聞いていなかった。なんて言っていた?」

「何で聞いてないんだよぉ! まだダメだってよ。スビ、お前凄いなー!」


 勢いでキャシー博士の頭をはたき、スビを思い切り抱き締める。

 凄いな新種のマンドラゴラ! 動いて鳴くだけじゃなくて、人の言葉もしゃべり始めたぞ!

 この感じだと、いつか人の食べ物も食べるようになるんじゃないか?

 試しにえび天を差し出してみたが、丁寧に押し返された。だよね、悪かった。

 

「こーぞーちゃんったら、なんだかんだちゃんとスビちゃんを愛してるのねぇ」

「博士、キャラがぶれっぶれだけど、どこ? がばがばスイッチ、どこ?」


 すっぴんでその満面の笑みやめて! こわい!

 キャシー博士は少し悩んだ後、端末にさらさらとメモしていく。

 内容は見せて貰えないけど、今日はやけに長く記録を取っている気がする。まぁ、スビが初めてしゃべった記念と、もうすぐ収穫出来る記念のダブル記念日だもんな。

 にしても、ここまで育ってまだなのか。

 腕のマンドラゴラを撫でながらそんな事を考えていると、腕のヒビ割れが大きくバリバリと広がった。

 一気に広がったからか、端の方はまだ変異していない所まで切れてしまい、少し血が出た。

 切り傷程度、そこまで痛いわけではないが、キャシー博士はすぐにポケットから麻酔と思われる注射器のセットを取り出していた。

 ちゃんと麻酔セット持ち歩いてくれてる! 感動で泣きそう!

 そんな事を思っていると、一番大きなマンドラゴラがもぞりと動いた。

 えっと視線を落とすと、スビが鉢植えから出てきた時のように、自分で体を揺らし、床に転げ落ちた。

 すぐにキャシー博士が抱え上げ、みんなでマンドラゴラをのぞき込む。


「あ……あぁあんんん!」

「おめでとうございます。元気な子です。名前はもう決めていますか?」

 

 泣き声の癖! 思考破棄の速度凄いなキャシー博士!

 

「最後のひと押しは、子どもへの愛情っと……」


 え、それ端末に記録してるんですか?

 泣き叫ぶマンドラゴラをゆらゆら揺らしながら、キャシー博士は真顔で端末を操作する。

 そうだ、腕……見たくないような見たいような、グロいのだけは勘弁してくれー! と、左腕を確認すると、変異した腕が少し凹んでいるだけで、肉ぱっくり骨こんにちは、みたいな惨状にはなっていなかった。

 とりあえず一安心。

 うずき出した左腕をキャシー博士にお任せして、俺は天ぷら定食に手を伸ばした。

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