第18話

「……あなた達いつもこんな豪華な部屋に泊まってるの? しかもあの買い物の仕方からして……セトって何処の貴族の子?」


 俺達は街で買い物を終えるとまたアリスのゴリ押しで高級な部屋に決まり一緒に部屋に入ったエニィは呆れた顔で俺に言ってきた。


「いや、ただの冒険者だよ。この部屋もあの買い物も元はアリスのおかげなんだ」


 俺はエニィの疑問に答えると仮面を取って柔らかいソファーにどさっと座った。


「へぇ〜結構かわいい顔してるのね」


 俺の素顔を初めて見て興味をもったのかエニィは俺のすぐ近くまで来てまじまじと覗き込んでくるので少し恥ずかしくなって横を向いた。


 ふぅ……街では結構目立ってたな。


 先程まで多くの人の視線をずっと受けて疲弊していた俺はぐったりと柔らかいソファーに埋まると目を瞑った。


 やはりエニィは誰もが知る有名人だった。色々な人に声をかけられ笑顔で話しているのを見るとエニィはかなり街の人に好かれているのだろう。それに加えて可愛すぎる幼女アリスに仮面を付けた俺が一緒にいるわけで目立たない方がおかしいか……そう思っているといつの間にか触れるくらいに近く俺の隣に座っていたエニィがおかしいと首を傾げていた。


「あれ? そういえば荷物はどこ? 結構買ってたみたいだけど」


「ん? ああ、異空間発動」


 俺はエニィには異空間の存在を明かしてもいいと判断した。直感的に信用できると思ったからだ。


「何これぇ‼︎」


 異空間に入ったエニィは大きく手を広げて大袈裟なほどに驚くと白い世界を見回していた。


「ここに俺達の荷物があるから。エニィも置いていいぞ」


「本当⁉︎ 嬉しい! もうカバンが重くてしょうがなかったの!」


 その言葉にエニィは俺の腕に抱きついて喜んだ。


 何故だろう……この子は人との距離が近くないか? 男にこんなに距離が近いと勘違いされるぞ……。


 何も置いていない棚を用意してやるとエニィは嬉しそうに自分の荷物を棚に置いていたがふと俺がダンジョンで集めた装備やスキル結晶などが飾られている台に目がいくと吸い寄せられるように移動していた。


「う、嘘でしょ……」


 エニィが俺が集めた武器や防具などを前にゴクッと息を呑んで立ち尽くしていた。


「どうした? そんなに珍しい物でもあったのか?」


 驚いて固まっているエニィの背中ごしに聞くとエニィが振り返り俺を見る顔は呆気にとられていたが徐々に詰め寄ってくると勢いよく捲し立てられた。


「ど、ど、どうしたじゃないわよ‼︎ こ、これ全部国宝級の装備じゃない‼︎」

 

「そ、そうなんだ、俺も凄いものだとは思ってたけどあんまりそこらへん詳しくないからさ!」


 俺は近距離で捲し立てるエニィの迫力に押されて少したじろいでしまった。


「私のお父さんが武器商人をしているからよく分かるわ」


 エニィは装備の数々を前に信じられない様子で見ている。


「どれも前に読んだことのある武器や防具の書物で目にした物ばかりだわ……うちのお父さんが見たら卒倒するわね……こんなの何処で手に入れたの?」


「禁断の洞窟って知ってるか?」


 それを聞いたエニィは先程よりも更に信じられない顔で黙り込んでしまった。必死に頭でその信じ難い事実を理解しようとしているのか少し間を開けて口を開いた。


「まさか……あのダンジョンから帰ってきたって言うの?」


「信じられないかもしれないけど本当なんだ」


「本当に貴方達って何者なの? でもこの装備を見たら頷けるか……あそこには昔有名な冒険家や国に選ばれた精鋭が挑んでいたけど誰ひとり帰って来なかったっていうし多分その人達の装備がこれなんでしょうね」


 そしてエニィは装備の中から女性用であろう綺麗な装飾が入った服を見つけると手に取って虚な表情で眺めた。


「綺麗……」


「そんなに気に入ったなら持ってっていいぞ」


「ええっ⁉︎ ……いいの?」


 まさか国宝級の装備をタダでくれると思わなかったのかエニィはまた俺に触れるくらいに迫ってくると本当かどうかを再確認してきた。


「ま、まあこれから危険な所に行くし…… ま、また死にかけられても困るしさ」


 それを聞いたエニィは大事そうに服をギュッと抱きしめると顔を赤らめてじっと俺を見ていた。


「会ったばかりなのにそこまで私の事を考えてくれて嬉しいわ……優しいのね。でもこんなに貴重な装備を簡単にくれるなんて……ハッ!」


 どうしたのだろう? エニィは更に顔を赤くして黙ってしまった。


「……どうした?」


 しかし俺の声は聞こえていないらしい……エニィはブツブツとひとりごとを言っていたので俺はそのまま放置して荷物の整理を始めた。


「まだ会ったばかりだけど命を助けてもらったし……顔も性格も好みだし……そこまで私を求めるなら……」

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