第17話

「どうやらアイナ達は無事に帰ってきたみたいだな……」


 買い物の途中で聞いた冒険者達の立ち話からアイナ達が昨日の夜に帰ってきた事を知った俺は胸を撫で下ろした。


「情報屋の話だと次はカタル街の近くにある洞窟か……また先回りしとくか、アリス今日の夜出発しよう」


「うん、じゃあお菓子もっと買わなきゃ!」


 そう言ってアリスは嬉しそうに5軒目の店に駆け込んで行った。


「まだ買うのかよ……異空間はお菓子だらけなんだぞ……」


 嬉しそうに走っていくアリスの後ろ姿を見ながら後に付いて行く俺の顔は自分でも分かるくらいに引き攣っていたと思う。


 そして夜になるとまだ明かりがまばらについた静かな街を背に俺とアリスは入り口を出て行くのであった。




「おい! 早くしろ‼︎ 」


 しばらく暗い森の中を歩いていると何やら緊迫した騒がしい声が聞こえ俺達はその場所に急いだ。


「エニィ様が重傷を負ってる!」


「しょうがない、置いて行くんだ!」


「そんな‼︎」


「ここでモンスターに追いつかれたら俺達も死ぬんだぞ‼︎」


「だがエニィ様はカイアス様の大事な娘なんだぞ! ここで死なせるのは……」


 俺は木陰から会話の主を見ると3人の男と横たわる女の子が見え女の子が苦しそうに唸り声をあげている横で男達が言い争いを繰り広げていた。


「俺は行く! 死にたい奴はここでモンスターが来るのを待っているんだな!」


 その内一人はそう言って奥へ行ってしまい残った2人の男もどうするか考えているようだった。


 ガサガサ


「ヒ⁉︎」


 獣だろうか草をかき分けるような音がするとふたりの男は青ざめた顔でその音の方を見ていた。


 グルルル!


 現れたのは鋭い牙を持ったモンスターだった。獲物を見つけたモンスターは口から涎を垂らしながらジリジリと間合いを詰めていく。


「ヒィ‼︎ だ、ダメだ‼︎ エニィ様すいません!」


「あ! 待ってくれ‼︎」


 ひとりの男は恐怖に耐えきれず逃げて行くともうひとりの男も悲鳴を上げながら逃げて行った。


「まさか⁉︎ 女の子を見捨てるなんて……」


 俺はそれを見て愕然とし、ひとりにされた女の子を自分に重ねてしまうと悲しい気分が襲った。


「助けないの?」


 隣にいたアリスにそう言われたのを合図に俺は気持ちを切り替えると木陰から飛び出した。


「ガァー‼︎」


 突然の来客に驚いたのかモンスターは俺に威嚇の雄叫びを上げ地面を蹴って迫ってきた。


「聖光の一撃!」


 カッ‼︎


「ギャフン‼︎」


 俺は使ってみたかった覚えたてのスキルを発動した。


 剣から光を纏った一撃が放たれ熱い熱線に焼かれるようにモンスターを消し去るとそこには何も残らなかった。


「凄い威力だ……ってこんなこと言ってる場合じゃないな」


 すぐにぐったりした女の子に近づき抱き起こすと怪我の状態を見た。


「これは酷いな……」


 多分上級でも治らないような怪我だったので持っていた極級回復薬を飲ませた。


「うっ……」


 キラキラと女の子の体から光が発すると傷口がみるみるうちに塞がっていき青ざめていた女の子の顔は徐々に穏やかなものに変化していった。


「凄いな……みるみる内に回復していく」


 極級回復薬の凄まじい効果を見せつけられた俺は驚くと同時に助かった事にホッとした。


「ギャー‼︎」


「た、助けて‼︎」


 ちょうどその時遠くから先ほどの男達だろうか数人の男の悲鳴が森に鳴り響いていた。


「仲間を見捨てた報いだな」


 俺は悲鳴を無視して女の子が目を覚ますまで見守る事にした。


「ん……」


「大丈夫か?」


 俺は腕の中で目を覚ました女の子に声をかけたが少し元気がない様子で視線を落としていた。


 まあしょうがないか……多分裏切られた事が原因か死にかけた事でショックを受けていると言ったところだろうな。


「助けてくれてありがとう……私はエニィって言うの」


 エニィという同い年位の少女がそう言うと俺の腕から離れて立ち上がったのでとりあえず街まで送ろうと声をかけた。


「カタルの街までなら送るけど……」


「送ってくれるの?」


「ああ」


 俺はそう答えアリスに目で合図すると街の方向に向かって歩き出した。


「ねえ! 名前はなんて言うの!」


 エニィは少し笑顔を見せると慌てて俺達の後を追ってきた。


「……セトだ」


「わたしアリスよ!」



 カタルの街に向かっていた俺達だったがエニィはその間俺達に色々な質問を投げかけてきていた。


 何処からきたのか? 何者なのか? 旅の目的は? などなど、俺は適当にはぐらかしていたが街に着くとエニィは突然付いていくと言い出して俺を困らせた。


「ねえ! 私も連れてってよ!」


「ダメだ。俺達は各地の高難易度ダンジョンに潜るんだよ」


 正直俺はレベルが200を超えアリスも尋常じゃない強さを持っていた。だから幼い子供だとしても守り切れる自信はある。でも俺は心のどこかで仲間はいない方が楽だという考えができていた。


 もうあんな思いはしたくないとそれほどまでに自分の居場所と信じたパーティからひとり出された事がトラウマとなって俺は人とあまり関わりは持ちたくないと思うようになっていた。


「私も行くわ!」


「戦えないだろ? そんな優しい場所じゃないんだよ」


「少しは戦えるし、それに私を連れて行くといい事があるわ!」


 俺はどう言えば諦めてくれるのか頭を悩ませていたがエニィはそんな俺に引き下がろうとせず自信満々にそう言ってきた。


「いい事ねぇ……」


 俺は疑うような態度を取るとエニィは少しムキになって捲し立ててくる。


「信じてないわね……私はあの有名な英雄の末裔カイアスの娘よ!」


 俺はその人物の名前を知っている……この世界でも知らない人はいないくらいな有名人だった。


 昔から語られる男ガイアは幾つものダンジョンを制覇した伝説を持ち、更に人々を苦しめていたモンスターを幾つも倒して平和をもたらした英雄とされ世界中を旅した後この地で生涯を終えた。その子孫が今カイアスという名前で生きていると。これが俺が小さい頃に何度も聞かされた話だ。


「確かに凄い人の子供だって事は分かったよ。それを聞いたら尚更危ない旅に連れていくのは……」


「お父さん顔が広いからこの先色々助かるわよ? それに私お料理も得意なの! 道中の食に困らないわよ? ほら、このお菓子も私が作ったの」


 俺が言い終わる前にエニィは仲間にする利点を畳み掛けてくると美味しそうなケーキをゴソゴソと鞄から取り出した。


 じぃー!


 そのケーキにアリスの目が釘付けになっているのを見た俺はマズイ……と心の中で焦った。


「美味しそう……」


「食べる?」


「パクパク! モグモグ! ゴクン! ……わぁ〜!」


 エニィから受け取ったケーキを一瞬でお腹に収めたアリスは言葉にならない声を上げるとキラキラした目で俺に訴えている。


「エニィも一緒に行く!」


 見事に餌付けされたアリスはエニィの腕にしがみつき俺を見る目は圧をかけているようだがそれがまた可愛いかった。


「ぐっ! アリスには逆らえん……もう好きにしてくれ」


「「やったー!」」


「全く……」


 エニィがアリスと一緒にジャンプして喜んでいるのを見て俺はやれやれと乗り気じゃない態度をとったがそれをみたエニィがこちらへ来るといきなり俺の腕に自分の腕を絡めて上目遣いに俺を見た。


「あら、こんなに可愛い子と旅ができるのよ? 本当は嬉しいくせに!」


 よく顔を見ると確かに可愛らしい顔をしていたが俺は同じくらい綺麗な顔のアイナやウェンディとずっと一緒にいたから特にドキッとはしなかった。


「さ、行くぞ」


 俺はサッと絡められた腕を解くと一足先に街に入って行った。

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