第16話
次の日も私達は昨日の地震で寝不足になり疲れが溜まっている体にムチ打って必死に奥へとダンジョンを進んでいた。
「はあはあ! 次から次へと!」
ガドインは次々に湧き出るモンスターに苛立ちを見せている。すでに疲労はピークに達しているようで敵の攻撃を盾で受けるのに精一杯の状態に見えた。
「もう魔法も後一回が限度だ!」
「私もそろそろ限界です!」
そう言うアロンズとウェンディも疲労で顔が青ざめていた。ふたりとも立っているのが精一杯なのか杖にしがみつくようにして立っている。
「皆んな頑張って! 後は私が‼︎」
私はそう叫んで最後のモンスターをスキルで倒すと皆は極度の緊張感から解放されたからか力が抜けるようにその場に崩れ落ちた。
「はあはあ! や、やっと終わりましたね……」
苦しそうな表情を浮かべウェンディがもう動けないといった感じで何とか口に出したようなかすれた声だった。
「あ、あれを見ろ!」
ガドインの嬉しさが混じった声に私の視線は動きガドインが指を差した方向にある大きな扉を捉えるとほっとして力が抜けていく。
「やっと着いたのね……」
やっとの思いで辿り着いたものの扉を前に私はくたくたで立ち上がることが出来なかった。
「聞いた話では装備を守っているモンスターがいるらしい……」
「……」
ガドインの言葉は最下層に辿り着いた喜びを一瞬にして消し去り私に重くのしかかった。
ウェンディとアロンズも言葉を失い不安そうな表情で扉を見ている。
やっとここまで来たのにこの扉の先にいるボスモンスターがこれまでのモンスターよりも強いと思うと逃げ出したくなるほど道中では私達の精神と体力を疲弊させていた。
「……今日は安地で休みましょう」
ウェンディの疲れた元気のない声は皆の状態を表しているようだった。ひとりまたひとりと無言で立ち上がると安全地帯へと場所を移動していった。
夜になると私達は焚き火を囲んでいたが皆無言で火のパチパチという音だけが鳴っていた。
「明日のボス戦は慎重に行くぞ。まだどんな攻撃をしてくるか分からないしな」
そんな沈黙を破りガドインが話し始めると私は顔をあげガドインを見る。ちょうどウェンディとアロンズもそうして耳を傾けていた。
「そうですね……初めて戦う敵は行動をよく観察して行動パターンを予測するって、あ!……」
ウェンディは自分の言った事にハッとなり口をつぐんだ。
「ごめんなさい……」
ウェンディは謝ると下を向いてしまった。
私は何故ウェンディが謝ったのかすぐに分かった。それはリアンが口癖のように言っていた事だと気付いたからだ。
他の二人も気付いていたのか何も言わなかった。
「……もう寝よう」
アロンズが雰囲気が悪くなるのを感じたのか一言で締めるとその場はお開きとなり皆寝床へと入って行った。
次の日……本来ボス部屋だったであろう場所に困惑した表情を浮かべた私達は茫然と立ち尽くしていた。
「おかしいわ……何故モンスターがいないの?」
何もいない部屋を見回し死闘を覚悟していた私は不審に思いながらまだモンスターがいる可能性を捨てきれずに剣を構えていた。
「装備を守るモンスターがいるってのはデマだったのか……」
ガドインもまだ信じられない様子で武器と盾を構えたまま周囲を警戒している。
「いえ、見て下さい」
ウェンディは歩いて床が歪み穴が空いている場所に移動するとしゃがみこんだ。
「これは最近戦闘が行われた跡です。恐らく何者かがここにいたモンスターを倒したのでしょう」
その言葉を私は信じる事が出来なかった。私達より早くここに辿り着きボスを倒すパーティなんて……これまで街やダンジョンで色々なパーティを見てきた上で正直この世界に自分達より強いパーティがいると思っていなかった。実際に深淵のダンジョンでは自分達が一番奥に進んでいる。
「信じられないけどそんなに強いパーティがいたのね……」
私は自分達の力を過信していたのかもしれない……事実は受け止めないと。
「このダンジョンはかなりの高難度だ、帰ったらそのパーティを探そう」
このガドインの言葉にウェンディとアロンズが頷くのを見ても私は頷くことができず乗り気になれなかった。自分達だけでこの旅を成功したかったから……でもそれは甘い考えなのかもしれない。
「そうですね、力を貸してくれるかもしれません」
「じゃあもう帰ろうか、疲れたよ」
こうして私達は死闘を回避すると無事に勇者の装備である兜を手に入れた。
その後一日かけてダンジョンから帰還して街に戻るとギルドでは無事に戻った私達を多くの冒険者による歓声が出迎えた。
「よくぞ戻って来てくれたな! さあ祝いをしよう!」
ギルドに急遽準備された会場には街から貴族や著名人が参加して豪華な料理が所狭しと並び私達のダンジョン攻略を祝う宴が始まった。
宴が始まると早速隣で笑顔を見せるギルド長に話しかけた。あれからあのボスモンスターを倒したパーティが気になって仕方がなかった。
「すいません、実はあのダンジョンのボスモンスターが倒されていたんです……」
「な、何と!」
「なのでその倒したパーティの人に会いたいのですが……」
私の言葉にギルド長は信じられないという表情を浮かべ頭で該当する冒険者や高レベルの者をリストアップしているのかしばらく目を瞑り考え込んでいた。それが終わると目を開け険しい顔で私を見る。
「いや、あのダンジョンに行ける者はこの街にはおらんよ」
それを聞いた時何故かホッとした自分がいた。もし本当にいたのならその人達が勇者をやればと思ってしまうから。
「え……」
「そんな事ができる者がこの街に来ていれば相当な有名パーティだろうしな。今の所そんな話も噂でさえ来ていない……」
「じゃあ一体誰が……」
何故私達を助けるような事を密かにやっていたのか知りたい……旅の合間にそのパーティを探そう。
アイナ達がいる大陸で密かに活動を続ける者達がいた。
「報告します。東の勇者が一つ目の装備を手に入れたそうです」
「……ほう? あいつを倒すとはなかなかやるな」
「はい、まさかこうも簡単に倒されるとは思っていなかったので次はもっと強いモンスターを配置しておきます。次に北の勇者ですが……」
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