第4話
「な……何でだよ‼︎ 今まで一緒にやって来たじゃないか‼︎ 昨日だって……」
俺はまさかの事に信じられず驚きを隠せなかった。思わず声を荒げてアイナに詰め寄っていた。
「リアンも知っているでしょ……装備があるダンジョンは今までより強いモンスターがいるの! あなたに死んで欲しくないのよ……お願い……」
俺は混乱とショックで訳が分からなくなっていた昨日皆であれほどやる気で盛り上がっていたはずなのにここに来て突然の解雇通告だ。
「そうかよ……レベルの低い俺はただのお荷物って事か」
長時間のレベリングで疲れ果てた体と精神にのしかかる悔しさでついキツイ言葉で返してしまったがアイナは何も答えてくれない。ただ下を向いて黙っていた。
「くそ……」
もう何も考えられない、言葉も出なかった俺は雨が降る外へと飛び出して行った。
人もまばらな道をいつの間にか強さを増した雨に打たれながらどこに行くあてもなく走り続けた。そうせずにはいられなかった。
ふと気付くと無意識のままに、まだここに来たばかりの頃よくアイナと野宿していた思い出の場所に立っていた。
「俺……何の為に今まで必死にやってきたんだろ……」
あの楽しい日々が終わると思うと生きている意味すら無い……俺にとってそのくらい大事な場所であり唯一の心の拠り所だった。
「ううっ……うあぁ……」
俺は言葉にならない呻き声をあげてアイナに心配されて置いていかれる自分の弱さを初めて呪った。幾ら努力しても報われなかった結果残ったのは絶望だった。
頬に伝わる雨とは違うもの……それは次々と目から溢れて流れていく……。
「ぐぅ……わあぁ〜〜‼︎」
気の済むまで泣き喚き散らした……大雨の音にかき消されないくらい大きな声で……。
バタン
ボス!
どれくらいの時間経ったのか、ずぶ濡れの身も心もボロボロの状態で部屋に帰るとそのままの格好でベッドに体を投げた。
何かをする気も考えることも出来なかった……いや、したくなかった。
チュンチュン
鳥の鳴き声に目を醒すといつの間にか朝になっていたのに気付く。眠ったのかすら思い出せず頭痛を抱えながら体を起こした。
パーティから解雇され孤独になった現実が信じられなかった。いつもなら今日の攻略を考えながら朝飯を頬張る清々しい朝が今日から無くなると思うとこれからどうしたら良いのか……色々な考えが頭を駆け巡り俺は人に言えば必ず止められるような結論を出した。
結論を出した後はそれを実行する事だけが頭を支配し体を動かす。そのまま立ち上がると体を引きずるように部屋を出て行った。
「おお! リアンじゃないか! 死んだような顔してどうしたんだ?」
俺に声を掛ける顔見知りの冒険者の声でも何も答える気になれなかった。そのまま足を止めずに素通りして行く。
「なんだよあいつ」
「あいつアイナにパーティを追い出されたらしいぜ」
「マジかよ! そりゃあんな風にもなるか」
「いいざまだぜ!」
背中に同情や嘲笑う視線が集まるのが分かったがそれすらもうどうでもよくなっていた。
俺はいきつけのボロい武器屋に入ると相変わらずの大きな声が頭に響いて思わず目を閉じた。
「おお! リアンじゃねえか! 何死んだ様な顔してんだぁ? アイナと喧嘩でもしたんか?」
「ちげぇよ」
豪快に笑う中年の男はまだこの街に来たばかりの頃まだ右も左も分からない俺とアイナに武器を与え援助してくれた。それからは心の休まる場所としてよくここに来るようになっていた。
「今日は何の用だ?」
「色々と装備が邪魔で引き取ってもらいたいんだ」
俺はダンジョンで手に入れた使わない装備を今まで倉庫にしまっていたがどうせ死ぬなら処分しておくかと大きな袋に詰め込んでいた。それをカウンターにドサッと置いた。
「おいおい、こんなにいっぱい溜め込んでいたのかよ! こんな貧乏武器屋に全部は無理だぞ⁉︎」
親父は大きな袋に入った数々の装備を覗きながら驚いた声を出して俺に言った。
「金はいらないから引き取ってくれ、いつかの俺のような冒険者になりたてで困っている奴に譲ってやってくれ」
「ほんとにどうしたんだ? 今日のお前は変だぞ?」
親父が少し下に目線を落とす俺の目を覗き込もうとしたので素早く振り返った。
「んなことねぇよ、じゃあな」
入り口まで歩いて行くと少し後ろを振り返ってがらにもなく少し心配そうな顔をする親父に別れを告げた。
「おっさん……長生きしろよ」
「あん? なんか言ったか?」
バタンと入り口の扉を閉めると近くにある道具屋へ入って行った。
いつからだっけ……。
俺はある場所へ向かいながら過去を振り返っていた。
この街に流れ着いた俺とアイナは冒険者になって生きるのに精一杯だった。1年経ってある程度戦闘にも慣れてきた時期だったアイナのレベルが急激に上がりだしたのは。
3年前ふたりは同じレベル30だった。でも1年が終わる頃には俺がレベル40だったのに対してアイナは80を超えていた。わずか16歳で80を超えたアイナは特別な存在となりそれが話題になると瞬く間に有名になっていった。
その時に言われたんだよなアイナに……この世界でモンスターに困っている人達を救いたいって……。
俺はその時心に決めたんだアイナの力になりたいって。だから毎日のように夜中にこっそり宿を抜け出してレベリングをやったさ……それでもレベルは引き離されていくばかりだった……。
見返すだ? 何言ってんだ俺は……そんなのパーティにいたいだけの口実だ、その言葉にすがっていただけじゃないか……。
自分を責めつつ歩いていた先にそれは見えた。
この街の近くには深淵のダンジョンと同じくらい有名なダンジョンが存在する。それはこの世界でも唯一入ったら二度と生きて出られないと恐れられているダンジョンだった。
その昔そこを攻略しようと名のある冒険者や歴代の高レベル剣士に魔法使い達がパーティを組み洞窟に挑戦していったが帰ってくるものはいなかったそうだ。
やがて事態を重く見たギルドは洞窟を閉鎖しそれからそこは「禁断の洞窟」と呼ばれている。
入り口には誰も入れないように柵が施されて看板も掲示してあったけど俺は中に入る方法を知っている。一時期興味があり、情報屋から絶対に入らないという条件でその方法を買っていた。
洞窟の前に着くと躊躇いもなく柵を飛び越えた。
ある冒険者は木陰からその様子を見ていた。たまたまリアンを見つけ後を追ってみるとあろう事か禁断の洞窟に足を踏み入れていた。その意味は死しかなかった。
「馬鹿野郎が……」
冒険者はそう吐き捨てるとその場を去っていった。
そしてもうひとりその様子を木の上から見ている者がいた。
「ククク……これは手間が省けたわ」
リアンが洞窟に入るのを確認するとニヤッと口元を緩ませ姿を消していった。
「報告します。予定通り東の勇者パーティからリアンという男を引き剥がしました」
「随分と早かったな」
森の奥にあるボロボロの一軒家では男達が話していた。
「クク、人間とはもろい生き物ですなぁ、それがたとえ勇者でも……不吉な夢を見せて不安を煽っただけであんなにもあっさりと切り離すとは……」
「人間など数が多いだけの弱き存在だ」
「それにしても別にあの男を引き離さなくても問題ないのでは?」
「この国で一番強い奴らと聞いてしばらく見張って戦闘を見ていたがアイツは頭がキレる。奴がいなくなれば勇者パーティは上手く連携が取れないはずだ……始末はしたのか?」
「いえ、レシナの洞窟に入っていったので死んだも同然でしょう」
「あの洞窟か……絶望に落ちて自ら死ににいくとは哀れな」
「まったく……こんな裏でコソコソしないでも我が魔族の精鋭がくれば一瞬で解決するんですがね」
「今はまだこの大陸に我らがいる事を悟られるわけにはいかないのだ……それに他の大陸を侵略している最中だからな何かと上も忙しいのだ」
「ではこれから勇者パーティが向うダンジョンに強力なモンスターを配置します。奴なら勇者程度容易く倒せるでしょう」
「ククク、これでこの国は片がつくな」
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