第2話

 二日前のあの日……。


 アロンズへの抗議が終わり少し肌寒さを身に染みながら歩いていると人が賑わう夜の街カーネリアが姿を現しその街の暖かな光が俺の疲れた体に安らぎを与えた。


 ガヤガヤ……。


「おお! 見ろよアイナだ! 相変わらず可愛いな〜」


「今じゃこの国一番の冒険者だからな! それに後ろの仲間も強者揃いだし、この国どころか世界で最強のパーティかもしれんぞ?」


 冒険者達の横を通りすがる時にいつも聞く会話だった。


 アイナはいつものように街の人々から羨望の眼差しを受けていた。その後ろを誇らしげなガドインにいつもの何を考えているか分からない無表情のアロンズと澄ました顔のウェンディ。そして俺なのだが……。


「ただ……アイツはいつまでパーティに入ってるんだ? そんな強くないのに羨ましいぜ」


「いいよなぁ、まあその内付いていけなくなって見限られるんじゃないか?」


 アイナとは別の意味での羨望の眼差しを受けて歩いていた(主に男達からだが……)。


 いつものようにヒソヒソと俺に非難の声と冷ややかな視線が突き刺さるのは俺がこのパーティで唯一レベルが30も低いからで、周りからはお荷物やら足手まといだと言われていた(これも男達からだ)。


 見てろよ……絶対に見返してやるからな!



 視線の先に行きつけの酒場が見えてくるとさっきのモヤモヤした気持ちが我が家に帰る穏やかな気持ちに代わり今日は何を食べようか頭の中で店のメニューを開きながら歩いていった。


 深淵のダンジョン目的で多くの冒険者達が集まるこの街でど真ん中に位置する店。その名も「深淵にゃん亭」と恐ろしく呼びにくい名前だが出される料理はどれも美味しく他にはいけない体にされてしまったので今日も当たり前のように俺達の足は勝手にそこへ向かっていくのだった。


 夜になるとダンジョンから疲れた体を引きずり帰ってくる冒険者達。その時間が一番賑やかとあって今日もにゃん亭の中は良いことがあったのか、それともただ酒でいい気分になったのか大きな笑い声がそこら中で止む事なく絶えず飛び交っている。


 空いているテーブル席に座り早速料理を注文して待っているとアイナはもちろん他のメンバー(アロンズ除く)も周りから声をかけられていた。


「あ! リアンこの前のこと考えてくれた?」


 テーブルに肘をついて料理を待っていた俺に後ろから声をかけたのは他のパーティの女の子アルルだった。そういえばこっちのパーティに来ないかと誘われていたんだった。


 ふふん! こんな俺でも結構パーティから誘われる事はよくあるのだ! 多分レベル帯が俺と同じくらいの冒険者が多いからだろうけどな、俺が弱いんじゃない! 他のメンバーが凄すぎるだけなんだからな! そう自分に言い聞かせて周りの非難の声から逃げている事もまた事実ですがなにか?


「あー、ごめん今のパーティで頑張りたいんだ」


「でもレベル差がすごいんでしょ? 私達のパーティだったらちょうどいいじゃん。それに……辛いでしょ? 色々……」


 アルルが言いたい事は分かっている。俺はこのパーティが有名になればなるほど周りからは蔑まされ相応しくないと言われていたが俺はそれに抗うことにしたのだ。


「その内見返してやるさ」


「リアンがいたら助かるのになぁ……ヒィ!」


 まだ引き下がらろうとしないアルルは突然の悲鳴に恐怖の表情を浮かべ視線は俺ではなく俺の背後を見ていた。そうまるでボスモンスターにいきなり出会したような感じだ。


「どうしたの?」


「あ……じゃ、じゃあね!」


 俺は首を傾げて訊くと女の子が逃げるように一目散に走っていったので後ろが気になった俺はくるっと振り返った。


「リアンご飯来たよ!」


「リアンさん食べましょう!」


 そこにはボスモンスターではなく笑顔のアイナとウェンディがいた。



 

 リアンに声をかけたアルルは逃げるように酒場から出て行くと、はあはあと息を切らして先ほどの恐ろしい光景を思い出して身を震わせた。


「あー怖かった〜 アイナとウェンディの顔……殺されるかと思ったわ……」



 酒場で腹も満たされ美味しい料理の余韻に浸っていた時どよめく冒険者達の声と重苦しい空気が俺の視線を入り口に向かわせていた。


 なんだろ?


 ガチャガチャと音をたてながら重そうな銀色の鎧を着た者達。この辺りを収める国の兵士がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。そして先頭の隊長であろう男が兜を取るとアイナの前で跪いた。


「アイナ殿、カーライル王より是非頼みたいことがあるので謁見をお願いしたいと伝言を受けやって来ました」


 それを聞いたアイナは驚いた様子だった。少し考える素振りを見せてから答えを返した。


「分かりました……明日伺います」


「では明日お迎えに上がります」


 使命を終えた隊長は立ち上がると目で部下に合図を送りまたガチャガチャと音を立てながら去って行った。辺りはまだざわつきが収まらない状況で、雑音が聞こえる中アイナが俺に近寄って来ていた。


「何の用かしら?」


 アイナは少し緊張した声で俺に訊いてくる。


「分からない……」


 それしか言えなかった。王から呼び出されるなど余程の事だ……俺は今の楽しい生活が脅かされるような気がして心の中では気が気でなかった。





リアン レベル52 戦士 中級攻撃系スキル 


アイナ レベル105 魔法戦士 上級攻撃系スキル


ガドイン レベル 90 防型戦士 上級防御系スキル


アロンズ 魔法使い レベル85 上級攻撃魔法


ウェンディ 神官 レベル86 上級治癒魔法・上級補助魔法

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る