パーティ解雇の絶望から死のうとした俺、美少女達に救われ暗躍します!
尚太郎
第1話
人、モンスター、魔族が存在するこの世界には数々の洞窟(ダンジョン)が存在し4つの大陸からなっている。
これはそのひとつであるグラトリナ大陸から始まる物語である……。
「急げ‼︎」
ダダダダ!
バァン!
グラトリナ大陸の東に位置する洞窟の入り口から3人の男が走って出てくると最後に出てきた男は勢いよく扉を閉めそのまま背をつけて座り込んだ。
この世界は突如現れた破壊者によって街や国が破壊され人間や屈強の魔族さえも恐怖していた。
それを止めるべく集まった人間と魔族による精鋭達が今まさに破壊者との激闘を制し封印する事に成功したのだった。
「はあはあ! な、何とか封印できたな……」
白銀の装備を纏う若い人間の男はもう立ち上がることもままならない様子で息を切らしながら硬い地べたに両手をついた。
「く、何故だ……何故なんだレシナ‼︎ 何故世界を……」
豪華な装飾が施された黒い服を着た若い魔族の男は黒い剣を地面に突き刺すと項垂れ愕然として受け入れ難い事実に打ちのめされていた。
「ラセンよ今更考えてもしょうがあるまい」
こちらも見事な装飾がなされたローブを着た老人は項垂れた若い魔族の男にそう言葉をかけると視線を空に移し祈るように呟く。
「……レシナよアロントと一緒に安らかに眠っておくれ……」
世界が平穏を取り戻してから1000年……災いは息を潜め復活の時を待っていた……。
「渾身の一撃!」
淡い緑色の光を帯びた剣がモンスターの急所めがけて一直線に飛んでいく。
ザク‼︎
「グォォ‼︎」
モンスターは背中にある心臓に剣が刺さると断末魔を上げながら崩れ落ちるように倒れピクリとも動かなくなった。
「ナイスよリアン!」
パァン!
俺は弱ったモンスターに愛刀の騎士剣から繰り出したスキルでトドメを刺すと幼馴染であるアイナとハイタッチして勝利を喜んだ。
今俺がいる「深淵のダンジョン」と言われるこの世界でも有数の階層が深い地下洞窟56階では先程まで騒がしく戦闘音が鳴り響いていたが一通りのモンスターを片付けると薄暗い岩で囲まれた洞窟内は喜ぶ俺達の声だけがこだましていた。
「そろそろ切り上げるか?」
腰に下げた布袋を開けると入っている回復薬が少なくなっていた。それを退き時とみた俺は長く綺麗な髪を掻き上げるアイナに話しかけた。
「そうね……皆んな今日はもう上がるわよ!」
アイナは俺の提案に頷くと剣を鞘に収め他のパーティメンバーに向かって声を上げた。
「おう! ふう、今日も酒場の酒がうまそうだ!」
兜を取ると短い髪に彫が深い顔立ちが姿を現し、その顔に似合った野太い声で話す男。重そうな鎧を着込むガタイの大きい男は重装ガドイン。コイツはかつては国の兵隊をまとめる隊長だった。たまたまダンジョンで俺達と居合わせた際アイナの強さに惚れて兵を辞めると半ば強引について来たのだ。かなり防御が硬くパーティの重要な盾となって貢献している。
軍出身なのでカタブツなところはあるけど言っていることは筋が通っているし年齢も俺達より10個も上だから今や頼れる兄貴的な存在だ。
「もう終わりかい? フッ僕の魔法でまだまだ倒せたのに」
涼しい顔で話したコイツはナルシスト男魔法使いのアロンズ。何でも有名な魔法使いの弟子らしくかなりの高ランク魔法が使える。その自信からか端正な顔立ちも相まって自分に酔う場面も多いが悪い奴ではない……と思いたい。
それは何故かというと、ちょくちょくモンスターと一緒に俺を範囲魔法で巻き込む悪趣味があり俺が猛抗議しても金色の綺麗な髪をかきあげながら涼しい顔をして「あ、ごめんごめん気づかなかったよ」と平謝りをするのだ。まあそのやり取りで皆の緊張がほぐれて力みが取れている事実はあるが他にも方法があるだろと言いたい。
もちろんコイツも魔法で倒しやすいモンスター戦には居なくてはならない存在だ。
「では戻りましょう……先程レベルが上がりました。これで新しい魔法が習得できそうです」
歳は俺と同じなのに待望のレベルアップにもはしゃがず大人のような落ち着いた喋り方をするのは僧侶のウェンディ。回復魔法はもちろんお手のもの、それに加えてパーティ全体の攻撃力や防御力を上げる魔法も所持している為パーティに欠かせない存在となっている。
最初の頃は綺麗な顔立ちを少しも変えることなく俺やアロンズから避けていたウェンディだけど徐々に話すようになったし笑顔も見るようになった。たまに突発的な出来事による動揺から素なのか幼い女の子のような反応や可愛い仕草をするのが面白い。
そう、皆んなアイナの強さに惚れて付いてきた仲間達だった。そのアイナといえば見た目の美しさとレベル100を超える冒険者でこの国では誰もが知っている有名な冒険者だ。数年前は俺と大差ない冒険者だったのに段々と才能なのか隠されたスキルなのか俺との差がどんどん開いていき気付けば世界でも一握りとされるレベル100を超えていた。
ダンジョンから出ると辺りは既に闇が覆い尽くし、きらきらと星が散りばめられている夜空を見上げた。
「アロンズ……また俺を巻き込みやがったな!」
戦闘から解放されたところで俺は最近定番となっていたアロンズへの抗議を始めた。
「あれ? 今日は大丈夫だと思ったんだけどなぁ」
アロンズはまるで知らなかったかのように返してきたがいつもの涼しい顔はやや引き攣っている。
「嘘つけ! ニヤニヤしてたの知ってるんだからな!」
「あはは! リアンのリアクション面白すぎるんだもん! もう私達までクセになっちゃったわ!」
アイナは俺達のやり取りを見て大笑いしていた。
「ダ、ダメですよアロンズさん……リ、リアンさんが可哀想じゃないですか……」
普段表情をあまり変えないあのウェンディが吹き出しそうな顔を必死に隠しているように見える。
「ガハハ! そういうお前も腹を抱えて笑っていたじゃないか!」
ガドインのツッコミにウェンディはサッと後ろを向いてしまった……きっと笑っているに違いない。
「……ったく皆んなして」
この言葉とは裏腹に俺はこの和気あいあいとした雰囲気が大好きだった。この頼もしい仲間達とダンジョンを少しずつ進んで挑戦していく楽しくてたまらない毎日が愛おしく、これからもずっと続いていくのだとそう思っていた……。
「……」
殺風景なダンジョンの中で回復薬も無い絶望的な状況……傷だらけの体を壁にもたれかけながら俺は幸せだったまだ間もない二日前の事を思い出していた。
ずっと続くと思っていたこの幸せな毎日が突然終わるなどこの時は少しも思っていなかった。
俺は過去に故郷と共に両親を失うという絶望を味わいそれを乗り越えたからこそ今の幸せが来たのだと信じていた。でも現実は残酷で、再び俺は絶望に落とされ殺風景な冷たいダンジョンの中ひとり寂しく生涯を終えようとしていた……。
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