第16話 文久3年9月16日
零と再会して、約一月が経った。
零は勇の計らいにより、浪士組に入る事となった。
歓迎会をしたかったが、一月前に芹沢が小料理屋を燃やした事が問題となり、浪士組は慌ただしくなっていた。
そして、今日の9月16日、屯所の近くの小料理屋で昼から歓迎会をするのだ。
芹沢が参加するのを聞いて、鈴音は零に危害が来るのではないかと不安だが、歳三がいる限り大丈夫だろうと思っていた。
そして、今朝。
鈴音は今歳三に呼ばれ、歳三の前に座っていた。
「鈴音、芹沢さんの件だが…」「はい。その説は申し訳ありませんでした。」鈴音は頭を下げた。
処罰は避けられないのかもしれない。
鈴音は恐怖に、ぎゅっと目を閉じた。
すると、頭をくしゃっと撫でられた。
鈴音は驚いて、頭を上げた。
「悪かった。俺の配慮が足らなかったんだ。芹沢さんには、鈴音の事が耳に入らないようにしていたが、偶然にも隊士の会話が耳に入ってしまったらしい」敬意を説明する歳三は、申し訳なさそうに目を伏せていた。
初めて見る、歳三の表情に鈴音は戸惑いつつ、「いえ、土方さんがそこまでしていただいて、嬉しいかぎりです」と返した。
歳三はフッと口元を緩ませると鈴音の頭に包みを置いた。
鈴音は驚いて、包みを手に取った。
「これは?」「菓子だ。後で食え」歳三は素っ気なく答え、部屋を後にした。
すると、次は勇が笑いながら部屋に入ってきた。
「近藤さん!!」何ヶ月か振りに会う勇に、鈴音は目を輝かせた。
「久しぶりだね。鈴音お嬢さんそんなに、目を輝かせて、私に会いたかった?」勇はからかったつもりだが、鈴音は嬉しそうに「もちろんです」と頷いた。
「君は不思議な子だね」勇は気恥ずかしくなり、額に手を当てた。
そして、鈴音が手にしている包みを見て、笑いが零れた。
「その菓子、歳君必死に選んでたんだよ。」勇の説明に、鈴音は目を丸くした。
「歳君も素直に渡したらいいのに、素っ気なかったね」勇の言葉に鈴音は苦笑した。
確かに、素っ気無かったがもう慣れた事だった。
「とりあえず、もう行かないと。」勇はその場を後にしようとした。
鈴音は慌てて「すみません。忙しい中来ていただいて。」と頭を下げた。
勇はクスッと少し笑うと、鈴音の頭を優しく撫でた。
「鈴音お嬢さんが元気そうだったから、良かったよ。」「はい。兄の事もありがとうごさいました」鈴音は顔を上げると、明るい笑みを零した。
その姿に勇は目を丸くした。
光を取り戻した黒く丸い目。少し赤い頬。赤い唇。
長く腰まである黒髪に赤い簪。
素直に美しいと思った。
鈴音は浪士組にとって、大切な人になるだろう。
◇◇◇◇
文久3年9月16日の夜。
大雨が降る中。八木邸に酒に酔い眠っていた、芹沢、平山の元に男数人が部屋に押し入った。
平山は殺された。胴体と首が離れた残酷な殺され方になっていた。
その血が天井に飛び散った。
そして、芹沢は刀を取ろうとするが叶わず、隣の部屋に飛び込むが文机につまずいた所、切られ血が舞った。
後日に盛大な葬儀を開かれ、そこでは長州藩の仕業とされたが、実際はどうなのかはその場にいた人のみ知る。
誠愛を前世に 関ケ原 しらす @sirasu915
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