第15話 再開

『またか!!何度言えばわかる?!』耳を圧迫するような怒号。浴びせられる、暴力。

痛みに、耐える地獄。


◇◇◇◇


「うっ」鈴音は少し唸り、目を覚ました。

目の前は、自室だった。

重かったはずの身体が軽かった。

鈴音は記憶を蘇らせた。

確か、芹沢に暴力を振られ、歳三が芹沢を連れて行ってくれた後、平助が運んでくれたのだ。

それから、勇や医師などが来て、身体がずっと重くて。

鈴音は起き上がった。

襖から光がさしており、鈴音はそっと襖まで歩き、襖を開いた。

眩しい暖かい光が差し、鈴音は目を少し細めた。

すると、足音が近づいてきた。「鈴音?!起きたか」平助だった。

平助は手に鍋を持っていた。

「平助くん?その…」鈴音は平助を見ると、申し訳なくなり、目を伏せた。

「お腹空いただろ?粥持ってきたから、少しでも食べて」平助はそう言い、鈴音の自室に入った。

鈴音も平助の後を追うように、自室へと戻った。


◇◇◇◇


「食べれる?暑いから気をつけて」平助は鈴音に粥が入ったお椀を渡した。

「いただきます…」鈴音は粥をそっと口に入れた。

しばらく何も食べていなかったからか、すんなりと粥がお腹に入った。

少しし、粥を全て平らげた。

「体調、戻ったみたいだね」平助は鈴音の額に手を当て、安心したように笑った。

「怪我の方も鈴音の受け身が良くて、大丈夫だったらしいし。大事に至らなくて良かった」平助の微笑みに鈴音は更に心が痛くなった。

自分の甘い考えのせいで、こんなに迷惑をかけてしまったのに。

「平助くん…ごめんなさい…私…こんなに…甘い考えで…」鈴音は声を絞り出した。

目から涙が溢れた。

自分が情けなかった。

最初は危機感を持ち、頑張っていこうと思っていたのに、いつの間にか、こんなにも甘い考えをするようになったのかと。

鈴音は涙を拭ったが、更に涙が溢れてきた。

どうしたらいいのかと、思っていると身体が暖かく包まれた。

身体に強く巻かれた、腕。

平助の温もりが強く感じた。

平助に抱きしめられていたのだ。

「鈴音。前は鈴音が慰めてくれたから、次は俺が慰める。泣いていいよ」平助の優しい言葉に、鈴音の目から涙が更に溢れた。

こんなにも泣きたかったのに、泣いてこれなかった。

その分を補うかのように、火がついたかのように泣き続けた。

平助は優しく、鈴音の頭を撫でた。

しっかりしているようだが、鈴音もまだ子供だ。

抱えるものが大きすぎた。

「鈴音。明日にはいい事があるから、今は泣き続けていいよ。」


◇◇◇◇


次の日、鈴音は呼び出された。

芹沢の件かと思うと肩が重くなった。

やはり、ここにはいられなくなるのか。

芹沢を怒らせてしまったのだから、仕方がないのだろうか。

鈴音はため息を吐くと、ある部屋の襖の前に来た。

「失礼します」鈴音は襖をそっと開けた。

そして、部屋に入るとそっと襖を閉めた。

その瞬間、「鈴音」と懐かしい声が聞こえ、振り返った。

穏やかな笑みを浮かべた、美青年。

何も変わっていない。

江戸に出発した頃と。

「零…兄さん…?」鈴音は目に涙を溜めた。

零は頷いた。

「零兄さん…」鈴音は零の腕の中に飛び込んだ。

「ごめん。鈴音の行方がわからなくて、探してたら遅くなった。1人でよく頑張ったな」零は鈴音をしっかりと抱きしめ、頭を撫でた。

何も変わっていない。優しい手。優しい温もり。

「零兄さん…」鈴音は零を見上げた。

「鈴音、左眼がほとんど見えてないって聞いた。ごめん、守れなくて」零は鈴音の左眼を手のひらで隠すように触れた。

「零兄さんが謝ることじゃないよ。零兄さんは、小さい頃からずっと守ってくれてたの気づいたの。本当にありがとう」鈴音の言葉に零は一瞬驚いたが、優しい笑みを浮かべた。

「鈴音。ただいま」「おかえり。零兄さん」二人は笑いあった。

心から再開を喜んだ。





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