第13話 斎藤一とお出かけ

ある日、鈴音は気分転換に町へ行こうとしていた。

屯所の門の前に行くと、見覚えのある人影を見つけた。

「斎藤君?」鈴音は斎藤に声をかけると、斎藤は驚いた様子で鈴音を見つめた。

「鈴音?どこか行くの?」斎藤の質問に鈴音は頷いた。「町へ行こうと思って。斎藤君は?」「俺も暇を貰ったから、町へ行こうと思った。良かったら一緒に行く?」斎藤の提案に鈴音は嬉しそうに頷いた。

鈴音は、斎藤の事を兄みたいだと感じ、もう少し話したいと思っていた。


◇◇◇◇


鈴音と斎藤は、談笑しつつ町を歩いていた。

斎藤の明るく面倒見が良いのが、自然と兄の零と重ねていた。

「鈴音、確か甘味が好きだよね?」「甘味は好きだよ。近藤さんがよく甘味を送ってきてくださるの。ここ最近、近藤さん忙しくしていらっしゃるみたいで、そのお詫びって」鈴音の言葉に斎藤は表情を無くした。

勇が忙しくなっている理由が斎藤には、わかっていた。

そして、鈴音をしっかりと守らなければいけないと言われていた。

「斎藤君?」鈴音は不思議そうに斎藤を見上げた。

斎藤は我に返り「甘味処、寄っていかない?」と笑顔を作った。

鈴音が目を輝かし、斎藤は思わず頬が緩んだ。

その笑顔を守っていかないと、彼女は浪士組の唯一の花だ。


◇◇◇◇


しばらくし、甘味処に着くと斎藤は抹茶を飲み一息ついた。

「ここの、抹茶美味しいよね。けど、なにより甘味が美味しい〜」鈴音は、餡が乗っている、お団子を頬ばっていた。

その様子に、斎藤は微笑ましく見守っていた。

「斎藤君は、みたらし団子好きなの?」鈴音は首を傾げた。

「好きだよ。甘味を食べるとなると、みたらし団子が多かったりするかな」斎藤は鈴音の質問に答えつつ、みたらし団子を頬ばった。

「みたらし団子、美味しいよね。私の兄もよくみたらし団子食べてたよ」鈴音は懐かしむように呟いてしまった。

勝手に兄と重ねてしまっている、自分に恥ずかしさと斎藤に申し訳なさを覚え、斎藤を恐る恐る見上げた。

斎藤は優しい目で鈴音の話を聞いており、鈴音は更に肩の力が抜ける感覚がした。

「鈴音」斎藤は鈴音の頬に触れた。

「餡がついてる」斎藤はクスッと笑い、鈴音の口元についていた、おしぼりで餡を拭った。

懐かしい気持ちと共に気恥ずかしさを覚え、鈴音は斎藤から目線を外した。

「ごめんなさい。気が抜けてた…」恥ずかしさから鈴音は頬を赤らめた。

すると、斎藤は声を出さずに、口元に指を当て笑い始めた。

鈴音は目を丸くした。

斎藤は笑いながら、鈴音の頭を撫でつつ「妹がいたら、鈴音みたいな子なのかと考えると、面白くて。」と言った。

鈴音は思わず、ふふっと笑いが零れた。

すると、「斎藤君に、鈴音お嬢さん?!」と声が聞こえ、振り向いた。

振り向いた先には、目を丸くした総司が鈴音と斎藤を見つめていた。

「沖田君、何かあったのか?」斎藤は何かを察した。

総司は申し訳なさそうに、鈴音に頭を下げると、斎藤を連れて少し離れた所で会話し始めた。

何かあったのだろうか。鈴音は首を傾げたが、あまり深入れはしないでおこうと思い、甘味の味に集中した。


◇◇◇◇


しばらくすると、斎藤は総司と別れ、鈴音の側へ戻ってきた。

「斎藤君、大丈夫?」鈴音は斎藤の顔が青ざめていたのを見て、心配した。

斎藤は笑顔を作った。「心配ない。鈴音、屯所にいる時は藤堂君の側をなるべく離れないようにして欲しい。藤堂君に限らず、他の隊士でも構わない」斎藤の必死訴えに、鈴音は混乱したが、とりあえず頷いた。

鈴音は何が起きたのかは知らない。

今日が、1863年(文久3年)8月12日。浪士組が少し変化に向かうことを。





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