第12話 新八の頼みと沖田総司
ある日、鈴音は仕事を終わらせ、縁側で一段落していた。
すると、「鈴音、もう仕事は終わったの?」と平助が声をかけてきた。
「終わったよ。」鈴音は少し微笑んだ。
「じゃあ、この金平糖を一緒に食べよう」平助は包みを渡した。
鈴音は目を輝かせ「ありがとう」と言った。
そして、平助も隣に腰を下ろし、二人で金平糖を食べながら庭を眺めていた。
「鈴音、その…昨夜はありがとう」平助は照れたように笑った。
鈴音は首を振り「全然。平助くんの決めた気持ちを壊しちゃったから」と礼を否定した。
平助は少し笑い「あれは、単なる現実逃避というか…とにかく、俺は鈴音には感謝してる。本当にありがとう」と真剣にお礼を言った。
鈴音は驚きつつ、すぐに笑みを落とした。
「あれから、手大丈夫?あんな強く弾き返しちゃったけど」平助は心配そうに鈴音を見つめた。
「大丈夫だよ。怪我も無かったし。それに、私がいきなり平助くんの頬触ったのだから、跳ね返されても可笑しくないよ」鈴音は平助を安心させるように微笑んだ。
鈴音の優しさに、平助は胸がいっぱいになった。
そして、昨夜に弾き返してしまった、鈴音の手をそっと取った。
水仕事を中心的にやっているからか、手が荒れていた。
だが、その手が優しさと愛おしさを感じた。
鈴音は平助の手の温もりを感じた。
昨夜とは違い、綺麗で刀を握っているからか、しっかりとした手を。
すると「藤堂君〜。土方さんが藤堂君を探してたよ」と新八が少し遠くから平助に声をかけた。
平助は慌てて「ありがとうございます。じゃあな、鈴音」と言い、急ぎ足でその場を後にした。
◇◇◇◇
「鈴音お嬢さんごめんね。藤堂君とゆっくりしてたでしょ?」新八は申し訳なさそうに苦笑した。
鈴音は慌てて「いえ、平助くんも忙しくしていらっしゃるのに、私を気にかけてくれますから」と言った。
新八は、鈴音の言葉に頬を緩めた。
「鈴音お嬢さんってすごいね」新八の呟きに、鈴音は首を傾げた。「私が…すごい…ですか?」鈴音が聞き返すと、新八は頷いた。
「藤堂君があんな笑顔になって、気にかける女性は、鈴音お嬢さんしかいなかったよ。女たらしだから、多少笑顔はあったけど、平助は鈴音お嬢さんの前だと安心した笑みを落としてる。」新八の説明に鈴音は目を丸くした。
「初対面で口説かれた時と見比べてみて。あの時は、妙に落ち着いてる雰囲気だったでしょ?」新八にそう言われ、鈴音は少し考え頷いた。
確かに、あの時は落ち着いていると言うか、なにか冷めている様子だった。
「今の平助を考えてみて。なにか変わったことはない?」新八の言葉にまた、鈴音は考えを巡らせた。
『鈴音、甘味食べない?』『俺が拾ってきて、育てたから』『もしかして、実戦出来たりする?』
「口説かれる回数は減りましたね。それに、笑顔が明るくなってる?」鈴音は思った事をそのまま口に出した。
新八は微笑ましそうに鈴音を見つめ「藤堂君は、鈴音にそれぐらい心を許してるってこと。理由は知らないけど」と教えてあげた。
そう言われると、鈴音は少し嬉しくなり「良かったです。平助くんが少しでも笑顔でいてくれたら、私も幸せです」と言い、新八に「ありがとうございます」とお礼を言った。
新八は目を丸くしたが、「鈴音」とすぐ真剣な表情になった。
「鈴音、藤堂君をしっかり支えてあげて。俺の口からは詳しい事は言えないけど、今の藤堂君には鈴音みたいな人が必要だから」と鈴音の両肩に手を置いた。
鈴音は驚いたが、すぐに微笑み「はい」と頷いた。
新八が安心したように、優しく微笑むと「永倉さん〜」と明るい声が聞こえた。
鈴音は振り向いた。新八を呼んだ本人は、目が丸く、可愛らしい笑顔の青年だった。
「沖田君、そろそろ稽古か」新八は立ち上がった。
「はい。そちらの方は、もしや鈴音お嬢さんですか?」沖田と呼ばれた人は目を輝かせ、鈴音の前に座った。
「そうだよ。沖田くんは会うの初めてだね。」新八はそれだけ言うと、稽古に戻って行った。
「はじめまして、僕は
鈴音も総司の明るさに思わず笑が零れていた。
「はじめまして。鈴音です。」「やだな〜。敬語は辞めてよ。僕も藤堂君と斉藤君と同い年だから。」少年みたいな笑みに鈴音は癒されつつ、「沖田君って呼ぶね。」と返した。
「はい。鈴音お嬢さん少し話さない?鈴音お嬢さんの事知りたい」「大丈夫だよ」総司と鈴音はしばらく談笑していた。
「そう言えば、鈴音お嬢さん。芹沢さんって人に会いました?」総司は声を落として、鈴音に聞いた。
鈴音は「会ってないよ」と返すと、総司は安心したようにため息を吐いた。
鈴音は不思議そうに首を傾げると、総司は察したように説明してくれた。
「今、浪士組は近藤派と芹沢派に別れてるんだけど、その芹沢さんが厄介な人で、多才な人なんだけど、酒癖が悪くて、女好きなんだ。この前なんて、島原で酔った勢いで暴れ回ったりしていたし。土方さんが頑張って止めたけど、大変だったよ。なにせ、あの人6尺で342貫」と説明してくれた。
鈴音は芹沢を想像し、恐怖を感じた。「鈴音お嬢さんの事は、話してないから大丈夫だと思うけど、噂はいつの間にか耳に入る物だから気をつけてね」総司の強い言い聞かせに、鈴音は強く頷いた。
その時、鈴音は知らなかった。
浪士組に来て、まさかあんな事件が起こるなんて。
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