第9話 稽古
鈴音は仕事を一段落させると、箱に水と手ぬぐいを入れ、屯所の道場へ顔を出した。
「もっとしっかりやれ!!戦場だとすぐに死ぬぞ?!」道場へ入るなり、歳三の怒号が聞こえ、道場の入口の前で立ち尽くしてしまった。
すると「怖いだろ〜?鬼の副長」と軽い声が後ろから聞こえ、鈴音は振り返った。
声の主を見上げると、目を丸くした。
綺麗な長い髪を軽くまとめ、鼻筋が通り、目が少し冷たさを感じるが、優しくお兄さんのような表情をした若い男だった。
恐らく、平助と年齢は変わらないだろう。
「いえ、少し驚いてしまって。あの、失礼ですが貴方は」「ああ、ごめん。俺は
斎藤はへーと興味津々に鈴音を見つめた。
「君が、あの鈴音なんだ。噂通り美人だね。」斎藤の言葉に鈴音は頬を赤らめた。
「えっと、あ、ありがとうございます...一さんは...」稽古ですか?と聞こうとすると指で唇を抑えられた。そして、「敬語もさん付けもいらない。俺も藤堂君と同い年だから」と遮られ、唇から指を離した。
鈴音は唇に触れられた事に戸惑いを感じながら「えっと、斎藤君?でいいかな?」と聞いた。
「いいよ。藤堂君にもそう呼ばれてるし。」斎藤は嬉しそうに笑った。
「えっと、斎藤君は稽古なの?」「いや、そろそろ隊士を休ませようかなって思って。土方さん厳しいからずっと稽古やらすし」斎藤はクスッと笑いつつ「鈴音もその箱、隊士達に差し入れだろ?」と言われた。
「うん。ずっと稽古してるし、水と手ぬぐいだけでも持っていこうかなって」「そっか。鈴音、おいで。」斎藤は鈴音が持っている箱を持つと片手で鈴音の手を引いた。
「どうしたの?」「鈴音からの差し入れって言ったら、土方さんもすぐに稽古休ませてくれそうだから」斎藤はクスッと笑い、道場に入った。そして「土方さん〜。鈴音が水と手ぬぐいを差し入れって持ってきてくれましたよ〜。そろそろ休んだらどうでしょう〜?」と歳三に声をかけた。
歳三はため息を吐き、「一旦休憩にしろ!!少し休憩したら稽古を再開する!!」と指示を出した。
「よし、上手くいった。鈴音、流石だよ」斎藤は楽しげに鈴音の頭を撫でた。
『ありがとうございます。鈴音お嬢様』『本当に助かります!!』隊士達は嬉しそうに鈴音に頭を下げた。
「いえ、皆様稽古を頑張っていらっしゃいますし。それに、お世話になっていますのでこのくらいは」鈴音は照れたように笑った。
「気が利くな。ちょうど喉が渇いてた頃だった」歳三は少し笑い鈴音の頭をクシャッと撫でた。
隣にいた斎藤はクスッと笑い「そら、あんな大声出せば喉だって乾きますよ。鈴音、入口で怯えてましたよ」とからかうように言った。
「うるさい。真面目にやらないのが悪い」歳三は不機嫌そうに水を飲みつつその場を離れた。
「てか、鈴音お嬢様って呼ばれてたりするよね。土方さんはともかく、近藤さんもお嬢さん呼びだったし、俺もそう呼んだ方がいい?」とこっそり聞かれた。
鈴音は少し笑い「どちらでも大丈夫。その人の好みかな?ほとんどがお嬢さん呼びだけど、平助くんと土方さんは鈴音呼びだしそれに、」お嬢さん呼びは少し恥ずかしと本音を伝えた。
「うーん。鈴音のままでいい
かな。」斎藤はいたずらっぽく笑った。
「斎藤君って明るい人だね」「よく言われる。藤堂君と変わらないと思うけどな」「平助君は、明るいけど...からかってくるし...斎藤君はお兄さんって感じする」「なにそれ」斎藤と鈴音は笑いあった。
◇◇◇◇
夜になり、鈴音は縁側で月を見上げていた。
「鈴音、全く...身体冷えるよ。」平助は鈴音を見つけると笑いながら羽織を肩にかけた。
「ありがとう。平助くん」鈴音は少し微笑んだ。
「そう言えば、斎藤君が鈴音の事すげぇ褒めてた。可愛くて優しいって」平助は嬉しそうに鈴音を見つめた。
「なんで、平助君の方が喜んでるの?」鈴音は苦笑した。「だって、俺が拾ってきて、俺が育てた鈴音が褒められるって嬉しくなった」「平助くんに育てられた覚えはないよ」鈴音はクスッと笑った。
「でも、拾って来たのは事実だろ?今の鈴音を見たら、やっぱりあの時拾って良かったって思うよ」平助はうんうんと頷いた。
そんな平助に鈴音はふふっと笑いつつ「私も、平助くんに助けて貰って良かった。平助くんが居なかったら、私生きてたかどうかもわからなかったよ」と平助を見つめた。
平助は目を丸くしたが、すぐに笑みを落とし「ありがとう。鈴音」と言い頭を撫でた。
「こちらこそ、ありがとう。平助くん」鈴音はくすぐったく笑った。
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