第8話 驚きの来客

「近藤さん、鈴音を連れてきた。」歳三は襖の前で中にいる勇に声をかけた。

「お入り。」中に入る許可を貰うと、歳三はゆっくり襖を開けた。

そして、鈴音だけが入る事になり、鈴音は入る前に「失礼します。」と言いゆっくり中に入り、襖の前で頭を垂れた。

「お初お目にかかります。鈴音と申します。一橋慶喜様にお目にかかることを嬉しく思います」鈴音は静かにそう言った。

「近藤くんが言っていたように可愛らしい子だね。」想像より、若く明るい声がし、鈴音は少し戸惑った。

「鈴音お嬢さん。ちゃんと顔を見させて」慶喜はそう言い、鈴音の元へ座った。

鈴音は戸惑いつつも、ゆっくりと顔を上げた。

慶喜の顔を見ると、驚きだった。

艶やかな長い黒髪は、半上げで結われており。

瞳は綺麗な茶色で雰囲気は明るい印象だった。

見た目的に、20代だろう。

着物は明るいものかと思いきや、茶色の着物で、裕福な方に見えなくはないが、とても徳川だと思えなかった。

慶喜は鈴音の顔を見つめ「やっぱり、可愛い。一体こんな子どこから拾ったんだい?近藤くん」と勇に目線を移した。

「藤堂くんが助けだしたんだよ。道場のお嬢さんなんだけど、父親に暴力を振るわれていたのか、身体に痛々しい、怪我を負っていてね。不逞浪士に襲われた所を藤堂くんが助け出したんだよ」勇が簡単に説明すると、慶喜は心配そうに鈴音を見つめた。

「辛かったんだね。君には、家族はもういないのかい?」「いえ、兄が江戸にいます。」「そうなのかい。でも、寂しいね。身体の傷はもう大丈夫なのかい?」「はい。痕も残っておりません。」「それは、良かった。近藤くんの手当はやっぱりすごいね」慶喜は満足気に勇を見つめた。勇は苦笑すると「すごくないよ。鈴音お嬢さんの左眼は戻せなかったから」と答えた。

「いえ、本来なら戻れなかった視力が少しは見えるようになったので、近藤さんのおかげです」鈴音は慌てて勇に言うと「それは、鈴音お嬢さんの回復力だよ」と勇は優しく鈴音に微笑んだ。

そして、しばらく3人で談笑をした。

慶喜は町のことや外国からの新しい品物について、教えてくれた。

聞くものがどれも新鮮で、鈴音は目を輝かせていた。


◇◇◇◇


その後、慶喜は屯所を見て回ったりした。

そして夕方頃、慶喜はそろそろ帰ろうかと、勇に声をかけようと勇の部屋へ向かった。

「浪士組も明るくなっていたね。あのお嬢さんのおかげかな?」慶喜は鈴音を思い浮かべると、嬉しそうに笑った。

少しふわふわしてるが、好奇心旺盛な女の子だ。

育ちもしっかりしているだろうし、なにより優しく、強い子だ。

慶喜はそう思っていると、夕陽を差している縁側に赤い布が見えた。

慶喜は不思議そうに、近寄ると目を丸くさせた。

夕陽に照らされ、幼い顔で鈴音が眠っていたのだ。


ーー疲れちゃったのかな。俺がいたもんね


慶喜は優しく笑い、鈴音の髪を撫でるように頭を撫でた。

鈴音は嬉しそうな笑みを零していた。

その笑みは何処か懐かしむようだった。

「実の父には暴力を兄は江戸にね…」慶喜は静かに呟いた。

鈴音を見つめていると彼女の悲しさが伝わってくるような気がした。

慶喜は少し鈴音の顔を見つめると、そっと鈴音を姫抱きをし、教えて貰った鈴音の部屋へ行くことにした。


◇◇◇◇


少しし、鈴音は目を覚ました。

うっすらと移る優しい笑顔は懐かしかった。

「れ…い…にいさん…?」「おはよう。鈴音お嬢さん」零とは違う声が耳に届き、鈴音は意識が戻ってきた。

「よ…慶喜様?」「鈴音お嬢さん、よく眠れた?」慶喜はいたずらっぽく笑った。

「えっと…はい」鈴音は急いで起き上がった。

「申し訳ありません。このようなお姿で」鈴音は髪を耳にかけた。

「大丈夫だよ。それより、これ渡そうと思って」慶喜は鈴音の前に包みを差し出した。

「なんでしょうか?」鈴音は包みを手に取った。

「菓子だよ。お近付きの印に」慶喜は「開けてみて」と言い鈴音は包みを開けた。

「これは、八つ橋ですか?」「そうだよ。食べてみて」慶喜の言葉に鈴音は「ありがとうございます。いただきます」と言い、八つ橋を1口食べた。

「美味しい...この中に入っている物って...」「肉桂だよ。知ってる?」「初めて食べました。けど、美味しいですし香りがいいですね」「そうだろ?よく貰ってて、鈴音もこう言うお菓子が好きかなって思って」慶喜は得意気に微笑んだ。

「本当に美味しいです。甘い物って心を豊かにしますね」鈴音は嬉しそうにふふっと笑った。

その姿に慶喜は目を丸くした。

そして、そっと鈴音の頬に触れた。

鈴音は不思議そうに慶喜を見つめた。

「君は、綺麗だね。」慶喜は鈴音の額に自分の額を当てた。

鈴音は頬を赤らめ何も言えなくなった。

「君みたいな人を手に入れてみたかったよ...」慶喜は名残惜しそうに鈴音の髪を撫で離れた。









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