第7話 黒髪に簪を

ある日、鈴音は朝餉を済ませると、少し慌てた様子の勇に呼び出された。

鈴音は不思議に思いつつ「どうしましたか?」と勇に尋ねた。「実は、一橋慶喜って人が来るから、しばらくは姫さんのような振る舞いをお願いしたいんだ。」勇は申し訳なさそうに言った。

鈴音は目を丸くし「あの、慶喜様ですか?」と思わず聞いた。勇は少し笑いつつ頷いた。「全く、お堅い方ではないけどね。けど、やはり鈴音お嬢さんには、なんというか…姫さんの方がいいかと思って…」勇は「お願い」と鈴音に頭を下げた。

そんな勇に、鈴音は慌てて「頭を上げてくださいませ。私は構いませんから」と言った。

勇は嬉しそうに鈴音の手を握り「ありがとう。お礼にこの菓子を」と勇は鈴音の手に包みを乗せた。

「なんでしょう?」鈴音は首を傾げた。「金平糖だよ」勇は優しく鈴音に微笑んだ。

「金平糖ですか?ありがとうございます。私大好きです」鈴音は目を輝かせた。

そんな鈴音の姿に、勇はクスッと笑った。

「鈴音お嬢さんは、本当に甘いものが大好きなんだね」勇はクスッと笑いつつ鈴音の頭を撫でた。

「最近よく、笑みを見せてくれるようになって、私は嬉しいよ。今回の件は本当にありがとう」頭を撫でる勇の手に鈴音はくすぐったく感じた。

「近藤さん。金平糖一緒に召し上がりませんか?私1人じゃ申し訳ないです」鈴音の提案に勇は「いいのかい?鈴音お嬢さんは優しいね」と言った。

そして、一緒に色とりどりの甘い金平糖を味わった。


◇◇◇◇


少しし、鈴音は高価な桜吹雪が描かれた着物に、赤い羽織を羽織った。

「見られる格好だな。」歳三は鼻で笑った。

勇は明るく「素直に、綺麗って言ったあげてよ。歳くん」と歳三をからかった。

歳三は面倒くさそうに「気が狂う。」と言い部屋を出ていった。

「相変わらずだね。歳くんは」勇は面白そうに笑った。

鈴音は心配そうに「なにか、駄目でしたか?」と聞いた。「大丈夫。鈴音は綺麗だよ。歳くんもそう思ってるけど、歳くんは本当に素直じゃないからね」勇はそう言うと鈴音の髪に触れた。

鈴音もは思わず頬を赤らめた。

「やっぱり綺麗だね。鈴音お嬢さんは」勇はフッと微笑んだ。


◇◇◇◇


鈴音はゆっくりと廊下を歩いていた。

すると「鈴音」と呼ばれ、振り返った。

「鈴音、近藤さんから聞いたよ。慶喜さんが来るから、しばらくは、鈴音に仕事を任せないって」平助はそう言い、鈴音を見つめるとふっと目を細めた。

鈴音は首を傾げると、平助は鈴音の頬に触れ、耳に唇を近づけると「鈴音。可愛い」と囁いた。

鈴音は思わず頬を赤らめた。

「平助くん…?」鈴音は戸惑うように、平助の名前を呼んだ。

平助はクッと笑いを漏らし、「あはは!!」と笑った。

鈴音は一瞬、不思議そうに平助を見つめたが、すぐに何があったかわかり、更に頬を真っ赤にした。

「鈴音、相変わらずふわふわしてるな。」平助が笑い続け、鈴音は「平助くんは…いつも…」と少し言い返した。

「ごめん。代わりにこれあげるから」平助は笑いつつ、包みを鈴音の頭に乗せた。

「なに?」鈴音は頭に乗せられた、包みを手に取った。

「簪。鈴音に似合うの探してきた」平助の言葉に鈴音は目を丸くした。

「簪…開けてみてもいい?」そ「いいよ。」平助が許可すると、鈴音は包みを開け、目を輝かせた。

真紅の花が何個も咲いた、可愛らしい簪だった。

「平助くん。ありがとう」鈴音は簪を手に取り、簪に見惚れた。

平助は優しく鈴音に微笑むと「簪貸してみて」と言われ、鈴音は平助に簪を渡した。

すると、平助は丁寧に指先で鈴音の髪に触れた。

「平助くん?」また、からかわれるのかと鈴音は平助を見上げた。

「動くな。」平助に注意され、鈴音は大人しく従うことにした。

平助は簪を鈴音に刺すと「できた。やっぱり似合ってるよ鈴音」と満足そうに笑った。

鈴音は頬を赤らめ「ありがとう。」と言った。

平助は鈴音の頭を撫でた。そして、平助が口を開こうとすると「おい、慶喜様がお見栄になったそうだ。鈴音を一目見たいと」と歳三から呼び出しがかかった。

「行ってきな。慶喜様は明るいお方だよ。」平助は鈴音の頭から手を離した。

「うん。ありがとう平助くん」鈴音は急いで、歳三の元へ行った。


◇◇◇◇


残された、平助は少し笑った。

「相変わらず、純粋でふわふわした女だな」そう呟くと、稽古へ向かった。


◇◇◇◇


「鈴音、この簪はどうした?」廊下を歩きながら、歳三に聞かれた。

鈴音は少し簪に触れ「平助くんに頂いたものです」と答えた。

歳三は少し意外そうな顔をしたが、すぐに少し笑い「なるほどな。」と呟いた。

「どうかいたしましたか?土方さん」「いや、相変わらずお前はふわふわしてるな」歳三にそう言われ、鈴音は驚いた。

「私、浪士組には相応しくないでしょうか?」「どう言う事だ?」歳三は鈴音を少し睨んだ。

鈴音は「いえ」と否定し、歳三は少し不満に思いながらも何も言わなかった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る