第5話 屯所での生活

屯所で働き始めて2週間経った。

屯所での生活はだいぶ慣れてきたが1つ気がかりがあった。

朝餉の前、鈴音は台所に顔を出した。

「鈴音お嬢様どうかなさないました?」1人の優しい雰囲気の眼鏡をかけた男性が気づき鈴音に声をかけた。名前は確か、たちばな「あの〜なにかお手伝い出来る事がないかと思いまして…」「いえ、そんな鈴音お嬢様にお手をわずわらせる訳には…もうすぐで朝げもできますし、ゆっくりとお待ちくださいませ」と男は慌てた様子で鈴音に何も手伝わせてくれないのだ。

鈴音は「ありがとうございます。なにかありましたらお呼びくださいませ」とだけ返し頭を下げ、台所を後にした。


◇◇◇◇


鈴音が台所を後にしたあと、台所にいた人全員ため息を吐いた。

「全く...近藤さんは、無理させない程度に仕事を任しては良いと言っていたけど、無理に決まってるだろう」「そうだな。確か、左眼がほとんど見えないんだろ?それに、女に免疫が無いと言われたら最後だが、どうしても鈴音お嬢様を姫君のように扱ってしまう」「でも、あんなに仕事をしたいって言う姫君はいないだろ?」と悩み果てていた。


◇◇◇◇


そんな事は知らず、鈴音は縁側で庭を眺めつつため息を吐いた。すると「なに、不満そうな顔してんの?」と誰かに話しかけられ、鈴音は目線を上げた。

「平助くん...?」「なにかあった?俺で良ければ力になるかも知んないけど」平助は鈴音の隣に腰を下ろした。

鈴音は膝を抱え、口を開いた。

屯所で隊士達を手伝おうとすると、断られることを平助に洗いざらい話した。

平助は黙って聞いていたが、鈴音が話終わると口を開いた。「多分だけど、隊士達は、鈴音に遠慮してるんじゃない?鈴音は俺に拾われて、近藤さんに気に入られている。おまけに、左眼もほとんど見えない。そんな鈴音がもし、朝餉の支度で指を切ってしまったり、火傷を負ってしまったら、と考えると不安で堪らないんじゃない?鈴音を頼りにしてないんじゃなくて、鈴音を大切に思うあまり仕事を頼まないんだと思う。」と隊士達の現状を話してくれた。

鈴音は膝に顔を埋めつつ「ありがとう...」とお礼を言った。すると平助は鈴音の頭を優しく撫でた。「まぁ、まだ屯所にいて日が浅いし、不安に思うかもしれないけど、そんな時は、こうやって俺が話聞くからさ。」平助は優しく鈴音に言い聞かした。

鈴音は目を丸くして、顔を上げた。平助と目が合うと、平助は優しく鈴音に微笑んだ。

「平助くん...案外優しいんだね...」鈴音は少し笑顔を落とした。平助はむっとし「案外ってなんだよ?褒められた気がしないんだけど?」と文句を言った。そんな平助が可笑しくなり、鈴音は、ふふっと口元に指を当て笑った。

「笑うな。全く...せっかく慰めてやってるのに」平助は文句を言いつつも、クッと笑い始めた。「色んな女相手にして来たけど、こんなに慰めたのは始めてだな」平助は鈴音の頭を撫でた。鈴音は少し笑い「ありがとう。平助くん」とお礼を言った。平助は照れたように、少し笑い「俺の元に来てから、2週間も経ってんのに、お互い全然話してなかったな。」「そうだね。平助くん好きな物ってなに?」「ん?食べ物だったらまんじゅう。物だったら、小物品かな。俺が今付けてる耳飾り結構お気に入り」「そうなんだ。私も可愛らしい小物品とか好きだよ。」

しばらく鈴音と平助は会話に花を咲かせていた。

不幸続きで沈んでいた鈴音だが、久しぶりに明るく話せるようになった。

そんな鈴音に平助は安心と愛着が湧いていた。


◇◇◇◇


「おはようございます...」翌朝、鈴音は台所に顔を出した。「おはようございます。鈴音お嬢様、どうかされましたか?」昨日と同じ優しい雰囲気の男性が鈴音に声をかけた。鈴音は緊張しつつ「あ、あの。なにかお手伝いする事はないかと思いまして...」と聞いた。優しい雰囲気の男性は少し微笑み「藤堂さんからお話は伺っております。野菜などを洗ってくださいますか?」と鈴音に案内をし、野菜を渡した。

鈴音は嬉しく思い、野菜を洗ったり、他に米を炊いたりなど色々な事をした。


◇◇◇◇


朝餉が終わると、広場に飾るためだと生け花をした。

生け花は始めてで、右も左も分からずに終えると「鈴音お嬢様、すごいですね〜」と隊士達は鈴音を褒めただえた。

仕事をさせてもらっているが、やる事、成す事全て褒められるので鈴音は贅沢ながらも、「なんかこれじゃない...」と不満に思ってしまった。



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