第4話 八番隊組長

2週間後、鈴音の怪我も良くなりつつあった。幸運な事に左眼は視力を少し戻した。

右目と比べれば、見えないが全く見えないよりは、幸運だろう。

「鈴音お嬢さん、着物や色々届いたよ」勇がたくさんの荷物を抱えて、部屋に入ってきた。鈴音は慌てて「近藤さん...そこまでして頂かなくても...」と呟き、荷物を持った。

鈴音は急に、ここに来た自分をこんなに世話を焼いてもらうのは、嬉しくも申し訳無く感じた。

勇はいつも「浪士組で唯一の花だから」と優しく呑気な笑いを見せていた。

「着物と簪、それにこのお部屋に飾る美術品。どれも私が選んだよ」勇は荷物を順番に開封していった。

色とりどりな着物に、見惚れるほどの綺麗な美術品。鈴音は胸を踊らせた。 そんな鈴音の様子を勇は優しく微笑み「鈴音お嬢さんは、美術品が好きなんだね」と言った。鈴音は驚きつつ「そうですね。美術品を愛でるのは、1番の癒しです」と笑った。


◇◇◇◇


「この着物が一番似合っている」勇は鈴音の着物姿に嬉しそうに笑った。

今、鈴音が来ているのは余所行きの桜吹雪が描かれた着物だ。

勇は鈴音をずっと褒めるので、鈴音は気恥ずかしくも嬉しく思った。

すると「中々、見慣れる姿になったな鈴音」と低い冷たい声を響かせ誰かが部屋に入ってきた。

入ってきた男性は、身長が高く目鼻が整い、どこか威圧感があった。目尻がキュッと上がった目をしているからだろう。

鈴音が戸惑いを見せているのを勇が察し「彼は、新撰組副長の土方 歳三ひじかた としぞうだよ。怖いからみんな鬼の副長って呼んでるんだよ」と紹介してくれた。「そ、そうなんですね。」鈴音は苦笑した。「全く、妙なあだ名だな。」歳三はため息を吐いた。鈴音は呆然としていたが、慌てて「鈴音と...」と自己紹介をしようとしたが、「知っている」と遮られた。


ーー怖い...


鈴音は手を震わせていると、突然、歳三は鈴音を手荒く抱き寄せた。

「この、美貌だと遊郭で高く売れそうだな...」と耳元で囁かれ、鈴音は恐怖に落とされた。だが、すぐに、「歳君?!鈴音お嬢さんになんてことを、まだ嫁入り前の娘さんだよ?」と勇が歳三から鈴音を引き剥がし、鈴音の頭を優しく撫でた。

歳三はフッと鼻で笑うと「冗談だ。だが、こんな無防備だとすぐに襲われるぞ」と言い鈴音の頭をくしゃっと撫でた。

「気にしなくていいよ。鈴音お嬢さん。君はここで君らしく過ごしなさい」と勇は優しく鈴音の頭を撫でた。「はい...」鈴音はまだ残っている恐怖を隠し、少し微笑んだ。


◇◇◇◇


「藤堂平助様。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。以前助けていただいた、鈴音と申します。」鈴音は仕事をしている八番隊組長、藤堂 平助とうどう へいすけに頭を下げた。

勇に部屋を案内してもらい、平助に挨拶とお礼をするつもりだった。

平助はなにか書く手を止め、「鈴音、そんなにかしこまらなくて大丈夫だよ。敬語もいらないし、好きな呼び方でいい。」と軽く明るい口調で言い振り向いた。

鈴音は驚きつつ「で、ですが藤堂さんには色々と...」と返そうとしたが、平助が「年齢も近いし、近藤さんは少しでも鈴音にとって打ち解けやすい人がいて欲しいと思って、俺に頼み込んできたんだ」と返された。そして鈴音の頬に触れ、頭を上げさした。鈴音は改めて平助の顔を見ると、記憶と一致した。

綺麗に通った鼻筋。黒く綺麗な瞳。肩まである艶やかな髪を結っている。女性が見たら、間違いなく惚れてしまうだろう。

耳飾りなどの装飾品などを見れば、お洒落に気を使っている人なのだろう。

鈴音は思わず頬を赤らめた。

「怪我の後残ってないな。全く女の子に傷を作らせるなんて考えられないな。」平助は元々傷があった鈴音の頬に親指を滑らした。微かに、甘く惹き寄せられるような香りがした。鈴音は混乱し、何も言えなくなっていた。

初めて目の当たりにする、男の色気に圧倒されていたのだ。

「鈴音...」平助はそんな鈴音にいたずらっぽく笑い、そっと顔を近づけた。


ーーて...抵抗できない...


鈴音はされるがまま、平助と唇が重なりそうになった。すると「痛っ」と平助は軽く唸り腕を抑えた。鈴音は驚き平助の背後にいる男を見上げた。

向日葵より薄い金色の腰まである長い結っている髪。黄色を濁らせた整った目。見た目からは、大人っぽさの美形があてはまった。

「鈴音お嬢さんだっけ?大丈夫?」その男は鈴音に目線を合わせるように座り、顔を覗き込んだ。鈴音は、混乱しつつも「だ...大丈夫です。」と返した。

「俺の心配はないわけ?いきなり部屋入ってくるとか、どうかしてますよ永倉さん。」平助は呆れたように、座り直した。永倉さんと呼ばれた男は呆れたように肩を上下させると「藤堂君。いつも言ってるでしょ?初対面の女の子には距離を近づけ過ぎないようにって。それに、鈴音お嬢さんは嫁入り前の男を知らない子だ。あんなに詰め寄られたら、混乱もするだろうに」と平助に言い聞かした。

庇ってくれているのか、この歳になって男を知らないと貶されているのかもわからず、鈴音は二人のやり取りをただ聞くだけだった。

それに気づいた、永倉さんと呼ばれた男は「挨拶がまだだったね。俺は永倉 新八ながくら しんぱち。ここでは、三番隊組長と撃剣師範を務めているよ。」と自己紹介をしてくれた。鈴音は慌てて「鈴音と申します。えっと...平助くん?の元で働きつつ浪士組の雑務などを任されています。」と自分の自己紹介をした。

新八は平助の方を見て「平助くんって呼ばれてるんだね。仲良くはなってたんだ」と意外そうに平助に聞いた。「近藤さんの命令ですし。敬語を辞めさして好きな呼び方で呼んでもいいと言いました。」と平助は首に手を当て素っ気なく答えた。

「そうなんだ。鈴音お嬢さん。俺とも仲良くなってくれる?男しかいない場所だし、君みたいな子がいてくれて俺は嬉しいよ。」と新八は鈴音の手を握った。

鈴音は胸が暖かくなるのん感じながら「ありがとうございます。永倉さん」と言い、微笑んだ。そんな鈴音に、新八は更に気に入り「金平糖持ってきたけど食べる?近藤さんから鈴音お嬢さんは、甘い物が好きって聞いたよ。」と包みに入っている、金平糖を差し出した。

「なにその情報?俺知らない。」平助は不満そうに頬を膨らませた。新八はいたずらっぽく笑い「藤堂君もまだまだ、だな。」と平助の頭を撫でた。

その様子に鈴音は小さくふふっと笑った。


女たらしな所もあるが、なにかと優しさを見せる平助。

そんな平助を兄のように相手し、鈴音を優しく歓迎してくれる新八。

その他にも、行先不安な自分を浪士組に導き、なにかと世話を焼いてくれた勇。

鬼のように怖くも、歓迎はしてくれた歳三。


まだまだ、新撰組の方達で顔を合わせてない人もいる。

きっと。いや、絶対に暖かい方達なのだろう。


鈴音は零の文を待ちつつも、心を踊らせていた。



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