第3話 これから

鈴音の刀は誰かに弾かれた。目の前には、刀が光っていた。鈴音は呆然とした。一つ分かるのは、男達じゃない、別の人に弾かれたのだ。

ただ耳から入る今の状態の騒ぎを流していた。「ま、まさか浪士組?!」男が騒ぎ出し、逃げ出そうとする音がした。

「待て...」刀を弾いた人が男達を追いかけようとしたが、すぐ鈴音の側に駆け寄った。

「君、大丈夫!?」焦った、優しい声をかけられ鈴音は恐る恐る目線を上げた。右眼に写ったのは、黒い美しい瞳の目鼻が整った青年だった。鈴音と歳が近いだろう。「君、左眼が...止血しないと」青年は鈴音の左眼に布を当てた。

鈴音は、何か言いたかったが体力がなく、意識を手放した。


◇◇◇◇


「うっっ」少し呻き、鈴音は目を覚ました。目の前には、見慣れない天井が広がっていた。

鈴音は布団に寝かされていた。

少し、起き上がってみると、鈍い痛みを感じた。

暴力を受けた身体は、手当てされていた。

鏡に当たった左眼は包帯が巻かれており、多分視力を戻すのは難しいだろう。

鈴音は、ふと顔を上げた。目の前には桜柄をした可愛らしい障子があり、壁も桜や黄緑色で可愛らしい部屋だった。

掛け軸の絵には、桜や牡丹や梅など百花繚乱が描かれていた。

芸術品など好きな鈴音は、心を踊らせたいが疑問が勝ってしまった。


ーーここは...どこ?


鈴音は首を傾げていると、何処からか足音が聞こえた。その足音は、部屋の前まで来ると、静かに襖を開けた。

部屋を訪ねてきたのは、20半ばくらいの優しげな男性だった。腰まである、長い艶のある黒髪は1つに結われており、垂れ目が優しさの雰囲気を目立たせていた。

男性は、起き上がっている鈴音に気づくと目を丸くした。「起きたんだね。お嬢さん」男性は襖を素早く閉めて、鈴音の側に駆け寄った。甘いお香の匂いが鼻をかすめ、鈴音は頬を赤く染めた。

男性は鈴音に優しく微笑み「もう、身体の方は大丈夫かい?」と聞いた。鈴音は戸惑いつつも「は...はい。ほ...ほとんどは。」と答えた。男性は安心したように、息をつき鈴音に優しく、微笑んだまま「挨拶が、まだだったね。私は、新撰組局長の近藤 勇こんどう いさみだよ。お嬢さんの名は?」と急に聞かれ、鈴音は戸惑いつつも「えっと...鈴音と申します。」と名を名乗った。勇は目を細めて、フッと笑うと「鈴音。綺麗な名前だね。お嬢さんに、似合っている。」と言い、鈴音の手をぎゅっと握った。鈴音は更に混乱した。手を握られたこともそうだが、ここがどこなのかも分からなかった。それに気づいた、勇は「色々と惑わせてしまって、すまないね。ここは、新撰組の屯所だよ。鈴音お嬢さんが怪我をして気を失ってしまったのを、うちの隊士、藤堂 平助とうどう へいすけ君が運んでくれたんだよ」と丁寧に説明をしてくれた。鈴音は助けてくれた人を曖昧に思い出し、「私を助けてくださった方にお会いをする事は可能でしょうか?」と身を乗り出して聞いた。

「それは、構わないけど先に鈴音お嬢さんには、色々と決めて貰いたい事があるんだ。」勇はくすっと笑った。

勇の鈴音に決めてもらいたい事は2つあった。

1つ目は、身寄りがないのなら屯所にいて、稽古など他の仕事をしてほしいと。

2つ目は、鈴音を助けた藤堂平助の元に置きたいと思っている。

2つの願いを鈴音は、二つ返事で承諾した。

だが、鈴音からも江戸にいる兄に文を送りたいとお願いした。

勇は快く頷いてくれた。

これからは、平穏に暮らせるだろう。

鈴音はその日の夜安心して眠りについた。


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