幕間 カーヴェル家

メラニー・マサーズ


 はいはいはい。

 あたくしね、カーヴェル家のハウスキーパーをしております、メラニーと申しますよ。

 夫のジャックと二人、こちらのお宅を切り盛りさせていただいております。



 うちのだんな様はまあ、とてもいい男。

 なのにずーっと独り者でございました。


 まあねえ、わからないでもないんですよ。ちょっと変わってますから。あら、使用人の分際で失礼な言いぐさですかねえ。

 だけど不思議な方なのでね、ふかーく理解して寄りそって下さる女性なんていないんじゃないか、てジャックも申しておりました。


 なんのお仕事をしてらっしゃるんだか、長くお仕えしてもわかりませんし。

 出会った頃から雰囲気も見た目も変わりませんね。お若く見えますけど、最初からふてぶてし……コホン、貫禄がおありでしたよ。



 まあどんな方でも私はいいんです。

 世間的には悪い事をなさってるのかも、とたまに思ったりはしますが、だったらなんだっていうんです?

 そこには何かわけがあるんです、きっと。


 知ってみれば、とても良い方ですよ。

 私ども夫婦も以前助けていただきまして。そのうえ困っていた私たちにカーヴェル家の差配を任せて下さるようになりました。

 なんとまあ、お優しいでしょう?


 この恩義には、誠心誠意お仕えして応えたいと思うんですよ。

 といってもだんな様おひとりの小さなお宅。お留守の時もありますし、使用人しかいない家なんて寂しいじゃありませんか。

 そう申し上げると「楽でいいだろう?」と笑ってらっしゃるんです。困った方です。



 ところが、です。

 先日とうとう、だんな様が奥さまをお迎えになりましてね。あらまあ!


 また旅に出ていたと思ったら、突然女性を連れて帰っていらして。

 私は狂喜乱舞です。

 おずおずと遠慮がちに入ってらしたエルシー様は、とってもかわいい方でした。


「田舎者で恥ずかしいんだけど」


 そうおっしゃいますが、奥さまみたいのは気さくって言うんですよ。時々子どもみたいに振る舞われますしね。

 だんな様が宝物のようにしてらして、感無量です。


 奥さまはジャックと一緒にお庭の手入れをして下さるし、お料理にも興味がおありだし、私の手が荒れているのを見て「化粧クリームを作りましょうよ」なんておっしゃるし。

 物腰や仕草はきれいで、キチンとした家でしつけられたのだとわかります。でもなんというか、生活力がおありですね。



 ひとつ心配を言いますと。

 奥さまは、だんな様について知らないことばかりだと気に病んでいらっしゃるようで。

 あらあ。

 だんな様ったら、奥さまにまで秘密にしていることがあるみたいです。

 そういうの、よくないですよねえ。

 あたくしだって、ジャックが何かを内緒にしてたら拗ねちゃいますよ。


「ステアったら、私をからかって遊ぶのが好きなんだもの」


 奥さまはプンプン、とされてますけどね。それがまたかわいいんです。だんな様はそれが見たいのかもしれませんねえ。



「ねえメラニー?」


 あら、奥さまがお呼びです。お着替えのお手伝いですかね。

 今日はだんな様と一緒に仕立屋のホガードさんの店にお出かけだとか。

 奥さまは荷物ひとつなしでフラりとこちらにいらっしゃいましたから、先日夏用のドレスを何枚か注文されたそうです。他のお買い物もありますし荷物持ちにジャックは同行しますけど、私は留守番でしょうか。

 と思ったら。あら奥さま、ドレスはきちんと着たのにパタパタ走ってらして、どうしました。


「メラニーも一緒に来てくれない? 婦人談話室にはステアもジャックも入れないんだもの。私ひとりじゃ心配で」

「まあまあ、あたくしなんか」

「メラニーがいいの! ベリントンの流行って私はわからないし」


 そうおっしゃってニッコリされます。

 でもわかってますよ、私だけ留守番なんてかわいそう、とか思ってらっしゃるんでしょう。もう、奥さまもお優しいんだから。


「こんなおばさんのセンスでよろしければ、参りますけども」

「ありがとうメラニー! ついでにみんなで何か食べて帰りましょ? そしたらお夕食は作らなくていいもの」


 嬉しそうな奥さまは、あたくしの娘というには少し歳が上です。だけど娘が生きて育っていたら、こんな風に明るい子だったかなと思うんです。

 ですからね、このメラニー、奥さまのためにも張り切っちゃいますよ!

 さあ、出かける支度をいたしましょうね。


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