第41話 探索少女の装備
俺の動揺に気づかせないため、伊野尾の気をそらすべく、今は二人でダンジョンへともぐっている。
ダンジョン探索を始めたといっても、今のところ、めぼしいことは何もない。気になったことがあるとすれば、伊野尾の装備か。
伊野尾の黒い服は、油断すれば砂汚れが目立ちそうなものの、砂埃の汚れすら目立たない。おそらく、常時防壁を展開しているのだろう。
もしくは、服のほうが、実はかなりの逸品で、それこそ、ちょっとやそっとの攻撃じゃ、傷すらつけられないというものかもしれない。実際、下手をすると、甲冑よりも露出の多い水着のほうが丈夫、みたいな事例は枚挙にいとまがないので、見かけだけじゃよくわからない。武器のほうは多少見分けもつけられるが、どうにも衣服系の防具に関しては自信がない。
「この服がどうかした?」
「あ、いや」
ジロジロ見ていたことに気づかれてしまったらしく、伊野尾がきょとんとしたように聞いてきた。
「別になんでもないんだが」
「もしかして、嫌だった?」
そして、少し慌てて不安そうに聞かれ、俺は首を左右に振った。
「いいや。似合ってると思うぞ」
「本当?」
「ああ。本当、嫌ってんじゃないんだ。綺麗なのは一体どうなってるんだろうって気になっただけでさ」
「ふふん」
その場で小躍りするように、伊野尾は子どもっぽい無邪気な笑顔を浮かべた。
同じようなデザインをいくつも持っているのか、同じものをいくつも持っているのかわからないが、着続けているように見えるし、相当気に入っているのだろう。服のことを話題にしただけで、まるで自分がほめられた時みたく喜んでいるように見える。
「それも初めて言われた。ありがと比企」
「礼にはおよばない。ただ、伊野尾なら他のヤツからも好評を得られただろうに」
甘露のキャラでも学校ではモテるらしいのだ。それなら、伊野尾にモテない要素がないだろう。無論、女子にモテるってのはまた話が違うのだろうが、大人っぽい印象の見た目でとても綺麗な伊野尾にマイナス要素はないように思える。
だが、伊野尾はふるふると力なく首を横に振った。
「そんなことないよ。みんなは比企みたいに見てくれない。みんな、わたしの格好を不吉だって言うんだから」
「不吉? 何の関係が?」
「黒いからって」
「ふぅん?」
家系なのか、それとも家柄なのか、はたまた、魔法使いにも派閥があるのか。どれも俺としては情報不足で判断できないが、とにもかくにも、伊野尾はそのファッションの好みで周りから浮いていたということなのだろう。
「もっと人前に出ても恥ずかしくない格好をしろって。いつまでもそんな黒い服を着ていないで、白く清らかな衣服に身を包めって。そんなんだから…………」
それ以上は思い出すのも辛いのか、伊野尾は口をつぐんでしまった。
「よくわからない事情もあるんだな」
「…………うん」
「俺としちゃ、甘露じゃないが、魔女としてとてもいいと思うけどな。魔法使いの女の子なんだしさ」
「……!」
少し先を歩いていた伊野尾が振り向いてくる。
伊野尾に、とても驚いたみたいに目を見開き、真っ直ぐ俺の顔を見上げられた。
「ま、部外者が何言っても仕方ないか」
「ううん! そんなことない。本当、一人じゃ考えつかなかったことばっかりで、なんて言うか……えーとえーとえーと」
「いいよ。焦らなくて、ゆっくり考えればさ」
「うん。でも、とにかくありがと」
ほほえみ、また歩き出した伊野尾の足取りは今までより少しだけ自信を持てたように見える。
「そいじゃ、やたら気に入ってるみたいだし、その服は一応すごいものなのか?」
「ううん。これはわたしの趣味。ちっちゃいからこういうのが好きで」
「小さい頃はあえて悪いふりをさせて守る、みたいな感じか? となると、汚れてないのは防壁ってことか」
「あとは、服を魔法で綺麗にしてるからかな」
「へぇ」
開錠の時も思ったことだが、魔法ってのは才能があると、器用なことができるんだな。羨ましい。まあ、その辺の練習が億劫な俺にゃ、向かない才能ってところかもしれないが。
「待って」
「ん?」
なぜか伊野尾に止められる。完全に詠唱なしで火炎の魔法が前方へ飛ばされると、何かが焼けてダンジョンに吸収されていくのがぼんやりと見えた。
植物型モンスターがやたら正確な魔法による狙撃で倒されたってことみたいだ。
「命中制度も速度も威力もバッチリじゃんか。すげぇ」
「えへへ」
照れたように伊野尾がはにかんだ。ちょっと赤くなって照れ隠しみたく頭をかいている。
「元からか? いや、元からだったよな」
「今は前よりずっとすごいよ。比企のおかげ。元はここまで威力も精度もなかったし」
「そんなことないだろ。才能と努力の成果だよ」
「ううん。比企がいてくれたから、ここまでやろうって思えたの。だって、ほとんど元とは違う魔法になってるんだもん。与えてくれた比企がいなかったらわたしは今のわたしになれなかった。比企の憑依あってこそ、だよ」
「そうか?」
「そうそう!」
ありがたいけど、こそばゆいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます