第3話 推し、無事バズる
目論見通りリカさんはバズった。
いや、想定以上にバズった。
今までで一番バズったんじゃないかってくらいバズった。
実のところ、俺が推してた子を助けて、その映像がバズるっていうこと自体、初めてじゃない。だから、ある程度は広まるだろうと思っていた。けれど、その反応が予想以上だった。
一日で百万人も登録者が増えるとは思わない。元々は登録者が俺だけだったから、その数は百万倍だ。
正直、登録者の増え方も異常だが、それ以上に予想外なのは、リカさんの対応の方だ。
「ほんと、普通の女の子じゃあないわな。あれは」
彼女はまるで、何が起きているのか完全に理解しているかのように、キンググリズリー討伐がバズったその後も活動を継続し、自分の力でファンを獲得しながらレベルアップしている。
俺が応援していた子たちが、たまたまいい子たちだったから、これまで憑依してきた子たちも、運が良かったとしながら、しっかりと活動を続けていたのだが、リカさんはその中でも群を抜いていた。
本当に、きっかけさえあれば、伸びる要素の塊だったのだ。
むしろ、今までどうして伸びていなかったのか、本当に不思議なほど。
「これ、あれじゃないか? 俺がコメントしてると登録者が伸びない呪いでもあるんじゃないか?」
俺が見ている配信者は、どういうわけかこぞってファンが増えない。
正確に言うと、もうすでに有名な人は、そんなジンクスに当てはまらない。だが、まだまだこれからという人は、こうして俺が謎のテコ入れをしないと、伸びていく姿というものを見たことがない。
悲しい。
いや、これは思い上がりだな。そう、俺はそんな大層な人間じゃない。
腹が減ったら飯を食い、眠くなったら眠る程度の人間だ。他人をどうこうできるものじゃない。
神様じゃあるまいし。
「ってことで、俺も引き時かな。登録者がうなぎ登りの今なら、一人ぐらい減ったところで誰も気づくまい」
こんなことをしておきながらなんだが、俺は推しというものがよくわからない。
俺はあくまで、面白いから配信を見ている。ただそれだけだ。
そりゃたしかに、人気になってくれたら嬉しいけども、特別推しているとか勧めたいとか、そんな感情はあまりない。
本当だ。
まあ、人と配信者について話せないということは悲しいが、俺にはそもそも話すような相手がいないのだ。
……。
「一年、長かったな……」
成長はしてたと思うけど、リカさん、やっぱり小さかったよなぁ……。
いかんいかん。俺は別にロリコンでもない。
これまで助けた人の中には、おじいさんもおばあさんもいた。竹を切ってよろずのことに使いけりだ。
いや、違うか。
「まあ、こんな時は気分転換だな。趣味のダンジョン探索にでも行くか」
なんだか嫌な空気だし。
そう、俺の気分がってんじゃなくて、家にいるのがって感じ。まるで誰かに監視されてる、みたいな。
俺のスキルなら、特に持ち物も必要ないし、手ぶらで家を出てダンジョンへ向かう。
家さえ出られれば問題はない。そんな気分だ。
「うざいなぁ。晴れ」
まるで気分が悪い俺を攻撃してるみたいじゃないか。
いや、だから思い上がりだよ。お天道様は俺に対して何かするために変化したりしないから。
まあ、誰かの気分がものすごくいいのかもしれないけどな。
さっさとダンジョン行きたいけど、うーん……。
「チラッ」
高速移動。
誰かが俺に近づいてきている。
誰かまでは距離が遠すぎてわからない。
なんか知らんが、かなり遠距離から、わざわざ俺を狙って接近してきている。スキルで位置をあぶり出して、俺めがけて移動してきてる感じだ。
「今回は何しちゃったかなぁ」
思い当たる節が多すぎて、正直どれかわからない。
人は迷惑をかけながら、人を助け、支え合って生きているのです。
まあ、迷惑をかけられた方は、そんなこと知ったこっちゃないんだろうけど、そうは言っても、俺は俺で人間だし、完璧じゃないし……。
「警察、じゃないな。そこまでのことは流石にしてない。そこまでやるほど度胸はない」
ただ、逆に言えば、法に触れない範囲なら恨みつらみを買ってきている。
参ったな。これだと気分転換どころじゃない。
いや、もしかすると、この不審者の相手をすれば気分転換くらいにはなるか?
鬱憤晴らそうって相手なら、俺が鬱憤晴らしてしまっても問題はないだろう。やろうというなら、やられる覚悟も持つべきというやつだ。
まあ、それも、やろうとしてる側からすりゃ、知ったこっちゃないんだろうけど……。
だからこそ、意表がつける。
「はぁ。探索者は恨みを買うもの。だからヒキニートやってるんだけどなぁ」
面倒だ。激しく面倒だ。鬱憤晴らしすら面倒だ。
このまま帰ってくれないかなぁ? 無理だよなぁ……。
俺がちょっと警戒しただけで、完全な死角からしか近寄ってこないところを見るに、かなりのやり手だよなぁ。
はぁ……。でも、真昼間の街中で、急に荒事は起こさないだろう。それこそニート同士の喧嘩みたいなことにしかならないはずだ。
「それはそれでカオスだな」
まあ、いいや。
十分近づいてきてくれたみたいだし。今度はこっちから出向いてあげよう。
俺は、相手の動きに合わせるようにして、一足飛びで歩を詰めた。
一歩で詰められるところまで近づいたタイミングで、こちらから距離を詰めた形だ。
憑依の副作用だかなんだか知らないが、周囲の把握は得意なんだ。障害物を乗り越えるくらい、俺としてはお茶の子さいさい。
「……え、いない……?」
相手は俺が背後に回ったことにすら気づいていない様子。
自分の気配と重なってしまえば、相手の気配というのも感知しづらい。これもまた、憑依の副作用ってところか。
「さて、誰だか知らないが何の用だ?」
目の前の人物は、驚いたように、ばっとこちらを振り返った。
少女、だろうか。
いや、髪が長いから少女と称したが、男でも髪の長いやつはいる。背格好も小さいから少女だと思ったが、男でも小さいやつはいる。
だが、目深に被った帽子から覗く顔は、かわいらしいもので、とても人の後をつける輩の顔ではない。
おそらく女、いや、この子は……!
「こちらから挨拶しようと思いましたが、仕方ないですね。初めましてヒキさん。いえ、
帽子を取って挨拶してきたのは、今や時の人となっているリカさん、その人だった。
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