2話 杞憂

少し前まではブレザーの紺色で埋め尽くされていた教室が、ポロシャツの白色で埋め尽くされるようになり、もう七月になったのだと実感する。


あの日から三ヶ月。さくらは先月から体調が優れず、学校には来ていない。おとといから入院していると連絡が来た。



あの日の彼女の表情と問いの意味。


さくらの容態が悪化するにつれて、その答えに近づいてしまっている気がする。

じりじりと迫ってくる答えから逃げるように、放課後、彼女の入院する病院へお見舞いに行った。


病室に入ると、さくらは微笑みながら出迎えてくれた。

「紫苑、来てくれたんだ!」

いつもと変わらないその様子に、激しく安堵した。


あれは杞憂なのだ。さくらは、すぐに元気になる。そう自分に言い聞かせ、短夜の日が暮れるまで、たくさん話をした。



―「駅前にカフェが出来たんだって。今度行こうよ」

―「夏休み、家族と海に行くの。さくらも元気になったら行こうね」

―「少し早いけど、九月に文化祭があるの。さくらは何の出し物がしたい?」


元気になったら、元気になったら、元気になったら。彼女の未来に暗示をかけるように、本当はもう気がついていることに蓋をするように、これからの話をした。

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