1話 桜の言葉
少し前に蕾がつき始めた桜の木は、一週間ほどで満開になった。
入学式の帰り道、桜花爛漫の並木道を、さくらと歩く。物心ついた時から一緒にいる彼女との関係を、腐れ縁、と定義している。
透き通るような肌に、色素の薄い眠たげな目。繊細で、儚い雰囲気をまとった彼女は、名前の通り、桜のような人間だと思う。
そんなことを考えていると、私の数歩前を歩いていたさくらが立ち止まり、こちらを振り返った。いたずらっぽく口の両端を持ち上げながら、
「ねえ、桜の花言葉って知ってる?」
と尋ねてきた。
花言葉か。花は好きだけれど、花言葉までは知らない。興味が湧いたので、私は答えを求めるために、知らないと返した。すると彼女はゆるく微笑み、
「知らないならいいや!」
予想外の返答。
聞いてきたのには、別の理由があったのだろうか。
しかし、今の私には、桜の花言葉よりも、それを聞いてきたさくらの意図よりも、引っかかるものがあった。私
がさくらの問いに答えを返すまでの数秒、彼女の表情がおかしかった気がした。
何かを懇願するようにも、何かを決意したようにも見えた。その表情と聞いてきた理由には、何か関係があるのだろうか。
それなら、その理由も知りたい。
私のなかで渦巻く疑問の答えの持ち主は、今私の目の前にいる。聞けばすぐに答えは手に入る。しかし何となく、聞いてはいけない気がした。
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