第8話 魔法の威力
俺達はその後もスライム相手に魔法の練習をしながらダンジョンの中を歩き回った。
雪葉は魔法を連発していたため疲労感を感じているが、自分自身のレベルアップを感じることが出来て充実した顔をしている。
確かにかなり成長した。さっきまで1つの水の球すら当てられなかったが、今では水の球を3発同時に生み出し、そのうちの2つを命中させることができる。
これなら高速で近づかれない限りこの階層で苦戦することはない筈。
そんなことを考えながらダンジョンの中を歩いていると前の方から膝までの大きさの岩がこちらにノロノロと向かってくるのが見えた。
向かってくるのは《ミニストーン》。
全身が岩石で覆われていて防御力が高い。動きが遅いのでそこまで倒すのに苦労はしない。
雪葉は《ミニストーン》が近づいてくる光景を見るとすぐに杖を構えて魔法を放つ準備を整える。
《ミニストーン》との距離はかなりあるがこちらに気づいている。先手は取れなかったが、《ミニストーン》の移動速度なら特に困ることはないか。
俺がそんなことを思っていると、先程までと同様に雪葉は杖の前に3個の水の球を作り出して、《ミニストーン》に向けて放つ。放たれた水の球は全て《ミニストーン》に命中し弾ける。
「よし!」
と雪葉は全て命中し嬉しそうにガッツポーズをする。だが、その喜びの感情はすぐに消えた。
水の球を受けた《ミニストーン》は濡れているが全くダメージを受けている様子がない。雪葉はそんな《ミニストーン》を見て、驚きの表情を浮かべながら再度魔法を放つが、それも全く効いていないようだった。
威力が全く足りていない。雪葉がまだ魔法の威力を上げることができないとは想定外だった。
モンスターを倒せるくらいの威力はあったので後でもいいと思ったが、《ミニストーン》にダメージが与えられない程の威力しか出せないのは問題だ。
今日はここまでか。
今から魔法の威力を上げる練習はできない。なので威力を上げるのは別日にした方がいい。というか俺が教えられないので別日しかない。ギルマスから許可とれるかわからないが、基礎くらいは少し無理してでも教えた方がいい。
とりあえず、今は《ミニストーン》を倒そう。
「俺がやるよ」
どうしようと心配そうにこちらを見てくる雪葉に俺はそう呟いて腰に下げた剣を抜き近寄る。
「少し待ってて」
ダメージが入らず困り顔の雪葉の肩をポンと叩きそう言って走り出し、《ミニストーン》との距離を縮める。
《ミニストーン》は相変わらずのんびりとした足取りでこっちに向かってくる。そして、そのまま勢いよく体当たりをしてくる。俺は一歩横にそれてその攻撃を避け。すれ違いざまに剣を水平に振り抜く。
剣は綺麗に《ミニストーンの》体を切り裂き、真っ二つになった体は地面に転がった。少しして茶色い宝石へと変わっていく。俺はその宝石を拾い上げ、雪葉の元に駆け寄る。
「今ので自分でも自覚したと思うけど魔法の威力向上。それが課題かな」
と雪葉に伝える。すると雪葉は少し落ち込んだ表情を浮かべながら、
「威力向上。あの魔物に全く効かなかったのにこれからダンジョン攻略できるだけの魔法が使えるようになるのでしょうか」
と嘆く。その表情を見て俺は
「属性魔法の使い方について詳しい訳じゃないけど、俺が見る限り雪葉は魔法をしっかり使えてるから、これから練習すれば問題ないと思う」
と励ます。それを聞いた雪葉は少し元気を取り戻し、
「そうですか。頑張ってみます」
と力強く返事をした。そんな雪葉の決心を若干無駄にするように、
「あっ、でも、魔法の課題は後回しだ。俺は属性魔法が使えないから魔法について教えられないからな」
と伝える。
「そうなんですか?」
と驚きの声を上げる雪葉。だが、少しして思い出したように納得する。俺は頷きながら、
「あぁ、さっきも言った通り俺は剣一本で戦ってるからな」
と説明する。
「そうですよね。さっきまで魔法について教えてくれていたのでなんか使えるって錯覚しちゃいました」
「教えてるのは魔法の使い方じゃなくて戦う上での立ち回りだ。魔法なら俺以外の人間に聞いた方がいい。ギルドメンバーなら海奈さんとか」
「海奈さんですか」
「うん。優しいしわかりやすか教えてくれると思うよ」
俺がそう言うと雪葉は再度頷く。そして、俺は続けて
「それで、このまま3階層に行きたいんだけど、やっぱり威力は心配だ。だから、新しい杖を買って威力を補強しよっか」
と提案する。
それを聞いた雪葉は
「えっ、杖ですか!」
と少し戸惑ったような声を上げた。
雪葉の杖は小さな魔石がついた細いもの。どう見ても初心者用であるため、威力が抑えられている筈だ。もう少し質の良い杖に変えれば3,4階層レベルの魔物を倒せるくらいには威力をあげれる。手っ取り早く威力を上げて上の階層に慣らすには丁度いいと思う。
雪葉は俺の提案に少し悩んだが
「行きます!」
と返事をする。
「じゃあ、明日買いに行こうか」
「はい!」
雪葉の元気な返事をする。その後、ウキウキの雪葉と少しだけスライム倒して、俺達は遺跡探索を終え、ギルドハウスに戻った。
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