第7話 一緒にダンジョンへ
雪葉にギルドの説明をし終え、金稼ぎのためにダンジョンに潜る必要があるが、他にやるべきことはない。なら。
そう考えていると
「あのー、蓮斗さん。私、昨日のことがあって、ダンジョンに1人で潜るのが少し不安で、でも早く強くなりたくて…、もし良ければなんですけど、この後、一緒に来てくれませんか?」
と雪葉がそう聞いてくる。
死にかけた後のダンジョンに1人で行くのにはかなり勇気がいる。そんな雪葉が1人でダンジョンに潜るのは少し心配だった。今日の予定を明日に遅らせても。
少し悩んだが、雪葉にそう相談されたらギルドの先輩としてこっちの優先度が高くなる。
「ああ、いいぞ」
と即答すると、
「やった!ありがとうございます」
と喜ぶ雪葉。
「じゃあ、今から行くか?」
「いいんですか?」
「ああ、この後、暇だからな。準備ができたらここに来てくれ。待ってるから」
暇ではないがいいだろう。明日、頑張ればいい。
「はい!行ってきます」
雪葉は元気よく返事をしてこの部屋から出ていく。
俺はギルドに予備で置いて帰っている剣をとり、使えそうなものを持って軽く装備を整える。ちゃんと装備を整えてもそんなに時間はかかっていない。
時間があるためポケットからスマホを取り出してギルマスに
『冬樹 雪葉の面倒を見るため、当分ダンジョン攻略を休んでいいですか?』
とメールを入れておく。
しばらくすると雪葉が新しい胸当てと腰に杖を装備し、今朝と同様のフード付きの上着を纏った姿で降りくる。雪葉は俺を見つけると 近づいてきて
「お待たせしました」
と軽く頭を下げる。それに俺は
「準備できたか」
と返し立ち上がり
「それじゃ行こうか」
と俺達はギルドを出てダンジョンに向かった。
ダンジョンの出口の集会場のような場所に向かう。
そこには土曜日昼過ぎだからか昨日よりも人が多く、ごった返していた。俺はユキハを連れてその人混みをかき分け、ダンジョンの入り口となる魔法陣の上に立つ。
そして、
「さあ、行こうか」
と少し緊張している雪葉に声をかける。そんな声かけに雪葉は無言で頷く。襲われたこともあってダンジョンへの恐怖が少しあるのだろう。
「今回は俺もいる。そんなに心配しなくても大丈夫だ。気楽に行くぞ」
と言うと雪葉は多少緊張が解れたのか
「そうですよね。ありがとうございます」
と少し表情を柔らかくして言った。
その表情を見て安心した俺は腕輪を緑色の結晶に近づけ、魔法陣を起動する。
そして、俺たちはダンジョンに入って行った。
この世界にダンジョンは全部で5つ存在する。ダンジョンの名はそれぞれ入り口の結晶の色を元にしたものになっており、俺たちのいるダンジョンは《緑の迷宮》である。
魔法陣で転移してきた俺たちの目の前には建物内と思えないような草原が広がっており、色とりどりの花々が咲き乱れている。そんな草原をスライムが跳ね回っていた。
ここは《緑の迷宮》の2階層。今朝の層より1階層下のエリア。
《ラッシュボア》は3階層の標準的な魔物。初めて雪葉にあった時、雪葉はそれに苦戦していたため、1階層下げて様子を見た方がいいと考え、2階層に来た。
飛び跳ねている緑色のスライム、《グリーンスライム》を見つけた俺はそのスライムを指差して雪葉に指示を出す。
《グリーンスライム》はこのダンジョン1階層にも出現する最弱の魔物。跳ねて体当たりしてくる以外の攻撃手段がない為、雪葉でも安全に倒せる筈だ。
「目の前にスライムがいるだろ? まずはあいつを倒してみてくれ」
そう言うと雪葉は街で被っていたフードを脱ぎ、素直に返事をして戦闘態勢に入った。
雪葉は杖を前に構えてスライムとの間合いをつめる。
スライムは雪葉に気づくと雪葉に向かって体当たりしてくるが、その前に雪葉は杖を大きく振り下ろしてスライムに攻撃を与える。
スライムは地面に叩きつけられ、ポヨンポヨンと跳ねながら転がっていく。
雪葉はそれを一定の距離感をとりながら追いかける。そして、スライムが起き上がった瞬間、雪葉は杖の前に水の球を生み出す。そして、スライムに向けて放つ。水の球を受けたスライムは、後ろに吹っ飛ばされ地面を転がり、今度は起き上がることなくほのかに光り、緑の宝石に変わり地面に落ちる。
初心者にしては悪くないが、最初から魔法を使わないで杖で叩いたり、遠距離魔法を打つなら追いかける意味があまりなかったり、正直かなり効率が悪い。
魔法使いじゃない俺が見ても魔法使いとしての立ち回りじゃないことがわかる。
スライムを倒した雪葉は宝石を拾い俺の元に駆け寄ってくる。
「どうでした?」
「流石に1人でダンジョン攻略していただけあってリスク管理ができてるなと感じた。でも、魔法の使い方は全然ダメだ」
そう伝えると雪葉は少し落ち込む。
「ま、それを教えるのが今日の俺の役目。これから俺が魔物との戦い方を教えていくから、一緒に頑張っていこうか」
「はい!」
そう返事をして再び杖を構える。周りにはまだ数体の《グリーンスライム》が跳ねている。
「まずは魔物と戦う時の立ち回りだな」
そう切り出し、俺は雪葉に魔物との戦い方を教える。
自分が魔法使いであるならまずは遠距離魔法を使いスライムが攻撃してくる前にこちらから先制攻撃を仕掛ける。外れたら距離をとりながら近づかれないように魔法を撃ち続けるのが基本。
雪葉の場合、相手の態勢を崩し確実に当てられる状態にした上で魔法を使用している。これは魔法の精度が低いこと、魔法を使う為に使用する魔力の無駄遣いを無くそうという思考が働いているからだと考えられる。
ソロで戦う時、魔力を温存するのは大切だが、剣士ではなく魔法使いである人間が初級魔法を連発したくらいで魔力がなくなる訳がない。低階層では魔法の練習も兼ねて出し惜しみしない方が寧ろ、安全で効率がいい。
精度や魔力の調整に関しては使っているうちに身につく。そこらへんの練習は俺じゃ教えられないから後回しでもいいだろう。
「今はもっと魔力を気にしないで戦う。最初から決めに行く気持ちで魔法を使う。それを意識しながら戦えばもう少し楽に倒せるはずだ」
と俺が言うと雪葉は頷き、再びスライムと向き合う。まだスライムはこちらに気づいていない。
雪葉は杖を前に突き出し、先程よりも大きな水の球を生み出し、スライムに向けて放つ。水の球はスライムに向けて飛んでいったが、スライムはそれに気づくとピョンと飛び跳ねて水の球を避ける。
「あっ、避けられた」
「避けられてもいい。まだスライムとの距離はあるから落ち着いて次の魔法を撃つんだ」
俺は雪葉にそう伝える。すると水の球の次弾を放つ前に杖を前に突き出し、先程よりも大きな水の球を生み出してスライムに向けて放つ。今度はしっかりとスライムに向かって一直線に飛んでいき、スライムを吹っ飛ばした。
「やった!」
と喜ぶ雪葉。水の球をもろに受けたスライムはそのままほのかに光り宝石に変わる。
「やったな」
と俺が言うと雪葉は嬉しそうに頷く。
「今の感じ。魔法の数で近づけさせないような動き、それができればここら辺の階層は問題なく攻略できるはずだ」
そう言うと雪葉は再度頷く。
「一度に出せる魔法の数は1個で限界か?」
「えっと、5個くらいまでなら同時に出せます」
と自信満々に答える。それを知った俺は、
「5個ね。わかった。なら、次は最初から3個水の球を出して攻撃しようか」
と伝えると雪葉は元気よく
「はい!やってみます」
と返事をして、近くのスライムに向けて水の球を放った。
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