第5話 ギルドへの来客
ダンジョンから徒歩15分程度の場所にあるビルの5階。誰もいないロビーを進み、廊下を抜けて1番奥の部屋に向かう。
扉の前で止まってコンコンっとノックをして
「入ってもいいですか?」
と尋ねる。すると、扉の奥から
「いいわよ」
と返事があったので部屋のドアを開ける。部屋の中には2人の女性がいた。1人が椅子に座りその前にもう1人が立っている状況。立っている方は後ろ姿しか見えないのでわからないが、椅子に堂々と腰をかけている方が誰かはすぐにわかった。
黒髪のロングのスーツを華麗に着こなしている女性。俺たち《果ての探索者》のギルドマスター。河野 みゆき。
俺が入って来たことに気づいたのかギルマスがこちらを見る。そして口を開いた。
「あら?今日は早いわね」
そういうギルマスに俺は軽く会釈して返事を返す。
人がいるならさっさと報告終わらせて帰るか。
「今日は新しく作った魔道具の性能確認しかしてないので」
とギルマスに近づくと、もう1人の女性も俺に気づき振り返る。振り返り見えたその少女は雪葉だった。
「あっ、まじかよ」
と思わず口に出してしまう。雪葉も俺に気づくと
「あーーーーー」
と声を上げる。俺はつかさず目を逸らす。
「知り合いだったの?」
とギルマスが俺に尋ねてくる。
どうやら雪葉はギルマスに昨日の出来事を話していないらしい。
「昨日、ダンジョンで知り合ったんですよ」
とギルマスの質問に答える。
俺は困惑しながら
「それで、どうしてこの子がいるんですか?」
そう聞く。
「その子がうち入団したいって来たのよ」
ギルマスの言葉を聞いて俺は固まってしまう。
うちに入るだと?
俺たち《果ての探索者》のメンバーはリーダーと俺、そして後2人しかいない。この1年何人かうちのギルドに入ってくれる人はいたが皆、過去のギルドの栄光と比較してしまい落胆し辞めてしまった。そんなこんなで現在メンバーは増えていないし、そもそも今は募集もしてない。
だから雪葉には関わらない方がいいと忠告したのに...。なぜ来たんだ。
俺が驚いて何も言えないでいるとギルマスは
「じゃあ、私は入団を認めたから後は任せたわよ」
と言って部屋から出て行っていく。
えっ、認めたの? 募集すらしてないのに?
俺が困惑している間に雪葉は俺の元に駆け寄ってきて
「蓮斗さん。今日の学校での態度はなんなんですか!何で私を避けようとしてたんですか!」
と怒っているような口調で話しかける。
「いや、ちょっと、何を言ってるのかわからないなー」
「誤魔化しても無駄ですよ!小泉先輩から蓮斗さんのこと聞きましたからね!」
と雪葉が詰め寄って来る。俺は再び視線を逸らした。なんかもうやばすぎて直視できない。
千聖が話しているならもう完全にバレている。もうこれ以上誤魔化しても意味がないので、諦めて正直に話した方がいい。
「はぁ、そうだよ。俺は七星高校2年。学生兼ダンジョン攻略者だよ」
俺は諦めてそう答えた。
「やっぱりですか。なんで隠したんですか?」
「俺は学校とダンジョン攻略、プライベートを一緒にしたくないの。だから、変に関わって来てほしくないから隠したかったんだよ」
俺は正直に答えた。隠したかった理由は単純に面倒だからとは言わずに。
「だったら、最初からそう言えばよかったじゃないですか」
「はぁ、話した時点で君の友達とかに関係を疑われるだろ」
「それは……そうかもしれないですけど」
そんな雪葉を見て俺はため息をつく。
「で、話は変わるけど、なんでうちに入りたいんだ?」
と俺は尋ねる。
もうこうなったら、真面目に雪葉の話を聞いた方がいい。身バレの心配に気を取られていたが、そもそもうちに入るってのともおかしい。
「俺は《果ての冒険者》には関わらない方がいいって忠告した筈だけど」
と切り出す。真剣な俺の表情にユキハは
「それは蓮斗さんが先輩だってこと確かめるためと、ここなら蓮斗さんもいるし安心かなって思って」
と笑みを見せる。
「はぁ。1個目はもうこれ以上突っ込まないよ。2個目だけど、うちは他の有名ギルドと違って資金や人材が足りてない。だから初心者の育成に力を入れられない状況だ。俺がいるからって理由だけでこのギルドに入っても、前と変わらず1人でダンジョンに潜らなきゃいけないって状況は変わらないと思うよ」
と否定する。ため息ばかり出る。
正直、うちのギルドに入ってもパーティを組んだ方がいいという問題の根本的な解決にはならない。
「私、他に行ける場所ないんです。だから、ここしかないんです」
悲しそうな表情でそういう雪葉。俺は頭を掻いてどうしたものかと考える。
俺は資金確保のため、昨日みたいな素材集め以外の時はある程度中層を攻略している。それと並行して雪葉の面倒を見るのはかなりきつい。
「他をあたってくれ」そう言おうとした瞬間、
「それでもいいです。私は強くならなきゃいけない。このギルドなら強くなれるそんな気がするんです。だからお願いします」
と頭を下げた。
雪葉の意思は伝わってくる。
どうしても意見を曲げない姿に俺は降参して
「しょうがない。俺の中層攻略の時間を減らして雪葉に付き添ってもいいかギルマスに頼み込んでみるよ」
と伝える。それを聞いて雪葉は嬉しそうに笑って、
「ありがとうございますっ!」
と再び頭を下げた。
「一応、言っとくけど、ギルマスがダメと言ったら俺が付き添うって言う話はなかったことになるからな。うちはマジで金がないからあまり期待しないでくれ」
と最後に付け加える。雪葉はそれでも嬉しそうだった。
報酬を得られなければうちのギルドは崩壊する。今までもそうだったから今回も無理だろう。
まあ、ダメと言われても雪葉を1人で行かせるのは心配だから週に何日かは見に行ってあげられるはずだ。それで強くなるまで見守っていけばいい。
「さて、じゃあ、入団するってことで、遅いから今日はここまでだ。どうせギルマスは何も話してないと思うから、明日、ギルドの説明をするから、朝、9時くらいにギルドに来てくれ」
と伝え、俺は自分の家に帰った。
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