第4話 魔道具を買いに
「何焦ってたんだ?」
学校を出て、駅に向かっている途中。駿が俺に聞いてくる。
「ほら、アクセショプに間に合わなくなるかもしれないと思ったから」
「ああ、なるほど。俺を置いてくくらいだからしゃーないかー」
適当な返答をしてみたが駿は納得したように頷く。どうやら誤魔化せたようだ。
「でもよー、なんで冬樹ちゃんはお前の苗字じゃなく名前知ってたんだ?」
駿は当然の疑問を聞いてくる。
「いや、それは……」
と言葉を詰まらす。
「多分、千聖から聞いたんじゃないか? あいつ俺のことを蓮斗って呼ぶし。というか、さっきも千聖に蓮斗って呼ばれたし」
「うーん。まあ、そうなのか?」
と駿は首を傾げるがそれ以上は聞いてこなかった。正直これ以上聞かれるとボロが出るので助かった。
「ところで、この後どうするんだ?」
一緒に帰っているのに何もしないのはちょっと勿体なく感じ駿にそう尋ねる。
「特に決めてないなー」
と駿は呑気に答える。
「じゃあ、ちょっと駅の近くのゲーセンでも行く?」
「お前、アクセサリーの作成、間に合わなくなるんじゃないか? あれだけ急いでたんだし」
と駿が心配してくれる。
アクセサリーの作成は別に何時でもいいし、最悪明日でもいい。焦っていたのはただあの場から離れたかっただけで…。
なんてそんなこと言えるはずもなく、
「そのおかげで少し時間ができたんだけど」
と苦しい言い訳をする。
「まあ、今日はやめておく。無理に行くところじゃないしな。ゆっくりアクセ作ってこいよ」
「そ、そうだな」
駿の気遣いに少し心苦しくなる。
「あっ、その代わりに明後日、一緒にダンジョンに付き合ってくれよ」
と駿は思い出したように言う。
「ああ、いいけど、なんかすることあったか?」
「ほら、昼行きたいって言ったろ?」
「あー、そういえば」
日時指定されなかったし適当にはぐらかしたんだけどなぁー。
「まあ、全然いいよ。明後日な」
「千聖も誘うけど大丈夫か?」
「むしろ千聖が大丈夫かよ」
「部活ないって言ってたし、大丈夫だと思うぜ。適当に俺たちのグループで話せばついてくるだろ」
ほんとに大丈夫かと心配になるが、それでいつも千聖と駿は予定を合わせてくる。今回も大丈夫なんだろう。
「それでよろしく」
後は駿に任せようと俺はそう返事をした。
その後はいつも通りに駿と適当に話をして解散した。そして、家に帰った俺は荷物を部屋に投げ捨て、ダンジョン用の鞄と剣を持ってアクセサリーショプに向かった。
店に入るとアクセサリーを作ってもらっている若い男性店員に声を掛ける。
「あの、すみません」
「はい? ああ、相良くんか」
俺の顔を見た店員は何か納得したように呟く。
「素材集め終わったのかな?」
「はい。それでアクセサリーを作って欲しいんですけど」
俺は鞄から取り出した素材を見せる。
「おおー、すごい量だね。これだけあれば要望通りのアクセサリーが作れるよ」
店員は素材を見て驚く。しかし、すぐに落ち着いた表情に戻り話し出す。
「それで、作るのは魔法耐性付きのブレスレットで合ってるよね? 相良くんのイメージを知りたいんだけど」
「そうですね。前に伝えた通り魔法耐性があればなんでもいいですよ。強いてお願いするならあまり派手じゃないもので」
俺は剣士だ。自身の魔法の威力を上げるような魔道具は必要ない。それにブレスレットの形状や色も特にこだわりがある訳じゃない。デカかったり、派手だったりしたら使いづらいのでそれだけは避けて欲しいがそれ以外に望むものはない。
「分かった。少し待ってて」
と店員は素材を持って奥の部屋へと入っていく。俺は近くにあった椅子に座ってスマホを弄る。
そして、しばらくして
「これでどうかな?」
と店員が戻ってくる。店員の手には一つのブレスレットが握られていた。俺はそれを受け取り確認する。
見た目はごく一般的なブレスレットだ。要望通り。後は性能だが、ここでは試すことができない。とりあえず、見た目は問題ないのでこれで良しとする。
「それでお願いします」
「じゃあ、料金は10万円だけど何で払う?」
やっぱり高い。まあ、普通のアクセサリーよりも高品質だから当然だが。
「現金で」
俺は鞄から財布を取り出し、その中から10万円を取り出して渡す。念の為、20万持ってきたので絶対足りる。
「はい、毎度あり」
金を払い終えた俺はブレスレットをそのまま腕に付ける。
「また、何かあればよろしくお願いします」
そして、店を出る。外はだいぶ暗くなっていた。思った以上に時間がかかったみたいだ。
俺はスマホを取り出して時間を確認する。現在の時刻は19時。
今日は金曜日。明日は休みだ。遅くなっても問題ない。少しダンジョンに潜ってブレスレットの効果を確認するか。
そう考えて俺はそのままダンジョンに向かう。
ダンジョンに8階層に転移をしてとある魔物を探す。しばらく歩いていると魔物の気配を感じる。
それはとんがり帽を被り、コートを纏い、身の丈に合わない大きな杖を持った魔法使いのような小さな精霊。名は《グリーンウィッチ》。俺が探していた魔物だ。
《グリーンウィッチ》は見た目こそ可愛らしいが、8階層の魔物というだけあって強力な魔法を使う厄介な魔物だ。
こいつを探していた理由は勿論、ブレスレットの効果を確認するため。この迷宮には魔法を使う魔物が沢山いるが、その中でも《グリーンウィッチ》は最弱。魔法の威力に対してどのくらい耐性があるのか、どれくらい消耗するのか確認するには丁度いい魔物である。
俺は《グリーンウィッチ》に向かって歩く。《グリーンウィッチ》は俺に気づいたのか杖をこちらに向けてくる。少しすると、その杖の先端に風が集まっていき、風が周囲の落ち葉や砂を集め、風を纏った小さな球を形成する。そして、その球を俺の目掛けて放つ。
俺はその魔法を見てもそのまま立ち尽くす。そして、俺に触れるギリギリのところで魔法は見えない障壁に当たり、霧散する。
ブレスレットの効果、魔法耐性はしっかりと発動している。
「消費した魔力は…」
ブレスレットに触れてブレスレットに込められた魔力残量を確認する。
殆ど変わっていない。つまり魔力の消費を殆どしていないことになる。
魔法を使えるようになる魔道具には杖のように自身の魔力を増幅させる魔増器、魔道具に込められた魔力を使用して魔法を使う魔核器が存在する。
今回魔法耐性の魔法を使用したブレスレットは魔核器だ。魔物の魔石を元に作られた魔核器はその魔石に込められた魔力を使用して魔法を使用することができる。魔石の魔力は基本的にそのままだと使用ができず、加工して魔力の持つ適性と一致した魔法陣を付与することで使用することが可能になる。
そして、今、魔法が近づいたことでその魔力に魔核器が反応し、魔力を消費することでそれを防いだ。
魔力がほとんど減っていないかったのでかなり膨大な魔力が込められているようだ。これならかなり長持ちする筈。
それに魔法耐性自体もかなり高く、全くダメージを受けなかった。性能は十分。
「確認し終えたし、これ以上、ブレスレットの魔力を使いたくないからこいつを倒して一度帰るか」
ブレスレットの性能を確認し終えた俺は《グリーンウィッチ》に向かって駆ける。
《グリーンウィッチ》は再び杖を向けて魔法を放とうとするが、それより先に俺の剣が《グリーンウィッチ》の体を貫く。刺された《グリーンウィッチ》は消え、魔石に変わる。
今日は週末、金曜日。ギルドへの定期報告をしなきゃいけない日だ。なので早めに切り上げたい。
「今日はこんなものか」
と呟き、ダンジョンを後にする。
ダンジョンを出て、スマホを確認すると画面には19:30と表示されていた。家に帰っていたら遅くなる。特にギルドに持っていくものはないのでそのままギルドに向かった。
学校では普通の俺がダンジョンで助けた少女は学校のアイドルだった〜元最強ギルドの剣士はダンジョンでも学校でも充実した生活を送りたい〜 吹雪く吹雪 @hubuku_hubuki
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