第2話 昼休み

 次の日、俺はいつも通り学校に登校した。昨日はあの後しっかり休めた為、疲れは残っていない。


 昼休み、前の席に座っている大西駿が後ろに振り向き


「昨日、素材回収できたのか?」


 と聞いてくる。


 駿は俺が《果ての探索者》に所属していることを知る数少ない友達だ。


 元々、学校で有名になる気がなかったので、クラスの奴らには自分が《果ての探索者》に所属していることは教えていない。学生ってこともあって俺は名前しか公開していない。なので今のところ仲の良い人以外に俺が《果ての探索者》のメンバーであることはバレていない。


 これは結果論だが、一年前のこともあって教えなくて良かったと思っている。今、目立とうとしても変に避けられるだけ。もうこれでいい。


「これで魔法耐性のあるアクセサリーが作れる」


「おおー。あの高級アクセが作れるのかー」


 駿が感嘆の声を上げる。


「やっぱりダンジョンって儲かるのか?」


「危険な代わりにコンビニバイトよりかは全然稼げるよ」


 全盛期は土日のダンジョン攻略だけで1日数十万稼いでいたが、今は放課後と土日ほぼ毎日ダンジョンに潜って月30万程。学生にとっては十分な額だが全盛期に比べたらかなり落ちている。


「俺も冒険者になろうかな〜」


「なるって言うなら手伝うけど、おすすめはしないぞ」


 危険だし、最初のうちはあまり稼げない。何より駿には目的がない。駿がお金を稼ぐなら慣れないダンジョン攻略よりアルバイトの方が儲かる。


「そうだよな」


 駿は一旦、食いついたが辞めることにしたようだ。


「マジで危険だからな。昨日、ダンジョンで俺より少し下の女の子が魔物に襲われてたくらいだし」


 昨日あったことを口にした瞬間、駿の目つきが変わる。そして、食い気味に質問を投げかけてくる。


「えっ、まじ? 蓮斗、お前、助けたよな?」


「当たり前だろ」


「まあ、そうだよな」


 当たり前と言ったが、一瞬面倒くさいなと思ったんだよな。疲れてるとはいえそう思ってしまったことは反省しなければ。


「可愛いかったか?」


「ああ。かなり美少女だったよ」


 お世辞抜きで可愛かった。何故あんな子がダンジョンしているのか不思議なくらい。


「まじか。連絡先とか交換したか?」


「いや、ダンジョンから街まで送ってそのまま家に帰ったよ」


 絶対なんかあるし、そもそもあまり接点の無い人に俺の連絡先を教えたくないし。連絡先を交換しても、もう会うことはないだろうし。


「そもそも遊び以外でダンジョンにいる奴なんて、有名になりたい奴か戦闘狂か訳ありだけだよ。あそこで連絡交換なんてしたら何があるかわからん」


「へー、ためになるな。ダンジョンは出会いの場じゃないってことねー」


「命をかける場所だ。当たり前だろ」


 そんなことを話していると


「何話してるの」


 とショートヘアの女子が話しかけてくる。駿の幼馴染みである小泉 千聖だ。俺の数少ない学校で話せる女子。


「お、千聖か。今、蓮斗のダンジョン話を聞いてたんだ」


 千聖はそれを聞くといつものねー。と近づいてきて話を聞き始める。


「今日はどんな話?」


「昨日助けた初心者の話」


「へぇー、どんな人?」


「ちょっと幼いけど高校生だと思われる少女」


「そうなんだ。可愛かった?」


 全く、なんでこうダンジョンでの出会いについて興味を持つんだよ。


 俺が答えようとするが先に駿が答える。


「可愛かったらしいぜ。ダンジョンにしか興味のない蓮斗が言うんだから間違いない」


 その言葉に俺はすぐに反論する。


「いや、ダンジョンにしか興味がないわけじゃない」


 ダンジョン攻略が楽しかったから、そっちに気持ちがのってただけで興味がなかった訳じゃない。


「でもお前の学校でそういう話聞かないし、見たことないし、今回だって連絡先聞かったし」


 くっ、否定できない。学校での女子との接点は千聖以外ほとんどないし、ダンジョン関係にもギルドメンバーを除いて連絡先を交換した女性はいない。


「蓮斗って見た目はそこそこかっこいいのに本当に女子と関わろうとしないからねー」


「いいだろ、別に」


 いつのまにか俺を茶化す流れになっている。


「でも、そんな蓮斗が可愛いっていう子かー、見てみたいな」


「俺が助けたのが3階層だったから、ダンジョンに遊びに行くってなったら会えるんじゃないか? 3階層で苦戦してたし、当分は1、2階層に降りてお金稼ぎをするだろうし」


 ダンジョンの低階層、特に1階層2階層は危険が少なく学生や社会人の遊び場となっている。


 昨日の少女が何が目当てでダンジョンに潜っているかわからないが、態々危険なところに1人で行くことはないだろうから1、2階層にいる筈。


「おおー。じゃあ、今度連れてってよ」


「おっ、それはいいな。久しぶりにダンジョンに行きたいと思ってたし」


 と2人は乗り気だ。


「ま、気が向いたらな」


 そんなくだらない話をしながら昼休みは過ぎていった。

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