学校では普通の俺がダンジョンで助けた少女は学校のアイドルだった〜元最強ギルドの剣士はダンジョンでも学校でも充実した生活を送りたい〜

吹雪く吹雪

第1話 少女との出会い

『ダンジョン』


 それは、日本各地に突然と現れた天へと続く複数の謎の迷宮。


 ダンジョンには魔力という特別な力で満ちていて、その影響で強力な魔物と呼ばれるモンスターが常に徘徊している。魔物に殺される可能性のある危険な場所であるが未知の資源が多く存在し、世界に様々な恩恵をもたらしている。


 そんなダンジョンの薄暗い森で俺は小さな兎を追っていた。


 兎の名は《ラットラビット》

 小さく、素早く、逃げ足が速い兎。


 殺傷能力は低いが上記の特徴を持つため、捕まえることが困難な魔物とされている。


 ラットラビットは草木をかき分け俺に捕まらないように必死に逃げ回る。


 俺は少しペースを上げてラットラビットを追いかける。


ラットラビットがいくら速いとはいえ、追いつける自身があるから追っているので、徐々に必死に逃げるラットラビットとの距離が縮まって行く。


そろそろかな。


ラットラビットとの距離が2メートル程になった瞬間、地面を大きく蹴り上げる。


俺とラットラビットとの間に障害物はないので速度を落とすことはない。確実に仕留められる。


 瞬時に加速して距離を詰めた俺はラットラビットに追いつき腰に装備していた剣を鞘から抜き、小さく振ってその首を狩りとった。


 足元に頭と胴が分かれて転がったラットラビットはほのかに光ると5センチ程の黒い宝石へと姿を変える。それを拾い上げた俺は剣をしまって近くにあるダンジョンの出口に向かって歩き出す。


 俺は相模さがみ 蓮斗れんと16歳。現役の高校生兼元最強ギルドである《果ての探索者》に所属する、冒険者。


「終わった。終わった。長引かなくてよかった」


 今は木曜の学校終わりの放課後、大体8時。疲れが溜まってきているタイミング。正直、これ以上ダンジョンにいるのは疲れる。


 帰って飯食べて風呂に入って爆睡しよう。


 現在、ダンジョン3階層。ダンジョンから出ようと歩いていると俺の前方、正確には前斜め右方向から女の悲鳴が聞こえてくる。


 何かあったか?

 

 悲鳴。絶対に面倒ごと。疲れてへとへとなので無視して帰りたいと一瞬思ったが、何かあったら後悔するかもしれない。


「はぁ、少し様子を確認しに行くか」


 そう呟いて全速力で声の聞こえた方に向かった。


 大体、1km程走ったところで開けた場所に出た。俺は飛び出す前に、木の近くに隠れて様子を確認する。


 イノシシの魔物が勢いよく突進している姿が見える。魔物の名は《ラッシュボア》。そのラッシュボアの先には少女が座り込んでいた。腰が抜けて動けなくなっている感じ。


 魔物に襲われている状況か。


 襲われている少女は若く、武器や装備も新人のそれ。


 ダンジョンは塔のように天に伸びており、その中は数十階層にもなっており、上の階層に行くほど魔物の強さも上がっていく。


 ここはダンジョン3階層。低階層の初心者フロア。1、2階層には遊びでやってくる人も多いが1人で来てるってことは多分冒険者になって間もない初心者。


 魔物にやられて動けなくなっているところに追い討ちをかけられているって感じだろう。


 ダンジョンなら日常茶飯事だし、初心者ならよくあることだ。


 よくあることだからと言ってこのまま見捨てることはできない。初心者装備であの魔物の突進を受ければただでは済まない。最悪死ぬ可能性がある。


「助けるか」


 そう呟いて剣を抜き、俺は一気に飛び出す。


 走りながら腰に下げた短剣を左手で抜いてラッシュボアが少女にぶつかる前に投げる。短剣は一直線に飛んでラッシュボアの尻に突き刺さる。


 いきなりの攻撃に驚きラッシュボアは勢いよく立ち上がり後ろに倒れそうになりバランスを崩し、そこに走り込んでいた俺は右の剣でラッシュボアの首を切断した。


 ラッシュボアは先ほどのラット・ラビット同様に宝石になる。


「これでよしと」


 宝石を拾い鞄に入れ、近くに落ちていた短剣を拾って背中にしまって少女に近づく。


 座り込んでいる少女は俺より少し年下に見える。とりあえず、安否確認のために女の子に声をかける。


 身長は俺よりも小さいが女の子としては普通くらいの高さ。ツーサイドアップで長い髪のダンジョンでは殆ど見たことないくらいの美少女。


 着ているのは少し厚いシャツと肘当てなどの防具と言った初心者装備。胸当ては魔物に壊されたのかひび割れてインナーが見えており、スカートである為、健康的な太腿が露わになっている。


 正直言ってまじで可愛い。1人でダンジョンに来るような訳ありっぽい感じじゃなく、街で会ってたら食事に誘ってる。多分。


 だが、ここはダンジョン。命懸けのダンジョン攻略をしている女性に裏がないわけがない。


 決して俺がコミュ障で女性と上手く会話ができないから食事に誘えないとかそういう話じゃないからな。


 ここがダンジョンだということを恨みながらも俺は少女の前にしゃがみ込む。


「大丈夫か?」


 少女は震えながらコクりと小さくうなずく。俺は立ち上がり周りを見渡す。魔物の気配はない。


 安全であると判断した俺は少女に向き直り来ていた上着を脱ぐ。それを見た少女は身震いをする。


 何も言わずにこれはまずいか。どう見てもいきなり脱いだ変質者だ。


「えっと、これ着なよ」


 視線を逸らしながら上着を渡すと少女は少し顔を赤くしながら下を向いてしまう。


 そして小さく「ありがとうございます」と呟くように言い上着を羽織る。そして、上着を羽織り終わった少女に


「立てるか?」


 と声をかける。俺は再び腰を抜かしたまま立てず、目尻に涙を浮かべている少女を見る。


 まだ少し怯えている。ま、殺されかけたんだから当たり前か。


「手、握れるか?」


 俺が手を差し伸べると少女は手を握りおぼつかない足取りで立ち上がる。


 見た限り外傷はなさそうだが精神的に傷ついている少女をこのまま1人で帰すには気が引ける。


 街まで送ろう話しかけようとすると少女は頭を下げる。


「助けてくれて、本当にありがとうございます」


「気にしなくていいよ。冒険者は助け合いだから」


「それでもありがとうございます」


 少女はお礼をもう一度言うと、顔を上げ、真剣な眼差しで俺を見つめてきた。かなり顔の距離が近い。


 近くで顔を見て思う。

 やっぱり可愛い。この子。


「えっと、君は?」


「あっ、私は雪葉って言います」


 雪葉。どこかで聞いたことのある名前。知り合いにはそんな名前の人はいないので気のせいかな。


「雪葉か。俺は相模 蓮斗」


「相模 蓮斗、蓮斗...。あっ、相模 蓮斗さんってまさか《果ての探索者》の蓮斗さんですか?」


 雪葉は確かめるように俺の名前を呟き、《果ての探索者》の名を口にする。


 かつて《果ての探索者》は最強ギルドだったこともあり有名だった為、俺の名前を聞いたことがある人間はかなり多く存在する。雪葉もその1人なのだろう。


「そうだけど」


 俺がそう答えると雪葉は目を輝かせて


「まさか、また本物の蓮斗さんに会えるなんて」


 嬉しそうにそう語る。


《果ての探索者》は最強ギルドであったが、今は見る影もない。


 俺たちは最強から落ちぶれた元最強。例えるなら、旬を過ぎた芸人だ。あまり凄いものではない。


「それで、雪葉はなんでここに? 見た限りだと学生っぽいけど、ここで遊ぶのは危険だぞ」


「あ、遊びじゃないですよ」


 雪葉が真剣に反論してきたということは本当に遊びでダンジョンに来ていないってこと。そうなら俺と同じ学生兼冒険者かな。だとしたらやっぱり初心者か。


「冒険者か。でも低階層とはいえ1人で攻略するのは危険だ。やめとけ」


「わかってるんですけど、私と一緒にパーティ組んでくれる人がいなくて」


俺のアドバイスにそう答える雪葉。


 雪葉はお世辞抜きでかなり可愛い。そんなわけないだろと言いたくなったが踏み止まる。雪葉の場合、可愛いからすぐに同行者を見つけることはできるだろうが、可愛いからと言って危険なダンジョン攻略に同行するようなやつに碌なやつはいない。


だから、雪葉が1人であることに納得してしまう。


「そうだったのか。なら仕方ないか」


 雪葉は小さくうなずく。


「有名なギルドに入れば攻略を手伝って貰えたり、パーティに入れてもらえそうだけど」


「私、弱くて有名ギルドに入れないんですよね」


 と少し苦笑いを浮かべながら言う。


「学校の友達とか知り合いでダンジョン攻略してる人はいないのか?」


「あまりダンジョン攻略してる子がいなくて」


 まあ、そうだよな。俺の周りでも学生しながらダンジョンに潜っている人は少ない。女子なら尚更か。それにいたらお願いしてるか。そもそもダンジョン攻略なんて命懸けのことを友達に頼む訳にはいかない。


結構詰んでる。


 俺が一緒にパーティを組んで鍛えてあげたい気持ちもあるが俺にそんな時間はない。今日はもう家に帰ってゆっくり休みたい。というか休まないと明日の朝、起きれなそうだし、今後もダンジョンでの仕事があってそんな余裕はない。


「ごめんな。俺が手伝えればいいんだけど…」


「気にしないでください。少し信頼できるギルド探してみます」


「そっか。見つかるといいな」


「はい。でも蓮斗さんと会えたので少し希望が持てました」


と嬉しそうに微笑む。


そんな笑顔で言われると手伝ってやると口走ってしまいそうになるがグッと堪える。俺にそんな余裕はないのだから。


「それじゃあ、俺は帰るよ」


「あっ、私も帰ります。明日、学校あるので」


 俺と同じ学生だ。これ以上は明日の学校に響くか。もう帰るなら街まで送ってあげるか。それくらいはしても影響ないだろ。


「そっか。帰るなら街まで送っていくよ」


「あっ、はい。ありがとうございます」


 俺は雪葉と歩き出す。雪葉は歩きながら、


「蓮斗さんはまだ《果ての探索者》に属してるんですか?」


 と尋ねてくる。


 どう返答しようか。変に答えて、俺の身元がバレてしまうのもなー。あっ、でも別にネットで俺の名前を調べればすぐに情報が出てくるから今隠しても意味ないかー。


「そうだよ。でも、あの頃のような最強ギルドじゃなくてなってしまったからそんなに自慢できることでもないけど」


「そうなんですか?」


 雪葉は聞き返してくる。


 あれ、俺らのギルドが壊滅状態になったことを知らないのか。


 俺の所属する《果ての探索者》は今も活動している元最強ギルド。ただ、1年前に俺と3人を残してすべてのギルドメンバーを失った。それによって今の《果ての探索者》はほぼ活動休止のような状況。最高層を攻略するわけでも特別な依頼を受けることもなくなった俺たちは見向きもされなくなり中堅ギルドへと落ちぶれた。


 今ではギルドメンバーを募集することも少なくなり、残ったメンバーはダンジョンの中層を攻略して稼いでいる。


 俺は雪葉にそんな事情を説明した。すると雪葉少し悲しそうな顔をして呟く。


「あまり話を聞かないと思ったらそんなことがあったんですね」


「だから《果ての探索者》に興味があっても今は関わらない方がいいよ」


 俺は忠告をする。そんな俺の言葉に雪葉はキョトンとした顔を浮かべる。


「話した通り昔とは全然違うし、周りからの目も良くないからね」


 俺は苦笑いを浮かべてそう答える。

 これで今日以外関わることはないだろう。


 雪葉は俺の言ったことを理解したのか


「そうなんですね」


 と返事をした。


 そこから道中で魔物に襲われることもなく、軽く歩いて目的地である3階層入り口に辿り着く。


 魔法陣が描かれておりすぐ側に青色の結晶が置かれているだけの場所。


「ダンジョンから出るから魔法陣の上に乗ってくれ」


 俺がそう言うと、 雪葉は魔法陣の上に乗る。俺はそれを確認すると


「よし、転移するぞ」


 と言って腕輪を結晶に近づける。すると魔法陣が光出す。そしてその光が俺たちを包み込むと同時に視界が一瞬真っ白になり、次に見えた景色は少し広い集会場のような場所であった。そこには武器を持った人間で賑わっていた。


「無事に着いたな」


 今使用したのは階層ごとに設置された転移の魔法陣。ダンジョン攻略をする際に装着しなければならないこの腕輪で魔法陣を登録すると登録した魔法陣間での移動が可能になる。


「さて、地上に降りて来れたしもう安全かな」


 と辺りを見渡しながらそう言う。


 地上に降りて来れたし、もう危険はないだろう。


「じゃあ、俺はここで」


 と別れを告げる。すると雪葉は慌てて


「ちょっと待って下さい! まだお礼が!」


 と止めてくるが俺は首を横に振る。


 ここから悩み相談する流れになって、手伝う羽目になるやつだ。絶対に止まってはいけない。例え、訳ありじゃなくてもこれ以上は明日に響く。


「いや、別に気にしないでいいよ。じゃあ、気をつけて」


 俺は強引にそう言って歩き始める。そして、俺はそのまま全力で家に帰った。


 そういえば上着、貸したままだったなと家に着いてから思い出したが、そこまで思い入れがあるものではないし、返してもらうために会うのもめんどくさいので気にせず俺は寝た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る