ep4
「……わかりません」
アルティムは、今日初めて、戸惑ったような表情を見せて、首を横に振る。
「星の灯では、魔法使いは神秘の力を独占し、それを用いて権力を握り、人の世を陰から操っていると、世界の変化を拒む悪だと、教えられました」
あぁ、なるほど、如何にも星の灯らしい、魔法使いに対する物言いだった。
しかしそれは、必ずしも間違ってる訳じゃない。
この世界の変化が乏しいのは、確かに魔法の存在があるからだ。
例えば怪我や病気に対しての医療が発達してないのは、魔法及び魔法薬で、怪我や病を治せるからだろう。
魔法使いの数からして、それは多くの人にまで届く方法ではないけれど、金や伝手を出せれば治せる手段があると、それ以外の方法が育ちにくい。
民間医療の類は必要とされてそれなりにあっても、それを体系立てて纏め、広く普及させるという動きには繋がっていなかった。
何故なら、普及させる側である為政者、貴族達は、比較的だが魔法や魔法薬の恩恵を受け易いから。
医療を例に挙げたけれど、凡そあらゆる物事が、魔法の存在によって変化が鈍っているのは、事実である。
魔法使いがその魔法の力を背景に、権力と結びついて影響力を誇るのも、同じく事実だ。
「でもその源であるここで出会ったのは、少なくとも生徒は、誰もが皆、偶然に魔法の才能に恵まれただけの子供でした。教えてる内容も……、その、思ったよりも公平です。幾つか、隠し事はありましたけれど」
ただ、そう、魔法使いは別に、魔法の力を自分達だけで秘匿してる訳じゃない。
むしろ魔法使いは、増やせるならばもっと魔法使いの数を増やしたいと思っているだろう。
だって明らかに、魔法使いの数は足りてないから。
魔法学校の一学年の人数は、その年によって、魔法の才能に恵まれた子供の数によって変化するが、およそ三十人前後。
すると一つの国につき、新たな魔法使いは五人程しか誕生しない。
しかも卒業後、必ずしも国に戻って来るかと言えばそうでもなく、魔法学校に残って教員や影靴の構成員になったり、魔法使い相手の仕事を始める者もいれば、そもそも在学中に命を落とすケースもあった。
つまり魔法使いは数が少なすぎて、富や権力は得られても、簡単には引退もできない仕事になってる。
その要因は、魔法が残酷な程に才能に由来する力だから。
幾ら魔法使いを増やしたくても、魔法を使えるだけの魂の力を持つ人間が希少だから、増やしようがないというのが現実なのだ。
アルティムはこの魔法学校で、魔法がどれ程に才能に由来する力なのかを、当たり枠、才能に溢れる側として知った。
自分が簡単に使える魔法も、ギリギリ魔法学校に入れた者が成功させる為には、どれだけ苦労するのかを。
選ばれた者ですらそうなのだから、選ばれなかった者に扱える力ではないと察するのは、決して難しい話じゃない。
また魔法の才があれば、入学も容易だ。
彼の場合は自分の経歴を隠す必要はあっただろうけれど、それさえすれば、後は勝手に魔法学校側から探し出して誘いに来てくれる。
だからアルティムは、魔法使いが神秘を独占しているというのが、星の灯の勝手な言い分、持たざる者の妄言であると、わかってしまった。
「僕には、どっちが正しいのかは、わからなくなってしまいました。ただ、仲良くしてくれる、……友人もできました。ドラゴン・ロアーも皆で必死になって、楽しかった。キリクさん達には勝てませんでしたけど」
そういった彼の表情は、まるで今にも泣き出しそうだ。
……参った。
泣かす心算はなかったんだけれど、思った以上に、アルティムは色々と抱え込んでたらしい。
そりゃあ立場の異なる二つの組織に、同時に身を置いているなら、相反する価値観、しがらみ、その他多くの物に、悩まされるのも無理はないだろう。
でも彼はクラスメイトを、見習いとはいえ魔法使いを、友人と呼んだ。
そして楽しかったとも、口にした。
だったら、アルティムは星の灯の預言者であっても、僕の後輩である事に変わりはない。
後輩が相手なら、僕は手助けをしようと思うし、或いはお互いに協力もできる。
「アルティム、僕と取引しよう。僕はこのまま、君の正体に関して沈黙する。更に君を通してだけれど、星の灯の穏健派に協力もしよう。……その代わりに、アルティム、君が教主とやらになって星の灯を掌握するんだ」
僕はアルティムに、彼が属する組織を乗っ取るように唆す。
かなりの無茶を言ってるのはわかってるけれど、星の灯が僕に求めてる事だって物凄く無茶なんだから、お互い様だと思う。
それに預言者という立場だから、求心力もあるだろうし。
もちろん彼がどうしても無理だっていうなら、僕も別の手段を考える。
その場合でも、アルティムが学生としての生活は続けられるように、彼の正体に関しては沈黙するだろう。
しかし星の灯に関しては、徹底的に痛い目にあって貰うより他にない。
今までは、僕は正体のわからぬ星の灯に対して受け身にならざるを得なかった。
けれどもアルティムと星の灯に深い繋がりがあるとわかった以上、それを辿れば僕は星の灯の正体に迫れる。
手段を選ばずに動いたならば、教主を含む、星の灯の指導者層に消えて貰うくらいは、恐らく可能だ。
何故ならその時は、僕とシャムの故郷の村の、ケット・シー達の力も借りるから。
彼らはその気になったなら、猫としてどこにでも入り込んで情報を集めたり、その爪で容易く人の命を奪える。
もしもケット・シーを敵に回せば、本当に比喩じゃなく、国くらいは簡単に滅ぶ。
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