ep3
「過激派がキリクさんに望むのは、大破壊の再現。今の世界を壊した後に、理想の世界を作り上げる為の下拵えをする事」
アルティムが先に語ったのは、星の灯の中でも過激派側の望み。
……星の灯が大破壊の真実を知ってるのか否かはともかく、その再現を望むなんて、やっぱり碌でもない連中だ。
何よりも腹立たしいのは、僕が大破壊の再現なんて事に力を貸すと、ほんの僅かでも思ってるところ。
「全員がそう思ってる訳じゃないですよ。過激派だけが、自分たちに都合のいい星の使徒を勝手に理想としてるんです。それに、本人がやらずとも、その魂の力を借りる方法があるんですよ。恐らくマダム・グローゼルは、星の使徒であったハーダス前校長の魂の力を借り受けて邪竜を倒したと、星の灯は推測してます」
僕の怒りの気配を感じたのか、アルティムは大慌てでそう付け加える。
だがそれは、あまり言い訳にはなってないと、僕は思う。
それを望んでるのが過激派だけだったとしても、星の灯で主流となってるのが過激派ならば、それは組織そのものがそうであると見做されても仕方ない。
……しかしそれよりも気になるのは、魂の力を借りられるってところだった。
そんな事ができるのだろうか?
少し考えてみたけれど、あぁ、できない理由が見当たらない。
その方法として一番可能性が高いのは、契約を用いる事だ。
以前、ツキヨが僕に持ち掛けた、無条件の契約。
シャムが、今の僕には受け止めきれないからって止めたそれは、文字通りに全てを相手に差し出すって意味だっただろう。
それこそ、自分の魂すらも含めて。
ツキヨの妖精の魂を受け取ると、僕の魂もそれに染まる。
あれはそういう意味だったんじゃないかと、今の話を聞いて、思い当たった。
そうなると、マダム・グローゼルがハーダス先生の魂の力を借りたというのは、如何にもありそうな話に思う。
仮にそうだとして、どうしてハーダス先生が直接戦わずに、マダム・グローゼルに魂の力を貸してそうさせたかというのは、後継者としての箔を付けさせる為とか、色んな理由があった筈。
だが一番の理由は、恐らくそうした方がハーダス先生が直接戦うよりも、強いからじゃないだろうか。
これは僕がそうだから、実感があるんだけれど……、強い魂の力の持ち主は、魔法の練度は高くない。
何故なら苦労せずに魔法が使えてしまう為、試行錯誤をしないから。
僕は魔法学校に入学して以来、魔法を使う為に苦労をした経験が、殆どなかった。
イメージの構築に手間取った事はあるけれど、魔法を使う為に魂の力を絞り出そうとするような、そんな苦労は一度もしてない。
けれども僕のクラスメイト達は、誰もが常にそんな苦労を重ねて、それでも駄目なら自分の成長を待って、魂の力が増してから、漸く魔法を成功させてる。
つまり魂の力を引き出す練習を、彼らは多く積んでいた。
当然ながら、魂の力を引き出す事に関しては、僕よりも他の魔法使いの方が、上手いだろう。
ハーダス先生も、きっと同じだった筈だ。
並みの相手は、単純に魂の力の強さで押し勝てるが、竜も同じく強い魂の持ち主である。
故に、ハーダス先生はマダム・グローゼルに魂の力を貸し与える事で竜を上回ろうとした。
……もちろん全ては想像に過ぎないけれど、そう考えると色々と納得がいく。
「穏健派がキリクさんに望むのは導き。教主の座を過激派から奪い、緩やかな変革を目指して自分達を導いてくれる事」
ただ僕にとっては色々と考えさせられる内容だったが、それを口にしたアルティムには然して重要ではなかったらしく、彼は星の灯の望みについて話を続ける。
こちらは穏健派というだけあって、望みの内容は随分と穏やかだ。
尤も僕は、見ず知らずの星の灯の信者達を教主として導くなんて面倒は、真っ平ごめんだと思ってしまう。
それを望まれたからって、積極的に敵対しようと思う程ではないけれど、彼らの望みを受け入れるのは、僕の生き方じゃなかった。
結局、僕と星の灯という組織は、あまり相性が良くないのだろう。
ただ、穏健派の、教主の座を過激派から奪うってところに関してのみは、協力の余地はあるかもしれない。
「結局、星の灯と僕は相容れないね。穏健派の方とは、一部なら協力できることはあるだろうけれど……」
アルティムがどちらなのかは、敢えて聞かない事にする。
これまでの口ぶりからある程度は察せられるし、それでも彼の見た未来、僕に関する情報を使って過激派と思わしき連中が動いていた事を考えると、それを聞けば深入りしすぎるから。
その問題を解決するのは、アルティムじゃなきゃいけない。
僕はアルティムの先輩ではあるけれど、教え導く教主じゃないのだ。
だが、先輩として、後輩の問題を解決する手助けくらいは、望まれればするだろう。
しかしそれも、彼が僕の後輩であり続けるならの話だった。
「アルティムは、この魔法学校での生活をどう思ってる? やっぱり魔法使いは憎い?」
だから僕は、二つ目の質問を彼にぶつける。
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