十七章 僕の生き方
第174話
魔法学校に戻った僕を待っていたのは、やはり何時も通りの忙しい日々。
すっかり慣れた僕の日常だ。
夏期休暇の、僕が戦場に赴いていた間はパトラに預かって貰ってたぴー太は、しばらく見ない間に1.5倍くらいに大きくなっていた。
雛だから成長が早いのもあるだろうけれど、……まぁ、ちょっと、食べ過ぎかなって気はしなくもない。
パトラは長い休みは毎回実家に帰ってるので、ぴー太はそこで大いに可愛がられたのだろう。
運動も十分にさせて貰ってたみたいで、過剰に太った訳じゃないから、これ以上は食べ過ぎさせなければ、成長と共に適正に近付いていく筈である。
幸い、魔法生物であるぴー太は暫く会わなくても僕をしっかり覚えてたらしく、戻ってくる事にも抵抗はない様子。
むしろ面倒臭かったのは、夏期休暇の間は完全に放置する事になったイチヨウの方だった。
戦術同好会のスパーリグや、会長であるバーリーと共に魔法生物を狩る仕事でジェスタ大森林へと赴いていたという彼は、その話を僕に詳細に語りたがったし、また戦場で何があったのかを逐一聞きたがったのだ。
なんというか、懐いてくれてるのだろうと思うと、嫌な気持ちはしないのだけれど、流石に雛のぴー太よりも構ってが激しいのは、サムライとしてどうなのだろう?
あぁ、でも、そうか。
イチヨウはサムライとなるべく修練を積んで、厳しい責任感に縛られてたけれど、遠い西の果てに来て、漸くこちらでも気の合う仲間が増えてきて、彼の素の表情が出てきたのかもしれない。
サムライ見習いのイチヨウではなく、個人としてのイチヨウの顔が、この少しはしゃいでしまった少年なのだ。
そう考えると、何だか微笑ましくなってくる。
またイチヨウは、魔法生物を狩る仕事で金が溜まったら、それで魔法の発動体を買うのではなく、僕に発動体の作製を依頼したいと言ってきた。
どこの誰とも知らない魔法使いが作った品を買うよりも、僕に頼んだ方が信頼できるからと。
正直、まだ学生の僕よりも、そうした品の作製を専門にした魔法使いの方が良い品を作れる気はするが、見知らぬ誰かよりも僕に頼りたいというのがイチヨウの気持ちだったなら、それはもう仕方ない。
魔法の発動体を作る事自体は、別に難易度が高い作業じゃないのだ。
何故なら凄く乱暴な言い方をすると、魔法生物の素材は、それ自体が既に発動体のようなものだから。
ただそのままでは人間である魔法使いには扱いにくいから、素材の抵抗を少なく、親和性を引き出し、劣化しないように加工して、携帯性を高め……、といった処理をしてるに過ぎない。
難易度が高い作業じゃないからこそ、工夫の余地は多く、そこが僕は専門の魔法使いが積み重ねたノウハウに劣るのだけれど、……できる限りはやってみよう。
そういえば、クレイへのお礼も考えなきゃいけない。
もちろん魔法学校に戻ってすぐに、ジャックスが吸魔の銀瓶を返却する際、一緒にお礼は言いに行った。
仮にクレイがそれを貸してくれてなかったら、ジャックスは今頃生きてなかった可能性もあるのだ。
しかしそれはそれとして、ジャックスは吸魔の銀瓶をよほど気に入ったのだろう。
再び遺跡で同じ物が見つかれば、是非とも買い取らせて欲しいとクレイに三回くらい言っていた。
まぁ、気持ちはわからなくもない。
僕だってあんな強力な魔法の道具が手に入るなら、絶対に欲しいと思うし。
もっと欲を言えば実用と研究用と予備の三つくらいは。
クレイは僕らの無事を喜んで、それからベーゼルの結末には、何やら思うところがある様子だった。
或いはアレイシアから、彼に関する話を、何か聞いていたのだろうか。
そのあたりは少し気になりはするけれど、いずれにしてもベーゼルはもういない。
彼が何を思って星の灯に与したのかも、知る術はなくなった。
ベーゼルの名は残っておらず、僕もすぐに思い出さなくなって、アレイシアに至っては既に卒業済みだから、魔法学校から彼の痕跡は消えてなくなる。
魔法使いの道を捨てるというのは、きっとそういう事なのだ。
僕の魔法学校での生活も、もう半分が過ぎた。
残る半分を過ごす間に、僕はその先をどう生きるかを決めなきゃいけない。
単なる進路って意味じゃなくて、人間の中で生きるのか、それとも妖精と共に生きるのかも含めて。
後期の大きな行事は二つ。
一つ目はマダム・グローゼルが悪竜を封じたとされる邪竜の谷への訪問。
実はこれは自由参加らしく、高等部の一年、二年、三年の中から、希望者のみが行くらしい。
セビジャは全員が強制で参加させられる行事だと思ってたらしいが、高等部は基本的に何をするにも自分の意志で選択する。
彼はこれ幸いと不参加を決めていたが、僕はもちろん参加の予定だ。
マダム・グローゼルが封じたのは悪竜なのに、どうして谷は邪竜って名前が付いているのかも、少しばかり気になってるし。
二つ目は一年の締めくくりのパーティの準備。
パーティ自体は全ての生徒が参加するけれど、準備を行うのは高等部の、これまた希望者のみである。
というのもパーティに使われる様々な仕掛けは、代々受け継がれてきた物がとても多い。
しかも単に受け継がれてきただけでなく、多くの生徒がそれをより良くしようと、後から次々に手を加えてきた。
故に単にそれをこれまでと同じく設置するだけでも、多くの魔法の知識が必要不可欠になっている。
知識と魔法の実力に自信がある生徒しか触れないが、逆に手が出せるだけの知識と実力がある生徒にとっては、多くの技術を学べるいい機会となるそうだ。
こちらも、僕は参加したいと思ってる。
新しい物を自分で考えて創り出すのも楽しいが、既にある物に学び、手を加えて違う何かへと変えるのも、それはそれできっと楽しいだろうから。
魔法学校での生活は、忙しくも楽しい、かけがえのない時間だと。
僕はそれを、もう一度思い出して、噛み締めながら日々を過ごそう。
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