第114話
プレイに必死だった僕らはあまりわからなかったんだけれど、競技会は観客からの評判も良かったそうだ。
この世界は、やはり僕が前世に過ごした世界に比べると娯楽は随分と乏しいから、明確にルールの決まった競技、本格的なスポーツの真新しさと興奮が、観客には大いに突き刺さる結果となったのだろう。
ただ観客と言っても上級生が主だから、観客としてハマるってよりも、自分達もプレイしたいって要望が多く出たらしい。
何にせよ、考えた競技が人に好まれ、広まりそうな気配があるのは、僕も嬉しく思う。
競技会の結果は、番狂わせが起きる事はなく、どうにか二年生が勝利してる。
女子生徒達がプレイしたエコーは、お互いに二勝ずつで迎えた最後の試合を二年生が制する接戦だったそうだ。
ドラゴン・ロアーの方は、そこまでの接戦だった訳ではないんだけれど、一年生も随分と健闘し、二年生に圧勝を許さなかった。
基本のぶつかり合いだけだったら、殆ど互角だったんじゃないだろうか。
二年生は競技を考案した側だから、理解度が深い分だけプレイの幅が少し広くて、それが点差になって表れたって結果だ。
これは正直、しょうがない事だった。
二年生はこの競技を考案する為に、何度も相談や、実際にプレイしてみたりを繰り返してる。
放課後、一年生がグラウンドで練習をしていたのと同じように、二年生もそれなりの時間をこの競技の為に費やしたのだ。
その結果が、点数に反映されるのは、むしろ当然であるだろう。
尤も、二年生のプレイを見て学習した一年生と、もし、もう一度同じようにプレイをしたなら、次は結果がひっくり返るかもしれないけれど。
まぁ、残念ながら、或いは幸いな事に、競技会でのプレイは一度きりだ。
競技会は良き試合に盛り上がり、その上で二年生が勝利した。
僕らにとっては、最良の結果になったと言えるだろう。
だから、うん、一年生からのリベンジに応じる予定は、今のところはない。
実際、一年生も二年生も、競技会が終われば後期の試験が待っているから、それどころじゃなくなるし。
特に二年生は初等部で受ける最後の試験だから、高等部の進路が確定してない者はもちろん、進路に不安のない成績優秀者も、今の友と対等な条件で競えるラストチャンスだと、密かな闘志を燃やしていた。
高等部にあがると、共通の教科も幾つかはあるけれど、重視されるのはそれぞれの科が専攻する、黄金科なら古代魔法、水銀科なら錬金術、黒鉄科なら魔法陣や戦闘学になるので、単純な点数での比較はできなくなる。
またそもそも、高等部で評価を得る為には、試験で良い点数を取るよりも、研究に力を入れて成果を出す事が必要だ。
故に初等部では成績が良かったが、高等部に入ると著しく評価を下げたって生徒も、決して珍しくはないらしい。
与えられる知識を学ぶ事は得意であっても、自分で何を追い求めるかを決めて、成果を出すのは苦手って人は、当然ながらいるから。
いずれにしても、多くのクラスメイト、特にクレイとジャックスが、試験に向けての熱意が高めだった。
クレイとジャックスは同じように黄金科への進路が決まってるけれど、二人が見据えてる物は大きく違う。
黄金科に進んだ後、魔法学校の生徒として高い評価を得るのは、恐らく熱心に研究に励むであろうクレイになる。
何故ならジャックスは、魔法学校での評価を自分が得るよりも、実家が貴族界での名声を得る事を重視し、戦争に向かうからだ。
まぁ、戦争に行くのは夏期休暇の間だって言うけれど、それでも指揮官として準備だの色々とあるだろうから、研究の時間は奪われるだろう。
ジャックス自身も、自分が高等部ではクレイより高い評価を得る事はないってわかってるから、余計に自分がライバル視する彼には、初等部の間にもう一度勝利しようと思ってるらしい。
一方、クレイが見ているのはジャックスじゃなくて、僕への勝利だ。
これまで、一年生の前期も後期も、二年生の前期も、初等部で受けた試験は全てで僕が一位となってる。
今回、クレイが狙ってるのは、その一位の座を僕から奪う事だった。
いや、今回だけじゃないか。
クレイは常に僕から一位を奪おうと、最大限の努力をしてる。
本当に、クレイは凄い奴だと思う。
もし仮に逆の立場だったなら、僕はあんなに頑張れないんじゃないだろうか。
習う魔法は次々と覚えて、行事では一定の成果を出し、座学も決して苦手にしないなんてクラスメイトが、常に一位を取ってたら、僕はきっと競おうだなんて思えない。
なのにクレイは、常にブレずに僕に勝とうとし続けている。
彼が歩みを止めているところを、少なくとも僕は見た事がなかった。
もしかすると、クレイが慕う先輩であるアレイシアなら、彼の弱音を聞いたりもしてるのかもしれないけれども。
ただ、クレイがどんな気持ちを抱えて挑んで来てるんだとしても、僕のやる事は変わらない。
彼だって僕に手を抜いて欲しい訳じゃないだろうし、精一杯に備えて、試験を受けるのみ。
それに今回は、僕にも誰にも一位を譲りたくないって、強い動機がある。
この試験が終われば、一年を締めくくるパーティが行われるけれど、それに胸を張って、相応しい成果を出したと堂々と、シールロット先輩と参加したい。
もしも二年生の成績が一位で終われなければ、僕は萎縮して何も言えなくなってしまうかもしれないから。
当たり枠だとか、星の知識だとか、ケット・シーに、妖精に育てられただとか、色んな肩書はあるけれど、僕はその程度の小さな人間だ。
魔法学校でこれまで上手くやってこられたのだって、シャムが一緒にいてくれたから強気に出られて、それが上手く回ったに過ぎなかった。
クレイが僕の内心を知ったら、がっかりするだろうか?
こんな小さな人間に挑もうとしてるのかって。
最上級生であるアレイシアは、パーティが終われば魔法学校を卒業する。
卒業後の進路は知らないけれど、どこか遠くに離れてしまう可能性が高いだろう。
きっとクレイは、アレイシアに最後に良いところを見せたいと、強く思ってる筈だ。
だけど、それでも今回の試験も、僕は一位を譲らない。
慕う先輩が遠くに行ってしまおうとしてるのは、僕だって同じだから。
僕にとっての最善の結末を掴み取る為に、できる事は全て、誰にも譲らずに、しようと思う
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます