第108話


 ある日の放課後、授業の復習を終わらせてから本校舎を出ると、グラウンドの方から賑やかな声が聞こえた。

 ふと気になって見に行けば、運動着に着替えた一年生の男子生徒達が、グラウンドに集まって例の競技の練習をしてる。

 恐らく戦闘学の授業で教わった後、それだけじゃ足りない、二年生には勝てないって感じて、あぁやって放課後、自主的に練習するようになったんだろう。


 競技に使われる腕輪の発動体は、魔法学校側に申請しなきゃ借りられないから、自主練習で気軽に使うって訳にもいかない。

 だから彼らが今やってるのは、フォーメーションと動きの確認のみだ。

 しかし見たところ、既にある程度の形にはなっていた。

 知ってる顔を探すと、アルティムがいるのは後衛であるバックスの中でも特に魔法の腕が重視されるであろう位置である。


 今回の競技は、前衛であるフォワードが押し合ってボールを確保し、バックスがそれを受け取って走り、敵陣の最奥まで運べれば点数が入るってルールだ。

 ボールを持ったバックスが途中でボールを落とした場合、次はその地点でフォワードが押し合いをする事になる。

 仮にボールを落とさずに、敵に奪われた場合は、攻守は逆転。

 どちらの攻撃ターン、みたいな複雑なルールはなくて、ボールを確保してるかどうかで攻撃側と防御側が決まるので、フォワードの役割がかなり重要だった。


 バックスは、フォワードが押し合いをしてる間は強風を吹かせる魔法で援護したり、零れたボールを引き寄せの魔法で拾ったりと、力強さよりも魔法を巧みに使う腕前や、足の速さが重要になる。

 もちろん全てを兼ね備えるのは難しいから、バックスの中でも足の速さが問われる位置、魔法の実力が問われる位置があった。

 見てる限り、アルティムが魔法の腕を求められる位置に置かれているのは、ちゃんと彼が周囲に正しく認められてるんだなってわかって、少し嬉しい。


 競技は一つのチームが十人、或いは九人でプレイできるように設定してあって、十人の場合はフォワードが六名、バックスが四名で、九人の場合はフォワードが一人減る。

 どうしてこの人数なのかと言えば、一学年の人数はおよそ三十人ではあるけれど、男女の比率はその年によって違い、男子生徒の数が少ない事もあるからだ。

 またスポーツである為、怪我や疲労があれば選手を交代させる必要もあるので、控えだっていなきゃならない。

 その辺りを考えると、プレイする人数は自然と絞り気味になる。

 ちなみに競技として成り立つか、実際にプレイをして教師達に見せた時は、僕を除くクラスの男子生徒の十四人が、七人ずつのチームに分かれてプレイした。

 お試しだからそうしたけれど、あまり人数が少なくなると、やっぱりその分だけ地味になっていく。


 一年生との試合では、使える魔法は強風と、ボールの引き寄せ、押し出しのみだけれど、高等部でプレイする場合は使える魔法を増やす。

 例えばフォワードが一時的に膂力を増す魔法薬を使用したり、バックスが転移を除く移動の魔法を使ったりとか。

 使える魔法が増えれば増える程、ゲームとしてのバランスは取り難くなるけれど、その辺りは何度もプレイされる間に調整されていくだろう。


 ただ惜しいのは、魔法使いは数が少ないので、纏まった人数を必要とするこの競技は、魔法学校の中でしかプレイされないんじゃないかなって事だ。

 この競技が残るなら、結局のところは魔法なしで、魔法使いじゃない一般の人々にも広まる必要があった。

 もし仮にそうなっても、それはきっと、僕が生きてる間の事じゃないだろうけれども。



 あんまり眺めていても、まるで偵察してるみたいでバツが悪いので、僕は踵を返してその場を立ち去る。

 一年生のプレイは、練習であっても動きもダラダラとしてないし、僕が思った以上に形になっていた。

 二年生はこの競技を考えた側だし、ルールを決める試行錯誤でプレイもしてるから、理解度、経験値ともに確実に今は上に居るけれど……、実際に競技が行われる日までその優位が保たれているかは、わからない。


 その事に、良かったって、僕は思う。

 実はちょっと心配してるところはあったのだ。

 模擬戦からスポーツ競技に形を変えても、二年生が一年生を蹂躙して終わるだけになりはしないかって。

 特に今年は、二年生が競技を発案し、ルールも考えた側だから、そうなったら非常にしらける結末が待っていた。


 だけど一年生は、恐らくちゃんと勝つ気で練習を、放課後の時間を使ってまでやっていて、二年生に迫ってくる。

 後は、そう、楽しい試合になればいい。

 当然ながら競技である以上、全力で勝利を目指した上での話だけれど、その結果として観客もプレイヤーも楽しめたなら、きっと最高だと思うから。


 競技が行われる日が、楽しみだった。


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