第84話
二年生の前期で最も大きく大変なイベントは林間学校だが、その終わりからあまり間を置かずに、前期試験はやって来る。
ただ、二年生では科目の数が増えたから、試験の数も多くなって大変だと思いきや、実はそんな事はない。
戦闘学と魔法生物学は林間学校での評価がそのまま成績になるらしく、試験が行われないからだ。
簡単に言えば、あの林間学校自体が、戦闘学と魔法生物学の実技試験のようなものだったと考えればいい。
また錬金術に関しても試験は行われないそうだ。
恐らく、一年生の頃と違って、一つ一つのアイテムを作るのに時間が掛かる為、試験で何かを作って提出って形をとるのが難しくなったからだろう。
毎回の授業の度に作成した魔法薬や、魔法の力を移した素材を提出して来たけれど、その評価で成績が決まると、前期も終わりの今頃になってそう告げられた。
つまり既に評価は決まってしまっていると、後になってから教えられたのだ。
実に酷い。
僕は錬金術には特に力を入れていて、授業で提出したアイテムも全力で作って来たから良いけれど、そうじゃなかったら文句の一つも言いたくなってただろうなって、心底思う。
なので二年生の教科は八科目に増えたけれど、戦闘学と魔法生物学、錬金術を除いた五つが、試験の対象となっている。
即ち呪文学、古代魔法基礎、魔法陣基礎、治癒術、魔法史で、実技試験となるのが呪文学と治癒術で、残る三つは筆記試験だ。
試験を行う科目の数だけで言えば、一年生の頃と同じだった。
古代魔法や魔法陣は、本来なら実技で試験が行われる分野なんだろうけれど、僕らが習っているのは基礎なので、その技術を使えるかどうかの実力じゃなく、知識のみが問われるらしい。
正直、僕はどちらかといえば実技の方が得意だから、座学の科目が多いのは、あまり嬉しい事ではないけれども。
実際、古代魔法や魔法陣は、いや、錬金術もそうなんだけれど、それを上手く扱える適性はもちろん必要なんだけれど、それと同じくらいに知識の方も重要だ。
古代魔法は、過去の文献や遺物を調べたり、遺跡を調査する考古学に似た要素も強いし、魔法陣はこの模様の意味は何かとか、どういった効果があるのかとか、まるで別の言語を学ぶかのように、覚える事が沢山ある。
錬金術だって同じで、素材の特性や扱い方、組み合わせた時の反応等、必要な知識はとても多い。
魔法使いとしての才能や、適性はもちろん重要だし、それがなくては扱えないのだけれども、それだけでも成り立たないのが、古代魔法や魔法陣、錬金術といった専門分野だった。
あぁ、治癒術も、知識が必要な専門分野というのは同じか。
どんなに才能があっても、どんなに適性があって向いていても、その分野に対して興味が持てなければ、一流には至れないから。
授業を受けていると、自分が古代魔法に、魔法陣に、錬金術に、適性があるのかないのかは、皆もそれなりに把握してる。
古代魔法や、魔法陣に適性がないと感じたクラスメイトの中には、早々にそちらの勉強を諦めて、他の科目に注力してるものも少なくはなかった。
またそうした生徒が出るのも当たり前だからと、古代魔法基礎に関しては、成績が悪かったとしてもあまり補習等は行われないそうだ。
魔法陣に関しては、流石に基礎的な魔法陣の幾つかは必須になるけれど、それ以上はとやかく言われない。
二年生になってからの呪文学もそうだけれど、できる事が当たり前の内容ではなくなってるんだなぁってのは、ひしひしと感じる。
尤も、あまり自分に適性がないのを承知の上で、知識量でその不足をカバーしようと懸命になってる者も、ごく僅かにいるのだけれど。
その一人が、クレイだった。
いや、彼の場合は適性がないといってしまうのは違うかもしれない。
より向いた道が自分にあるのを承知の上で、敢えて別の道を選んでるというべきか。
クレイは、クラスの中での成績は上位だけれど、魔法の才能に特に恵まれているかというと、決してそうではない。
平均か、それ以上には才もあるが、上位の成績に食い込めてる理由は、ひたすらに本人の努力によるものだ。
なので彼は、僕と真逆に、どちらかといえば実技よりも筆記の試験を得意としてる。
例えば一年生の後期の成績は、呪文学や戦闘学では上位の五人に食い込めないが、魔法学や一般教養ではクラスでも一、二を争う結果だったといった具合に。
故にクレイの適性は、古代魔法、魔法陣、錬金術のいずれにあるかといえば、知識量こそが力に直結し易い、魔法陣だと判断された。
実際、彼は魔法陣基礎の授業でも理解度は高いし、教師であるシュイラ・フォード先生からも認められてる。
けれどもクレイが志望するのは、古代魔法を専攻する科、高等部の黄金科なのだ。
古代魔法だって、当然ながら知識は必要だけれど、最終的に問われるのは再発見した魔法を自分が習得できるか否かである。
どんなに優れた魔法の存在を突き止めも、それを自分が習得できなければ、その意味は薄れてしまう。
こんな言い方をするのは何だが、古代魔法は、本来は僕に向いた分野だった。
クレイは、魔法を使う才能に欠ける訳ではないけれど、どんな魔法でも習得できるって訳では、決してないから。
ではどうしてクレイは古代魔法の道を選ぶのか。
それは当然ながら、彼が親しくしてる上級生であるアレイシアの影響は少なくないだろう。
だが決してそれだけじゃなくて、クレイは古代に失われた魔法の再発見に強くロマンを感じているという。
尤もクレイがそこにロマンを感じたのは、アレイシアを手伝うアルバイトを通じて、古代魔法の研究に触れたからだった。
なので結局は、アレイシアの影響がやっぱり殆どかもしれない。
アレイシアは、今の高等部の三年生で、最も実力のある魔法使いだ。
しかし才能に関しては、三年生で最も高かったわけではないという。
そもそも三年生の当たり枠は、今は魔法学校の敵となったベーゼルだった。
でもアレイシアはそのベーゼルに並ぶ、或いは追い抜く為に、自分のみが扱える手札を増やそうと、古代魔法の道に進んだらしい。
結果を言うと、ベーゼルはアレイシアに抜かれる事なく行方不明になったけれど、それから後、彼女はずっとその学年の頂点に君臨してる。
つまりアレイシアも、クレイと同じく努力の人間なのだ。
だからこそクレイは、アレイシアを慕い、彼女に導かれているし、その逆も然りなのだろう。
またクレイが、自分の学年の当たり枠である僕を上回る事を目標としてるのも、以前のアレイシアと同じだった。
当然ながら、アレイシアにとってのベーゼルと違い、僕は、クレイの前から居なくなくなってしまう予定はないけれど。
クレイは、僕にとってはとてもありがたい友人である。
一年生の頃は、多少視野が狭い傾向があったけれど、二年生になってからはそれも改善されて、この前の林間学校ではとても頼りになった。
何より、僕を認めてくれる友人は、クラスの中に何人かいるが、僕を目標としてる友人は、彼だけだ。
そしてクレイが目標にしてくれるから、僕はクラスの中で自分が浮いてしまってると思わなくて済むし、その位置にあり続けようと努力する張り合いがある。
背を追う者もいなければ、僕はきっと、クラスの中で孤独を感じてしまったかもしれない。
そういえば、古代魔法を専攻する黄金科を目指しているのは、僕の友人の中では実はクレイだけじゃなくて、最近になってだが、パトラも黄金科に進路を定める事にしたという。
彼女の場合は、古代魔法を学んで魔法生物と、特に妖精と契約し、いつかもう一度、先日訪れた妖精の領域や、ケット・シーの村に行きたいんだそうだ。
なんというか、実にパトラらしくて、心が和む。
そんな風に、二年生も前半分が終わろうとしている今、先を考えて決めるクラスメイトは、少しずつ増えていた。
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