第82話


 迎えのエリンジ先生に連れられて魔法学校へと戻った僕らは、大勢のクラスメイトに囲まれて無事だった事を喜ばれた。

 僕ら以外にあの騒ぎに巻き込まれた組はなかったらしいが、それでも林間学校は中断になったらしい。

 ただ評価自体は、中断されるまでの行動で付けられたらしく、良かった組もあれば、悪かった組もあったそうだ。

 ちなみに僕らは、課題の黒影兎も確保してたし、想定外の災厄からも自分達の身を守ったとして、最高の評価が貰える事になっている。


 どうやって無事だったかのクラスメイト達への説明は、あの騒動からはジェスト大森林に暮らす、人間に友好的な魔法生物に助けられたが、その魔法生物との契約で詳細は話せないのだという話になった。

 まぁ、殆ど嘘はない。

 シャムは人間に友好的だし、僕以外の四人は、実際に詳細を話さないって契約を結んでる。

 単に、僕だけがその契約の対象外って話をしてないだけだ。


 あと、シャムはともかく、全ての妖精が必ずしも人間に友好的かというと、決してそんな事はない。

 例えばレッドキャップは、血肉を貪るのが大好きで、彼等にとっての人間は単なる獲物に過ぎないだろう。

 むしろ獣なんかよりもずっと知恵が働く分、残虐で実に性質が悪かった。

 しかしそんなレッドキャップのような妖精でも、他の妖精の関係者には手出しをしない。

 妖精は、ケット・シーやレッドキャップといった個々の種であると同時に、自分達が妖精という大きな輪の中に在るとの意識がある。

 この辺りは、人間にはちょっと理解しがたい感覚だ。

 尤も僕だって、全ての妖精を知ってる訳じゃないから、あまり偉そうには語れはしないけれども。


 その後は、マダム・グローゼルからも謝罪を受けて、それから学生の身分ではちょっと稼ぐのが難しい額の補償金を受け取って、今回の件は終わりとなる。

 エリンジ先生からの言い訳、もとい説明は、感情的には納得のいかない部分も多少あったが、僕は何も言わずに、その感情を飲み込む。

 何故ならその説明を要約すると、星の灯が通常では考えられないくらいの、それこそ後先を考えてないんじゃないかって数と質の人員を投入してきた為、後れを取ったって話だったから。

 もちろん影靴も全力で対処したから、他の組には被害が及ばず、無事に魔法学校に戻れていたのだろう。

 しかし特に星の灯が戦力を集中させていた、僕らが林間学校を行っていた地域では、眠っていたワイアームの間近での自爆攻撃を許してしまったそうだ。


 ……すると当然ながら疑問に思うのは、何故、星の灯は想定を超える数と質の戦力を動員し、何故、僕らがいた地域に戦力を集中させたのかって事だった。

 心当たりは、一つしかない。

 僕が前世の記憶、星の知識を有してるって事を、星の灯が知ったのだ。

 彼の宗教組織を興したグリースターは、僕と同じく星の知識を有していたという。

 グリースターが前世に生きた世界が、僕が前世に生きた世界と、同じだったのかどうかはわからない。

 だが星の灯は、星の彼方にある、理想の世界を再現する為に、星の知識を有する者を求めてるんだそうだ。

 実に迷惑な話だけれど、彼らが、僕が星の知識を有してると知ったなら、多少どころか、大いに無理をしてでも、僕を攫おうとするだろう。


 つまり今回の騒動は、僕を狙ったものである可能性がとても高い。

 一体何故、星の灯が僕の事を知ったのか。

 それは全くわからないけれど……、僕が原因であるならば、僕にはエリンジ先生を、影靴を、魔法学校を、責める資格はないと思う。


 しかし、どうやって僕の事を知られたのかは、放置できない問題だ。

 まさか、僕がベーゼルが抜いた銃に反応したから、それだけでバレたなんて事はないと思う

 疑問を抱かれるくらいなら、そりゃあないとは言い切れないけれど、確信を持たれるには程遠い筈。

 だったら、星の知識を有する者に反応する、僕の知らない魔法でもあるのだろうか。

 いずれにしても、僕はもう、狙われてるものだと考えた方がいい。


 その事に関しては、エリンジ先生も、マダム・グローゼルも、何も口にはしなかった。

 二人とも、星の灯が明確に僕を狙ってる事に、気付いてない筈はないと思うが……。

 僕は一体、どうすればいいんだろう。

 考えても、考えても、その答えは出てこない。


 今回の林間学校は、それでも得るものは多かったと思う。

 魔法生物との実戦経験はもちろん、戦いを得手としない仲間を活かせる戦術を考えたりとか、共に戦い、苦難を乗り越える事で絆を深めたりとか、得難い経験を積んでいる。

 また今回の件で、妖精の助けを得られるという、他の人間が持ってない、僕だけの強みも確認できた。


 僕の身体には、段々と色んな思惑が絡み付いて来てるように感じるけれど……、それでも僕は少しずつ、一歩ずつだがちゃんと前に進んでるから。

 恐らく、きっと、その筈だ。

 このまま弛まず前に進み続ければ、絡み付く思惑を、振り切れる日も来るだろう。

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