第39話
それから始まった初等部の一年生と二年生の模擬戦。
初戦はガリアと、二年生の当たり枠であるキーネッツ。
この模擬戦は、すぐに終わってしまうだろうとの僕の予想に反して、ガリアがとても健闘する。
いや、キーネッツが健闘をさせてくれたというのが正しいか。
彼はまるでガリアの良さを引き出すかのように、気持ちよく戦えるように誘導して受け止め、その上で力ずくではなく、技量で上回って勝利をして見せたのだ。
あぁ、それはまるで、優れた教師による指導のようにすら、僕は感じた。
もちろん傍目には、そこまで露骨な訳じゃなくて、ガリアが思ったよりも健闘したってだけに見えるだろうけれど、僕はキーネッツの戦いを、自分が相対すれば勝ち目があるだろうかと、探る心算で見てたから。
でも、あれはちょっと勝ち目が見えない。
シールロット先輩の言葉は、悔しいけれども、正しかった。
来年の僕は、果たしてあそこまで強くなれるだろうか。
全然底なんて見せなかったのに、それでも身震いする程に、キーネッツは強い。
席に戻ってきたガリアには、キーネッツが指導をするように戦ったとわかってるのだろう。
その表情には、確かに悔しさもあるんだけれど、何というか、憧れの色が見えた。
……そんな顔もできるのかって、ちょっと驚く。
人には、良いところも悪いところもあるのは当然で、僕は彼に対しては一面しか見ようとしていなかったから、知らない顔があるのは当然なんだけれども。
シャムにも、キーネッツの戦いを見た感想を聞いてみたいところだけれど、今日は僕も模擬戦に出るから、パトラに預けてしまってる。
いやまぁ、僕の傍に居たとしても、人目があるから話なんてできないが。
だがそんな模擬戦は、最初の一戦目だけだった。
二人目のガナムラと、三人目のクラスメイトが、単純な実力差、簡単に言えば習得した魔法の数という、手札の多さに押し潰される。
また彼らは、どちらも杖以外の、装飾品の発動体も所持していたから、使う発動体を切り替える事で、不利な体勢からでも魔法を使う。
ガナムラはかなり善戦したのだけれど、流石に知らない魔法への対処は、一歩も二歩も後れを取る。
ただその分、僕は二年生の魔法を数多く目の当たりにできて、随分と助かっているけれど……。
しかし二年生の代表は……、思ったよりも強くない。
あぁ、いや、多くの魔法を扱える時点で、強いのは強いんだろうけれど、戦い方がそこまで上手い訳じゃなかった。
折角複数の発動体を持っているのに、同時に複数の魔法は使わないし。
けれどもそれ以上に酷かったのが、四人目の戦いである。
二年生の代表は、対戦相手であるジャックスに対し、露骨に力を加減して来たのだ。
キーネッツのように相手の良さを引き出し、その上で相手を技量によって上回る、自然な、美しい戦い方ではなく、単なる忖度。
フィルトリアータ伯爵家という、高位貴族の出であるジャックスに対して、一方的に打ちのめす事で恥をかかせないようにしようという魂胆の透けて見える戦い方だった。
あぁ、改めて考えれば、高位の貴族が仕切ってるという二年生なら、そうしてきてもおかしくはない。
だけど僕が、一年生が知る高位の貴族はジャックスだったから、そんな恥知らずな真似がまかり通るなんて、予想もしていなかったのだ。
……でもジャックスは、そんな戦い方をしながらあしらえるような甘い奴じゃなかった。
彼は二年生の、見え見えの攻撃を、恐らく内心ではプライドを傷付けられて怒りながらも、冷静に捌き、隙に乗じて魔法の繋がりを成功させ、相手を吹き飛ばして勝利する。
相手が、ギリギリのところで自分が勝つ心算だったのか、それともジャックスに勝利を譲る心算だったのかはわからないけれど、そんな思惑なんて関係なしに。
席に帰ってきたジャックスは、酷く硬い顔をしていたけれど……、
「情けない戦いを見せたな。後は任せる。頼むぞ、キリク。本当の勝ちを取って来てくれ」
僕に向かって、そう口にする。
うん、それは、もちろんだ。
最初から勝つ気でここに居たけれど、その意志はより強くなった。
仇を討つっていうのは、ちょっと違うから言わないけれど、僕の友人にあんな顔をさせる原因を造ったのであろう二年生の大将は、泣きっ面にしてやろう。
そう、心に決めて、僕は首にかけていた指輪を外し、改めて右手の指に填めてから、座っていた席を立つ。
先代の校長、ハーダス・クロスター、もといハーダス先生の指輪は、僕の指に吸い付くようにサイズを変える。
二年生が強いのは知ってるし、その実力も目の当たりにしたけれど、負ける気は少しもしない。
「ふん、フィルトリアータの御子息にも困ったものだね。彼が一年生をちゃんと掌握してたなら、私も級友にあんな無様な真似をさせずに済んだのに。それとも、一つでも勝ちをもぎ取ろうと、浅ましい策を巡らせた結果かな?」
闘技場に立って相対すれば、グランドリアはそんな言葉を口にしていた。
僕に話しかけてるんだろうか。
それとも独り言だろうか。
その言葉は、僕に話しかけてるようではあったけれど、その目はまるで僕を捉えてない。
まるで彼の世界には、身分の高い者しか存在しないのだとでもいうかのように。
グランドリアにとって、僕は書き割りのようなものなんだろうか。
どうやら随分と、彼はこれまで、全てが自分の思い通りになってきたらしい。
これは何とも、殴り甲斐、或いは泣かせ甲斐があるなぁと、ちょっと感心してしまう。
まぁ、甲斐がなくとも、僕の友人を馬鹿にした以上は、殴るし、泣かせてやるのだが。
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