第34話


 一年生も後期にもなれば、クラス内の人間関係はすっかり出来上がった感がある。

 そして仲の良いクラスメイトは、自然と集まりグループを作り、時間を過ごす。

 昼を一緒に食べたり、実技の授業でパートナーを組んだりといった風に。


 僕が一番共に過ごす時間が多いのは、そりゃあもちろんシャムだけれど、彼を除けば、クラスメイトの中ではクレイだろうか。

 クレイとは、授業が終わった後も教え合いをするし、昼食を一緒に食べる事も少なくない。

 それに次ぐのがパトラで、彼女は授業の合間に頻繁にシャムに構いに来るから、そのついでになるけれど、僕とクレイが授業の復習をしてるところに参加する時もあった。

 隣の席のシズゥは、女の子同士だからか、パトラとはよく話すし、クレイとの相性だって悪くはなさそうだ。


 まぁ、このクレイ、パトラ、シズゥと、僕の四人はグループだと言っていいかもしれない。

 シャムも加えたら、四人と一匹……、或いはケット・シーだから五人だろうか。


 僕は他に、後ろの席のガナムラや、ジャックスとも個人的には仲が良いけれど、彼らはグループだっていう程に、こちらに参加はしてこなかった。

 特にガナムラは、どうにもシズゥとの相性が悪いのだ。

 多分それは、どうしようもない事なのだろうけれど、貴族制度のないサウスバッチの出身で、尚且つ自分の家に誇りの強いガナムラは、貴族って存在をあまり良く思ってないらしい。

 何なら、貴族制度こそが、国の力を分散し、発展を阻害してる要素だとくらいには、考えてるのだろう。

 そしてシズゥの方も、女性に対して軽いガナムラを、軽薄だと避けている節がある。


 これは正直、僕にはどうともしかねる問題だ。

 シズゥが貴族の家に生まれ、その財で育った事は間違いなかった。

 ガナムラの振る舞いが軽薄なのも、実際にそうだろう。


 もちろん二人とも、それだけの人間では決してない。

 シズゥは貴族である事を鼻にかけないし、らしい振る舞いが必要だから、求められるからしているだけで、内心は面倒に思ってる事だって知ってる。

 親許を離れ、自分で色々とできる環境が嬉しくて、休みの日に焼き菓子を作って、失敗してたのも。

 仲が良くなければ決して見せないが、可愛らしいところは沢山あるのだ。


 ガナムラだって、単に軽薄なだけじゃなくて、その誇りの高さには敬意が持てる。

 貴族に対してよい感情を抱かないのも、それがなくとも発展してきた国と、そこに尽くす自分の家に愛情と誇りを持つからだろう。

 また陽気な性格で、人当たりも良く、男女を問わず友人が多かった。


 その上で、良い部分を見るも、悪い部分を見るも、僕が口を挟む事じゃない。

 当然ながら喧嘩を始めたら、僕は仲裁するし、時と場合によっては制圧もするかもしれないが、……そうでなければ本人たちの自由である。

 もしかすると、二人がお互いの良い部分に気付く日がくる事だってあるだろう。

 まぁ、来ない可能性の方が高いけれども。

 どちらにしても、僕はそれぞれ別個に、仲良くしていければそれで構わないのだ。


 ちなみに、ジャックスの方は相変わらずだった。

 一時、クラスメイトの中でも比較的身分の高い……、例えばルーゲントの騎士階級の家系だというガリア・ヴィロンダ辺りのいるグループが、ジャックスを取り込もうと動いてたみたいだけれど、何故だか相手にしなかったらしい。

 あぁ、ただ、僕と仲の良いクレイに関しては、前期の試験結果が総合では僅差で負けた事がジャックスには悔しかったそうで、ライバル視してるみたいなのだ。

 成績は、基礎呪文学と戦闘学はジャックスが勝るが、残りの錬金術、魔法学、一般教養ではクレイが勝る。

 強さはジャックス、知識はクレイに分があるって感じだろうか。


 そのせいか、ジャックスがクレイに話しかけてる姿は、稀に見かける。

 クレイの方でも、強さ、つまり魔法使いとしての実力があるジャックスは意識をしているらしく……、何というか二人の関係が、見ててちょっと面白い。

 なので今後、グループを作って課題をこなす、みたいな授業があったなら、ジャックスも僕らのところに入るんじゃないかとは思う。


 そういえば、ジャックスがくれたお土産は、家紋の入った短剣だった。

 何でも、フィルトリアータ伯爵家が身分を保証してくれるって証らしい。

 ウィルダージェスト魔法学校の生徒って身分が通じない場所でも、伯爵家の威光があれば大抵の困難は退けられるからと。


 ……本当に、ジャックスにはそういうところだぞって、言いたい。

 確かに魔法学校の生徒である事以外に、社会的な身分を持たない僕には、ありがたい配慮だ。

 しかし土産として渡されるには、家紋の入った短剣は、あまりに重い品である。

 正直、僕じゃなきゃ萎縮すると思うし。


 それに、悪用されたらどうする心算なんだろうか。

 いや、そりゃあ僕は悪用しないけれど、貴族なんだから、もうちょっと警戒心は持って欲しい。

 いいところも色々とあると知ってるけれど、ズレてて、困った友人である。



 さて、どうして急にグループの話をしたかといえば、僕がクラスの一部のグループ……、具体的に言うとガリア・ヴィロンダの属するグループに、敵視されてる様子だからだ。

 その理由は、心当たりがあり過ぎてちょっとわからない。

 首席を取った僕に対する妬心か、それともガリアがシズゥに近付くのに、僕が邪魔だと判断したのか、ジャックスが彼らのグループを袖にしたからか。

 まぁ、多分その辺りのどれか、或いは複合しての事だとは思う。


 妬心に関しては、正直あって当然だ。

 新しい魔法を覚える時、多くのクラスメイトは苦労してるが、僕はその横であっさりとそれを習得してる。

 その姿が面白くないのは当然だろう。

 しかも前期の終わりの試験では、僕が首位を取る事で、それが明確な形になったし。

 多かれ少なかれ反感があるのは、仕方のない話だった。


 ガリアは、一人じゃ僕に立ち向かえないから、その反感を利用して人数を集めるってのは、……せこいなぁって思うけど、戦略としては正しい気もする。

 求めるものがあり、障害もあって、それを乗り越える為にあらゆる手を尽くそうとするのは、間違ってるとは僕には言えない。

 尤も、その程度で僕をどうにかできると考えてるなら、大間違いではあるのだけれども。


 だが僕がジャックスと仲が良いのが敵視の理由なら、お馬鹿だなぁって思う。

 ジャックスがどうして彼らとつるまなかったのかは知らないけれど、そこで僕に八つ当たりをしても、彼との関係が良くなる筈がないのに。


 ガリアのグループにどう対応するかは、今のところは思案中だ。

 別に今のままなら、何らかの手を打つ必要はない気もする。

 僕は、別に無理をして全てのクラスメイトと仲良くしたい訳じゃないから、友人以外からは、嫌われていてもあまりに気にならない。

 もしも敵視するだけじゃなくて、実害を及ぼそうとしてきたなら、……やはり右ストレートだろうか。

 流石に学生同士で、魔法を使っての私闘をするのは、怒られるくらいじゃ済まなさそうだから、できれば避けたいし。

 先生、特に戦闘学のギュネス先生を立会人にすれば、怒られずに決闘もできるだろうけれど、それだと向こうが数の利を活かせないから、仕掛けて来ないと思う。


 まぁ、シズゥやジャックスとは、一度相談してみようか。

 二人なら、ガリアのグループがどんな風に動くか、想像が付くかも知れないし。

 最悪なのは、パトラ辺りが巻き込まれる事なので、それはどうにか避けなきゃならない。


 狙われるのがシャムだったら、クラスメイト程度に捕まる気はしないから、安心して構えていられるのだけれども。

 シャムは、敵は先んじて攻撃して制圧するのが基本、なんて言ってるけれど、僕は今は学生だから、先に手を出した方が悪者になるのだ。

 なんとも、実に悩ましい話である。

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