第26話
本校舎は、多分上空から見下ろせばロの字型の建物になるんだと思う。
真ん中には広い中庭があって、ちょっとした公園みたいになっている。
別に遊具があるって訳じゃなくて、ベンチがあって、ところどころに手入れのされた木が生えてて、花壇があるって意味で。
そして中庭を囲む形で、城のように堅牢で壮麗な石造りの建物があって、これが校舎になっていた。
初等部が利用するのは、この本校舎の一階が主だ。
本校舎の入り口は南の中央にあって、僕らはここから出入りしてる。
一年生は一階の主に左半分、西側を使用して、二年生になったら右半分、東側を使うらしい。
普段使う教室や、錬金術用の教室、トイレに、それから何に使うのかよくわからない鍵のかかった部屋が、無数に並ぶ。
中には、本校舎を掃除する魔法人形の待機室、みたいなものもあるという。
二階には職員室や校長室、それから図書館があって、僕も何度か立ち入っている。
クルーペ先生の研究室も、二階の一画だし。
他には音楽室もあるみたいだけれど、僕はそこを誰かが使ってるところは、見た事がなかった。
しかし、誰かが楽器を奏でる音は、たまに聞こえて来るんだけれども。
三階から上は、高等部が使うらしい。
北西には水銀科へ、北には黒鉄科へ、北東には黄金科へ、それぞれ続く渡り廊下が三階にはあって、高等部の生徒はそれを使って本校舎と別校舎を行き来してるそうだ。
ちなみに三階に上がる階段を、僕は見た事がなかった。
外から見る限り、恐らく建物は五階まであって、北西、北東、南西、南東の四ヵ所には、塔のような物も建ってるんだけれど、三階より上には行けてないので、当然ながら詳しい事は何もわからない。
地下には魔法の練習場があるのは、以前にも言ったと思うけれど、スペース的には、地下には他にも何か大きな部屋があってもおかしくはないと思う。
それから外は、グラウンドは本校舎から見て東側にあって、西側には式典なんかが行われる大きな講堂。
忘れてはならない、僕らが暮らす卵寮は、本校舎から少し離れて南西だ。
真っ直ぐ南には旅の扉の泉が、更に南に行けば魔法の馬車の発着場があった。
最後に森に関しては、魔法学校の全周をグルッと囲ってるから、どの方角を向いてもその先には森がある。
もちろん途中に、魔法学校を守る為の高い塀があって、門を通らないと森には辿り着けないけれど。
この塀が、一つ目の結界の境だ。
一つ目の結界は、ごく単純な守りの結界。
物理的な塀の頑丈さと、魔法の守りの二つによって、魔法学校は守られている。
二つ目の結界の境は、森の中程にあるらしく、その内側を異界にしていて、普通の人間には入り込めない。
何せ世界が違うのだから。
更に三つ目も、森の出口付近にあるそうで、二つ目と三つ目の結界の間には、濃い霧が立ち込めていた。
悪意を持って森に入れば、或いは悪意なんてなくてもうっかり迷い込んでしまったなら、……まぁ、無事では済まないだろう。
さて、僕らが今日、探索するのは、本校舎の中庭だ。
どうして雨の中、傘をさして中庭に出なきゃいけないんだって、そりゃあ思わなくもないけれど……。
シャム曰く、ここには雨の日にだけ姿を見せる謎が、あるらしい。
中庭には、中央には例によって守り手たる
そしてその石畳の一部は、何でも水に濡れると、数字が浮かび上がってくるそうだ。
何故、シャムがそんな事を知ってるかといえば、彼が独自に本校舎の色んな場所を探索してるからに他ならない。
シャムのサファイアブルーの瞳、というか、妖精の一部が持ってるらしい、妖精の瞳は、世界の理のズレを見抜く。
ちょっと理解が難しい話なのだけれど、魔法が引き起こした現象じゃなくて、魔法その物が見えるという。
要するに、例えば発火の魔法なら、燃えてる火だけじゃなくて、魂の力が理を塗り替える瞬間から見えているという意味だった。
僕ら、魔法使いも、魔法を感じる事はできる。
錬金術で作られた魔法薬を見れば、それが単なる薬じゃないって感じるし、魔法人形が動きを止めていても、何かあれば動くんだろうなって、わかる。
これは魔法使いの魂が、他の魂の力を感じるかららしい。
そしてその感覚は、魔法使いとしての実力が磨かれる程に、鋭くなっていく。
ただ、当然ながらその感覚を誤魔化す技術も存在してて、それが魔法の隠蔽だ。
僕が、本当ならある筈の、本校舎の二階から三階に上がる階段を見付けられないのは、それが魔法で隠された上に、その魔法自体も隠蔽されてるからだった。
しかし妖精の瞳は、その隠蔽すらも見抜いてしまう。
何故なら人には、妖精のように魔法を見る事ができない為、その隠し方がわからないから。
故にシャムには、雨に濡れなければ現れない魔法の仕掛けも、晴れの日から見えていたという訳である。
尤も見えてたからって、その仕掛けが解けるのかって言うと、それはまた別の話になるのだが。
「んー……、これ、なんだろう?」
雨の中、片手で傘を差し、もう片方の手で胸にシャムを抱えた僕は、首を傾げる。
生きている像の台座の正面に敷かれた石畳は、三十二枚。
十六枚の正方形が二つ並んで、長方形。
シャム曰く、この石畳の全てに魔法が掛かっているのが見えるらしい。
だが実際に数字が浮かんでるのは、左上に三枚だけ。
しかも左上の一番隅には数字は浮かばず、それを囲むように、右は1、右下は2、左下も2と、数字が出てる。
数字パズル、ではないだろう。
これだとあまりにヒントが足りない。
だけどこれが謎解きなら、このヒントだけで次に進める筈なのだ。
何だっけ、これ。
こういうの、何かで見た事があるというか、脳味噌のどこかに引っ掛かる。
……この左上の一番隅は、触っちゃいけない奴な気がした。
恐らく、罠、だよね。
流石に、中庭の誰にでも来れる場所に、そんな酷い罠は仕掛けられてないと思うけれども、敢えて触りに行こうとは思わない。
罠、罠か。
あ、もしかして、これ、マインスイーパーか。
いや、この世界には地雷なんて存在しないだろうから、その呼び方は違う気もするが、でも恐らく、解き方は変わらない。
〇1
22
この形だと間違いなく、〇の部分は地雷で、罠のトリガーになっている。
だったら確実に安全なのは、1の右と、右下、更にその下もか。
どちらかの2の下には、地雷が一つ、埋まってた。
僕はシャムに肩に上がって貰ってから、空いた手で、1の右の石畳に触れる。
すると別の石畳にも、数字が幾つも現れた。
あぁ、やっぱりそうだ。
まさかこんなところで、マインスイーパーを解く事になるなんて思いもしなかったけれど、理屈がわかれば後は簡単だろう。
謎解きは、解けてしまえば実に気分がいいものだ。
僕は地雷の石畳には触れる事なく、その全ての地雷の位置が把握できるように、他の石畳に触れて数字を出していく。
後に何が起きるかなんてのは、あまり深くは考えずに。
そして完全に謎が解き終わると、石畳はぐらりと揺れて、ズズッと音を立てて一部が地に沈み、台座の前には、地下に降りる階段が、現れた。
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