3番セカンド 鳥居帝人

 スターティングラインナップ


 千葉ドルフィンズ


 1番 ライト    入夏いりなつ水帆みずほ

 2番 ショート   三護さんごしょう

 3番 セカンド   鳥居とりい帝人みかど

 4番 レフト    阿晒あざらし兵太ひょうた

 5番 指名打者   早々江さざえしん

 6番 ファースト  槍塚やりづかだん

 7番 サード    穂立ほだてれん

 8番 キャッチャー 垣田かきたあたる

 9番 センター   たち正宗まさむね

 先発投手      鴫原しぎはらかい


 福岡マッハトレインズ


 1番 セカンド   田吹たぶき弘正ひろまさ

 2番 ショート   布施ふせこん

 3番 キャッチャー 越智おち子龍しりゅう

 4番 ファースト  安藤あんどうやすし

 5番 指名打者   加藤かとうたけし

 6番 ライト    高足たかあし泰平たいへい 

 7番 センター   二星ふたほし翔馬しょうま

 8番 サード    熊本くまもともとい

 9番 レフト     グレイグ・トンプソン

 先発投手      西園寺さいおんじ雅風まさかぜ


 ドルフィンズの先発投手は鴫原。

 シーズン当初はリリーフだったが、チーム事情で先発に転向。

 援護に恵まれ今年はチーム最多の4勝をあげている。

 対してマッハトレインズの先発は右の西園寺。

 高いポテンシャルを持つマッハトレインズ期待の若手投手だ。


 初回、ドルフィンズの攻撃。

 初球、速球が左打席から構える入夏の胸元へと吸い込まれた。

 とっさに大きく体を仰け反らせたことで事なきを得たものの、勢い余ってバランスを崩してしまう。


「大丈夫か?」


「大丈夫です」


 越智に声をかけられ、入夏はすぐに立ち上がる。

 体に異常はない。

 しかし心臓はバクバクと早鐘を鳴らしていた。

 いつも通りのスイングを心がけようと打席に入った結果がこれである。


 結局制球が定まらず5球目のストレートが高めに抜けて四球。

 ノーアウトでランナーを一塁に置き、2番の三護が打席に入る。

 2ボール2ストライクとなって迎えた5球目、ドルフィンズのベンチから「ヒットエンドラン」のサインが出る。

 走塁とバッティングを同時に実行する事で、少しでもランナーを進める作戦だ。

 ピッチャーが投球モーションに入ると同時に入夏がスタートを切る。

 単独での盗塁ではなくエンドランのため、スタートは遅れるがタイミングは悪くない。

 後はキャッチャーの送球との勝負だ。

 歓声を背に受けながら2塁へと真っ直ぐに走る。


 足が2塁ベースに着く前にグラブが当たる感触がして、入夏はしまったと思った。

 三振ゲッツー、ヒットエンドランの作戦としては大失敗だ。

 キャッチャーの動きは視界に入っていなかったが、恐らく捕ってから投げるまでが驚くほど速い。

 マッハトレインズに勝つためには、この男が常に立ちはだかるのだろう。



 ◇


 結果的に三者凡退で初回を終えた西園寺は2回からコントロールが安定。

 コースぎりぎりを突くわけではないものの、球威のある真っ直ぐと緩急のついたチェンジアップで打者を幻惑していた。

 特に初回では抜け気味だった高めのボールがちょうど良い釣り玉となって打者から空振りを取れるようになっていた。


 一方の鴫原は粘りのピッチングを強いられる。

 初回にいきなり満塁のピンチを招くなど毎回ランナーを置く苦しい場面が続く。

 しかしあと一歩のところで踏みとどまり、8安打を浴びながらなんとか5回を無失点。

 5回終了時には垣田とグータッチを交わし、ベンチ裏へと引き上げていった。


 試合は前半を終え、0対0。

 しかしヒットの数は圧倒的にマッハトレインズが上回っており、どちらが優勢であるかは一目見て明らかだった。


 そして6回の表、入夏がこの日二度目となる四球を選び出塁すると2番の三護がサードゴロに倒れる間に二塁へと進塁。

 1アウトながら走者を得点圏に置き、打席には3番の鳥居。

 元々長打が少ないチームの中で最もホームランを打っている選手だ。

 2塁塁上から入夏は様子を窺う。

 外野は前進しており、足にそこそこの自信がある入夏でも正面に落ちる単打では帰ってくるのは至難の業だろう。

 進塁か帰塁か、一瞬の判断が求められる場面だ。


 マウンドには西園寺が続投。

 ここまでほぼ完璧なピッチングを見せており、先ほどの鳥居との対戦では空振り三振を奪っている。

 その初球、チェンジアップがワンバウンドしキャッチャーのミットを僅かに弾いた。

 動くべきか、反射的に足が動いた入夏の動きを鳥居が手で制す。

 普段は閉じているのかギリギリで開いているのか分からない両目がその時ははっきりと開眼している。


(チョロチョロすんな)


 推測するまでもない、静かな威圧感のこもった視線はそう告げていた。気がする。

 さて、ランナーは動けずボールカウントだけが一つ増えた形となる。

 続けて投げたストレートは真ん中高めのストライクゾーンに決まり、1-1の平行カウントに。

 3球目は低めに落ちていくチェンジアップで空振りを奪い2ストライク。

 決めに来るなら高めの釣り玉だろう。

 今日はよく空振りを取れているから有効だろうし、上手く当てさせることが出来ればエラーの可能性の少ないフライに打ち取る事ができる。

 そうであれば、タッチアップの準備も怠るわけにはいかない。


 入夏は一軍と二軍を行き来している事もあって、チームの顔である鳥居の打撃を間近で見る機会はあまりなかった。

 鳥居帝人、彼はドルフィンズの攻守の要を担う中心選手だ。

 セカンドとして何度もオールスターに選出され、広い守備範囲と状況に合わせた器用なバッティングを武器としたオールラウンダータイプである。

 しかし、今年は長打を増やした代わりに打率が前年に比べて下がり気味だ。


 やや長いサイン交換を終え、西園寺が投球モーションへと入った。

 右手から勢いをつけて放たれたボールがキャッチャーミットへと吸い込まれる。

 入夏の予想していた通り、空振りを狙った高めのボールゾーンになるストレートだ。

 球威も乗っているため当てる事が出来ても強い打球を放つのは至難の業だ。

 対して鳥居のバットはほとんど出かかっている。

 止めようとしても中途半端でハーフスイング、振ったとしても恐らくまともに飛ばない。

 まさに進んでも地獄、止まっても地獄だ。


 この時、入夏は初めて知ることになる。

 鳥居の打撃の神髄。

 それは多少のボール球なら強引にフェアゾーンへと運んでいく「悪球打ち」の技術の高さである。

 スイング軌道がボールと合わないと見るや、バットのルートを急変更。

 無理矢理バットをボールに当ててみせた。

 打球は詰まりながらもショートの頭を越えてとセンターとレフトの中間へ。

 ボールが落ちる事を確信した入夏は減速する事無く三塁ベースを蹴ってホームへと向かう!

 ホームでは越智が走者の邪魔にならない位置で待ち構えていた。

 ほとんど外野を背にしているため、入夏からボールの行方は見えない。

 が、キャッチャーミットまで届いていない事は確かに分かった。

 ホームイン。

 先制したのはドルフィンズの方だった。



 ◇


 1点を奪ったドルフィンズは裏の守備から継投策に入る。

 2番手には右の伽藍がらんが上がる。

 6番から始まる下位打線を三者凡退、なんと全てセカンドへのゴロに仕留め、攻守ともに鳥居が活躍する形でこの回を締める。

 ベンチへと引き上げていく際に鳥居が伽藍の肩をグラブでぽんと叩き、何かを話していた。

 相変わらず伽藍の表情から感情を窺い知る事はできないが、そのポーカーフェイスぶりが打者にとっては厄介なのかもしれない。


 7回の表は三者凡退で終え、その裏の守備。

 ドルフィンズが三番手として送ったのは右のサイドスロー、いそだ。

 今年は首脳陣からの信用を勝ち取り、登板数とホールド数で共にチームトップの数字を上げている。

 マッハトレインズの打線は9番のトンプソンからだったが、ここでベンチが動く。

 ここまで活躍できていなかった助っ人をすぱっと変えて、一発のある三ツ繰みつくりを代打へと送る。

 三ツ繰は左のバッターボックスで体を投手に対して大きく開く独特の構えを見せた。


 その勝負は一瞬にして決着した。

 初球、磯の投じた緩いカーブを完璧に捉えた打球は快音を響かせ右方向へ高く上がる。

 ライトの入夏が確信するほどの大きなホームランが右翼席へと突き刺さった。

 打者にとっては会心、投手にとっては痛恨の一打で試合は振り出しへと戻った。


 この一発が効果的だったのか、マッハトレインズはこれまでの拙攻が嘘だったかのように繋がりこの回3得点。

 8回にも4番手の川背見かわせみが1点を失い勝負あり。

 1対4でドルフィンズが敗北を喫した。


 ◇


 他球場の結果


 4パイレーツ4スパークス

 5フィッシャーズ8ビクトリーズ


 今回のピックアップナイン


 M 西園寺 勝敗付かずも好投「越智さんが上手く引っ張ってくれた」

 V 小野桐おのぎり 伝家の宝刀「ノコギリシュート」で締め

 P  田西たにし 意外性の一発 ドロー引き寄せた

 S  生不なまず これぞ安打製造機 4打数4安打「自分は打つことが仕事」

 D  鳥居 悪球打ちで先制タイムリー「三振じゃなくて良かったです」

 M  三ツ繰 流れ手り寄せる一発「初球からという気持ちで入った」

 F  グレース 二塁打2本に好守で魅せる

 V  畔口あぜぐち 乱打戦制す一掃タイムリー

 P  トッド レフトで魅せた美技


 ※今回からピックアップナインは見出しだけにしようと思います










 






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