悪役なりに高校生活を送ってみようと思う

高校での邂逅



「……かんざき?同じ高校に受験していたのか……」


俺は心底驚いていた。

確かにこの高校は治安が良いし、魅力的な部分が多い。

しかし、彼女の入る高校にしては少し偏差値が低いと感じているのだ。

……あまり定かではないが、彼女は昔から勤勉な人であった。

記憶にうっすらとそんな性格をしていたことが残っている。

―――なぜ残っているのかは不明。


「そうよ。なにか悪いかしら?」


冷たい瞳が俺の背中を強く突き刺した。

口調も刺々しい。

是非も言わせぬオーラを神崎から感じる、マジで怒っているっぽかった。

中学生活で最後に見た神崎とは大きく異なり、どこか大人びて見えた。

まあ、見方を変えれば……わざと強がっているように感じるような――――。


「ねえ、ベア君。私が抱きついている間に他の人と会話するのは礼儀がないんじゃないの??」


急に鶴奈が割り込んでくる。


「てかそもそも、抱きついてくる自体おかしいんだが?」


俺の感性はバグってないよね?

急に抱きつかれることが自然で、他人に話しかけることが不自然だなんて、そんな常識どこにも存在していない、はず。

鶴奈は神崎とは正反対で子供っぽく見えた。

精神面的にはかなり余裕そうだが。


「いつものって何のことを言ってるんだ?」


率直に質問する。


「い、いや……、いつもの貧血で倒れそう……的な??」


しどろもどろになりながら、鶴奈からは曖昧な答えが返ってきた。

さらに段々と抱きつく力が弱くなり、鶴奈はだらりと腕を下げる。


「つまり今は、鶴奈が貧血ってことか?」


「う、うん!つまりそういうこと!!いやー頭がグルグルしてて辛かったな〜」


いやー失敬失敬、と言いながら鶴奈は自分の頭の後ろの方で指を組んでいた。

いつもの貧血は草。

まあ、鶴奈のことだから100%嘘だとは言い切れないんじゃないのか?


「というか今立っていて大丈夫か?貧血だったら保健室に行ったほうが良いんじゃないか?」


「超健康、超健康。それより教室に入ろう!」


鶴奈は俺の腕を鷲掴みにして、ドシドシと歩き始める。

一体何だったのだろうか?

不思議に思いながらも俺は歩みを寄せた。

たとえ貧血じゃなかったとしても、これは『受験疲れによる奇行』と判断して無視したほうが良いかもな。


―――そのあと、俺は神崎が気になってふと後ろを振り返る。

するとそこには、神崎と庄田が立っていた。

神崎は後ろ姿だから見えない、しかし庄田はニマニマと笑みを浮かべながら彼女と会話をしている。

ここで庄田も同じ高校に入ったのだと理解した。

結局は誰も彼もこの高校に入ってきたってことか……。

―――んまあ、正直俺は庄田はどうでもいいが、神崎とは歪な暗い記憶を過ごしてきた人なので、静かに身を引きたかったこともある。


てか、座席表を確認したけど、神崎と庄田とも同じクラスなのか……。

これは一波乱ぐらいありそう。俺の中にいる伊玖磨がそう言っていた。

『まあ、なにあっても堂々としてりゃあ丸く収まるだろ。気にすんなって』

楽観的な伊玖磨……いいよなあ、お前は。

こんな状況目の当たりにしてみろ、平たく言うと【同じクラス内に親の仇がいる】みたいな状況だ。

本当に息が詰まりそう。

これまでの伊玖磨が神埼に対して全く反省していない様子が伺えた。


「てか、今日は一段と情緒が不安定じゃないか?やっぱ受験疲れとかなのか?」


俺は鶴奈に視線を落とす。


「んーそうだと思う。ベア君の言っていることは正しいね」


「やっぱ当たってたか……」


色々邪推していたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

俺らは悪友グループだもんな、それは普通に説明がつかないような行動もするわ。


「そういえばさ、ベア君も『貧血だから私に寄りかかってもいいか?』って言いながら抱きついてきたこと合ったよね?」


鶴奈は口の角度を少し上げながら聞いてくる。

とても衝撃的な内容だった。

ん?!?!?そんな過去あるの??

つまり、今の状況と全く逆の立場で、フラフラと俺は鶴奈に抱きついて……


「……いや、全く、わからん。」


「えーー!なんでよーー!あの時は『お前の体は本当に落ち着くな』っていってたじゃん」


少しわざと目にショックを受けるような反応をしながら、

俺の反応を待つ鶴奈。

――――内心、俺吐血してるから待ってて。

まあ、たしかに、無いとも言い切れないのが怖い。

昔から喧嘩っ早かったし、殴り合いをした後に体力尽きてフラフラと抱きついたのかもしれない。


俺、人のこと言えないじゃん!!


「……ち、ちなみに何時ぐらいのときだ??」


「たしかーー、中学1年生のときだった気がするー」


――もちろん、俺の記憶の守備範囲外だな!!

これはどう判断したほうが良いのか見当がつかなかった。

そして俺の目の前には勝ち誇った顔の鶴奈がいた。

そして更に俺に対して言葉を畳み掛けようとする。


「もしかしたら覚えてないかもしれないけど、本当にベア君は過去に……」


しかし


「っ!過去の話はやめなさい!!」


不意に神崎は俺の背後から、声を上げながら現れた。

そして俺と鶴奈の間に入ると、冷静に話し始める。

俺、鶴奈は状況がわかっておらず、ただただワタワタとしていた。

一方、庄田がいた方面からは小さく「チッ」という舌打ちが聞こえる。


「伊玖磨君は覚えてないことを後ろ盾にして、自分の意見を通すことはダメ……」


神崎は俺に向けていた視線よりもさらに冷たい視線を鶴奈に向けていた。


「それは自分が得をするだけじゃないの。他人を傷つける、最低の方法なの。それは洗脳とまるっきり同じ事」


そして更に神崎は言い放った。


「……もしそのことが嘘であるなら、伊玖磨君は更に傷つくよ。心なんて一生開いてくれない」


さっきであった時は、無口な性格だと思い込んでいたが、今の神崎は常に話し続けていた。


「おい美玖、とりあえず落ち着いたらどうだ?」


不意に背後から庄田の声が聞こえた。

イライラした様子で貧乏ゆすりをしながら、彼は神崎の名前を呼ぶ。


「……」


一瞬、神崎は苦い虫を噛み潰したような顔をする。

しかし、次の瞬間にはいつもの平然とした顔に戻って、神崎は庄田のところへ歩いていった。


「……チッ。勝手な行動しやがってよ」


「…………貴方には関係ないでしょ」


小さく、本当に小さい声で神崎と庄田とのやり取りが行われた。

その声は二人以外に誰にも届かなかった。

しかし、しっかり観察している人は雰囲気で感じ取れるだろう。

この二人の仲は、カップルでありながら最悪であることを。

まるで、はなから相互に恋愛感情を持ち合わせていなかったような光景だった。


「……ふう、とりあえず教室に入ろうか。廊下は寒いだろう?」


俺は震えている鶴奈に対して肩を揺すった。

そして、教室を指差す。

うーん……反応が鈍い。

しかし、ちょっと経つと鶴奈は小さい声で「ごめんなさい」と俺に謝ってきた。

――別に俺は気にしていないんだがなー。

普通のイジり合いだと解釈しているから、全く怒りとか失望の感情は持ち合わせていなかった。


まあ、つまり、昔の『俺が抱きついた事件』は嘘だったってことだな。

安心安心。

これで颯太、渚や拓斗に合わせる顔がある。

もしもこれが本当であったなら、これから一生いじられ続けるネタになっていただろうな。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



槙原まきばら先生と呼んでくれ。これから5組の担任を務める。よろしく。

じゃあ、それぞれ自己紹介だ」


担任の先生は手短に自分の紹介を終えると、

すぐに生徒に自己紹介するように振った。

……なかなか掴みどころのない男性先生やな。


今は、それぞれ自分の席に座って、一時間目が始まったばかりだ。

まあ、入学したばかりなので、HRだ。

特に勉強する内容もない。


ちなみに、知っている人とは誰も近い席にならなかったので説明は割愛させていただく。

俺自身の席は、真ん中の一番後ろである。


しかし、新入学生にとってはただのHRではない。

なにせ自己紹介という大切なイベントが待ち受けている。

大体の生徒は自己紹介の『成功』と『失敗』が今後の学校生活を示唆するのだと錯覚するだろう。


―――んまあ、前世では散々、色々な場所で自己紹介したし、

別に自己紹介一つで学校生活が一変するなどという事もないのを知っている。

かといって疎かにするのは話が違う。

ここでも不真面目な人は、大体学校生活も不真面目な奴が多い。

先生視点からし生徒それぞれの接し方を決める重要な判断材料にもなるだろう。

……だから【完璧】は求めない、真剣に話せば誰からも好印象を受ける。


「私の名前は神崎美紅です。これから一年間よろしくお願いします。」


いまは黒板の前で、神崎が話している。

優しい声のトーンに綺麗な言葉遣い、そして可憐な立ち振舞い。


「趣味は読書です。物静かな性格ですが、皆さんとはお友達になりたいと心から持っているので、気軽に話しかけてください。

……行事は真面目に行うタイプなので、一部の男子は覚悟しておいてくださいね」


趣味の話題でまずは半分ほどの女子と親近感を沸かせる。

普通に読書って言ってもコミュニティーの幅って広がるんだな……。

そしてウェルカム精神、恥ずかしげもなく素直に述べているのが評価が高い。

男子女子からも全く神崎に対して警戒心が見えなくなった。

美少女っていうアドバンテージもデカいが、

彼女のスピーチ能力も侮っちゃいけない。


そして、最後にはオチを付けることによって、場を和ませた。

さらに無表情気味の彼女がニッコリ笑うものだから、

このギャップから男子の半分は彼女の魅力に落ちたのではないのだろうか??


――いやー、次の生徒が可哀想になってきた。


「な、名前は桃森とうもり鶴奈って言いますよろしくお願いします!!私の好きな食べ物は……」


「俺の名前は須藤 伊久磨。気軽に『くまさん』とでも呼んでほしい。これと言って趣味は無いが、話すことは好きだ……」


他の生徒を挟んで俺と鶴奈は自己紹介した。

というか、鶴奈の上の名前って桃森だったんだな……。全く聞いたことが無い。

緊張しながらも鶴奈は真剣に話していたし、普通に良かった。

まあ、前世の経験のせいで、

俺の方が緊張しなさ過ぎなので、他のクラスメイトに不穏に思われそうなのが怖い。

で、庄田の番になりました。

すると彼は重そうに体を起こして、のっそりと黒板の前に立つ。


「庄田っす。よろ」


すると、気怠そうな顔で、簡単な挨拶だけして席に戻っていった。

―――いやまじかよ。

悪友グループの鶴奈でさえ、真面目に自己紹介したっていうのに、

庄田は何を考えているんだ??

しかし、当の本人はまるで「やりきったぜ」と言っているような顔つきで、

意気揚々と自分の席に戻っていった。


神崎の方を見ると、横顔に焦りの表情が見えた。

やはり、彼女視点から見ても今の自己紹介には不服があったらしい。


「……ほう」


担任の槙原先生も彼の態度を、一部始終確認すると、諦めたような顔つきになる。

一人一人が努力して作った雰囲気をぶち壊して言った感じ……。

正直、このクラスで一年間を過ごすことが難しく感じられるような出来事だった。

















~~~~~作者より~~~~~

全ての物事に反発するのは一概にカッコいいとは言えない……たぶん。

誤字脱字、分かりづらい表現の報告待っています。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラブコメ原作の知らない悪役(?)は周囲を避けることで、ヒロインを病ませていた件 九条 夏孤 🐧 @shirahaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ