おい悪ガキたち勉強の時間だ!

ふう、風邪ひかなくてよかった。

俺は早い時間に起きて、背伸びしながら朝の日の光を浴びていた。


昨日はずぶ濡れで帰って散々だった。

まあ、神崎からは相合傘を提案されたが、倫理的にそぐわない行動なので拒否しました。

多分、向こうも嫌々傘を貸しているだろうし、お気遣い無用だ。

家に帰った後カバンの中身の生存確認したっけ?

……たしか大丈夫だったはず。俺が身を挺して雨粒から守ったはずだ。

流石頼れる男、伊久磨っすね!

――不登校害悪猿公害キッズが何を言っているんだが。

そろそろ寝ぼけた頭を治すか。


俺は無意識に洗面台に向かい、顔を洗った。

そして簡単な朝食を作り、蜜花の作り置きを弁当につめる。

最後に俺は随分ドメスティックになったと偉そうになる()


外出する準備が整うと、俺は不意に蜜花の言っていた言葉を思い出した。


美志世恩ミシヨオン高校に入学してほしい、だっけか?」


それは数日前の会話である。


美志世恩ミシヨオン高校に入学しない?弟君???』


『蜜花の通ってる高校の事か?』


『正解!!さっすがわたしの弟ね!』


『はあ……弟ね…。まあ、高校の偏差値が高そうなのが気がかりであるけど』


『大丈夫!!ポテンシャルで簡単に受かるわよ!!』


『そんな強引に入学できるわけないやろw』


『内申なんて当てにならないわ!当日点が高ければ勝利なの』


『うーん……』


『真面目にいうと私はね、美志世恩高校はずっと伊久磨に適している高校だと思うの。誰も優遇せずに平等に扱う。しかもみんな頭いいからイジめなんて馬鹿な真似はしないわ。例え親が居なくたって揶揄う奴なんていない。高校後の就職もサポートが厚い』


真面目な声のトーンに少し驚きながらも嬉しさすら込み上げてきた。

親ですらここまでの愛情を向けられたことは無いのに、それ以上の心配をかけて来てくれていることに対してだな。

もう、抱きしめて喜びを表現したい感じか?

高校進学を許されたことで舞い上がっていたからなんでもできる気がした。

まあ……結果から言うと蜜花に抱き着きましたな。

キャー恥ずか死ー。


未来の俺が思い返すとぞっとするね。

だって、姉って言いながらも、血縁関係も何もないただの女子高生だからさ。

それに抱き着いたというのは冷や冷やする。

抱き着いていた時は甘かったし、温かかったけどね。


『うふふ、共依存しちゃっているかしら?』


『うーん?なんか違う。ただ嬉しいだけだ』


『ちょっともう!!すぐに否定しないの!楽しくない人間になっちゃうわよ!』


『蜜花は楽しすぎる人間だから、余計想像がつかないな』


俺は適当な言葉で返して、身を離した。

つもりだったけど……あの、蜜花さん、放してくださいな。

なんか、蜜花の抱擁はフワッとするよりもロープできつく縛り付けるような感覚だから非常に恐怖である。解放してください。

Q女子に抱き着いてドキドキしないの?

A満たされている感覚はあるけどチャラ男だからあまり無い。(※性欲は盛ん)


―――こんな感じで、俺は美志世恩高校、(通称:ミッション)を目指している。


ということでだ、

ここは俺の在籍しているのとは別の教室である。


「くまさん今日も登校してんのか珍しい」


「べ、ベア君!!おはよう!!」


「今日放課後何して遊ぶんだ??」



今目の前には、多分おバカであろう三人組が並んでいる。

記憶にある限り渚は勉強に関しては大丈夫だったはず。ノーベンでテストは常に90点台。

だから三人組の内訳は颯太!拓斗!鶴奈!

左から順に、勉強してないからバカ。

喧嘩にしか興味を持っていないからバカ。

なんか……本人は頑張っているらしいけどバカ。

ちなみに渚はまだ登校していない。あいつは登校時間ギリギリでリムジンに乗ってくるからなーーやべー奴である。

―――いない奴には決定権なし、鶴奈は渚と一対一の勉強でいいか。


さあ、これからなにをするのか気になるって?


「まさか、お前ら三年生にもなってまだ遊ぶことを考えているのか??」


俺は強い威圧を掛けた。

ま…じで…なんとしてでも勉強の世界に…こいつらを巻き込んでやる!!

俺は強い意志を言葉に乗せて声を出した。


「【ミッション高校目標】の悪ガキ勉強会を開催する!!お前らは強制参加だ!!」


悪ガキだけでなく周囲の生徒も驚いた顔でこちらを見ている。

てか、鶴奈の顔がもう泣きそうなのが気になる。

いや、許しておくれ。


「理由は簡単だ。……同じ高校にいってまたバカやろうぜってな」


はい、ここで真意を説明いたします。

結論から言うと、一人で勉強は寂しいから。

やっぱりさ前世で散々試験を受けたから分かるんだけど、勉強を始めるうえで孤独が一番の敵なのよ。

周囲が楽しく遊んでいて、自分だけ一人寂しく勉強をしているのを想像しただけで悲しくなってくる。そのせいで病んで落ちた経験あります☆。

で、正当な理由を付けるために『一緒の高校行こうぜ』ってなった。


―――んまあ、勉強にミリも興味ないこいつらが協力してくれるわけないよなー。

正直、あまり期待は見込めなかった。


「「「…………くまさん(ベア君)いい奴かよ」」」


不意に顔を上げた三人組は同じ言葉を口にした。

めちゃめちゃ目を輝かせてこちらを見ている。


拓斗「確かに、俺にとっての真の仲間はこいつらだもんな」


鶴奈「私ももう少しこのグループで仲良くしたいし」


颯太「めんどいけど、付いてくわ」


予想と違う答えが返って来て驚いた。

まさか、俺の考えに反して、こいつらが勉強会に協力してくれるとは……

もうこれは悪ガキグループとは言わないな、いい子ちゃんグループだわ。

お前らの成長に泣けてくるよ……(感極まり)


拓斗「そして高校でカースト上位に入って、下の民どもを懲らしめるとかw」


鶴奈「け、喧嘩しちゃうのね(荒い息遣い)」


颯太「中堅の高校は可愛い女子多いらしいぜ?」


この子達の思想は小学六年生で止まっているみたいで安心した。

まあ、高校に入る理由なんて人それぞれだよね。

俺としては皆を巻き込んで勉強出来ればそれでいい。


「おはよー、僕以外みんな揃ってるね」


すると、教室のドアが開いて、眠そうな渚が入室してきた。

……てか、髪整えてないな?

渚は元々容姿的に男子にしては髪が長いのでいつも結んでいる。

でも、今日はラフすぎるせいで女の子っぽい見た目になって居る。

性格を知っている俺らにとっては何とも思わないが周りの女子からの評価は高かったようだ。

なにか歓声が上がっている。


「ああ、渚おはよう。ということで強制参加だ」


「ん?ちょ、急にどうしたのくまさん?!あーれーーー」


手をひっつかんで俺らのグループへと持ってくる。

渚は運動能力は低いために、抗う事も出来ずに俺らのグループへと到着した。

そして、概要を話す。


それに加えて、新たに、俺と渚が臨時で教える立場に立つ必要がある事も話した。

一応、前世でも高校入試はしているから、知識量ならちょっとある。

……んまあ、テストの点数は伊久磨センスも影響するために、スコアは低いがな。


「―――うーん、なるほどね。いいよ、僕も手伝うよ」


渚は自信満々にぐっちょぶサインを出す。

天才とは聞いていたけど…なんかー不安だな。

詳しく言うと、能天気っぽい感じ?まあ、普段の残虐性を隠すための芝居かもしれないけど。

俺はジト目で渚に「大丈夫か?」というサインを送る。

すると渚は自分のカバンをガサゴソあさり始めて……


「一応さ県立入試問題全教科オール95点超えたからよろしくね☆」


なにやら使用済みの入試問題集を取り出して、こう言い放った。


「え……渚……やっば」


「なんだ、ただの天才か」


やはり、渚は教える係に向いているらしい。

というか、その点数はチートやろ!!優遇されすぎててもはや怖い。

御見それいたしました……。




~~~~~~~~~~~~~~~



「というかなんでミッション高校目指しているの?」


今は、放課後の時間帯。

もちろん、これまでの様に街でぶらついて遊んではいない。

悪ガキグループ勉強会が開催されているのだ!

その時に鶴奈は突拍子もなくこんなことを聞いてきた。


―――まあ、確かに説明した記憶はなかったな。

理由としては、そこに焦点を当ててなかったからだろうな。

俺はこの高校を目標にみんな頑張ろう!!と表面では元気づけているモノの、

実をいうと一人ぼっちになりたくないだけの下らない作戦なのだ。


「うーん……比較的に近いからだな。他意はない」


俺はワザと蜜花との関係を隠したうえで、バカみたいな振りをした。

でも別に俺らの家から遠いわけではないし、歩きで行ける距離なので

間違ったことは言っていない。

……とりあえず、俺としては蜜花との関係を深追いされたくなかっただけだ。

色々、周囲の目がある以上、バレた場合お互い損を食らう事になるからだ。


お互い損をかぶっているのを知って居ながらも「同居するのが当たり前」

みたいな風潮が漂っているだからやっぱり依存しているのか??

いやいや、まさかそんな訳ない。もしそうだったとしたら俺は彼女に負担を掛け過ぎている。


「え!?それだけなの??なんかショック受けてるんだけど~」


鶴奈は大袈裟にリアクションを取って横目で颯太を見る。

まるで「君も乗っかって勉強会中断させようZE☆」とでも訴えかけているようだった。


「ん?俺か」


颯太はペンを置いてなにやら口を開こうとした。

―――ピーコンピーコン!!

その時俺の脳内で緊急サイレンが鳴る。

どうやら、勉強会が初日で廃れることを危惧しているようだった。

やっぱ、設定が適当過ぎたのが原因だな!!


だが俺は、原因はわかっていながらも、さらさらこの勉強会を閉じるつもりは無い。

強欲な俺を許せ。


そう思いながら、鶴奈の顔を両手で挟み、

俺の顔の方へ無理矢理視界を持って行った。

――あー鶴奈の肌柔らけえ。カニバリズムじゃねえけどさ、このモチモチ感よ……。マジで美味しそうかも。

なんて低俗な事を考えながら、真剣な眼差しで俺は語った。


「確かに俺は理想論を語っているのかもしれない。でも少し考えてみろ、これから数か月頑張っていい高校に入れば、俺らは真正面から否定される生活を辞めることになるんだ。これは素晴らしい事じゃないか。これまでずっと偏見ばかり持った頭の悪い奴とは大体おさらばするんだ。……俺としてもお前らが否定されないで平穏にこのグループで過ごしていけることを望んでいる」


これは……全部嘘じゃない。

ミッション高に入学することが出来れば、俺らが何も問題を起こさなければ否定されることは無い。

でも……確かに理想論ではある。

なにせ、俺らは内申からして低いのだ。(渚、颯太は除く)

それでいて、テストでも相応の点数を求められるので、たとえハードモードに分類するにしても言葉が軽すぎるだろう。


「わ、わかっひゃ……」


あ、手を離すのを忘れてた。

俺はまだ鶴奈の顔をむギューッとしていた。

そのせいかもしれないけど顔が真っ赤である。

やべえ、ちょっと力が入りすぎたのかもしれん……。


颯太「まあ、俺も言いたいことがあったけど……とにかく目指してみるか」


拓斗「まとめるのが上手い、流石腹黒くまさん」


ふう、まとまってよかった。

少し俺は自分の統率力に違和感を覚えたが、あまり気にせずにみんなの声に耳を傾けていた。

それと、あと雑音が聞こえた。

――あとで拓斗だけを裏庭に緊急収集させよっか。

あれだけ勉強すると、ストレスで喧嘩もしたくなるだろうから相手してやるよ。


「…………」


一方、渚だけは終始無言だった。

俺は渚の考えていることが気になり、近くに行って話を聞いてみようとした。

その時、急に顔を上げて、俺を見る。


「僕の親の権力を使えば、ミッション高校に簡単に入学できちゃうよ?」


ええっと……それ禁止で。

俺は「何馬鹿なこと言ってんだ?」と冷たい視線を送りながら答える。

裏口入学なんて、人としておかしい。さらに後になったら絶対に周囲にバレてしまうだろう。

冷や冷やとした学校生活を送るなんて、俺には到底できない。


社長の息子の考えることはやはり半端なかった。




~~~~~~~~~~~~~~~



鶴奈「ベア君!!来て来て!カモンミー」


伊久磨「ん?騒がしいな。どこか分からない問題があるのか?」


鶴奈「いや……全部分からないの」


伊久磨「……渚。さっきまで教えてたらしいけど、もしかして鶴奈相当おバカさんだった?」


鶴奈「ちょ、渚?あなただったら言わないと信じてい………」


渚「生粋の馬鹿だね。何言っても通用しなかったよ。正直、チャレンジ高校に進学すべきだと思う」


伊久磨「オー辛辣……。(まあ、こういう時に素直に言ってくれたから俺としては状況が掴みやすくて大変うれしいんだがな)」


鶴奈「あ、あのさ、ベア君。失望…しちゃいました??」


伊久磨「いや全くしてない」


鶴奈「あぁ、嬉しいよ!!」


伊久磨、渚、颯太、拓斗「「もはや予想通りかもな」」


鶴奈「なんでやねん!」


渚「んーまあ、伊久磨君の説明の方が鶴奈にとって分かりやすいと思うから、交代しない?僕は颯太と拓斗に教えてるよ」


伊久磨「了解、ということで鶴奈。俺が来たことを大変後悔するんだな。徹底的に知識を叩き込むからな」


鶴奈「わ、私は嬉しいけど??」


伊久磨「なるほど、サイコパス属性にM属性も追加か」


鶴奈「違うのw遠くから見て伊久磨の教え方が上手そうだから、嬉しいって思ったの」


伊久磨「そういわれると俺も嬉しいな」


鶴奈「ベア君が素直……」


伊久磨「いつも通りだから安心しろ。……あと、この後いったん自分の教室に戻るから。忘れ物」


鶴奈「おっけー。じゃあどの科目から行きますか??」


伊久磨「手始めに点を取りやすい理科からだな―――――」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一時間ほど鶴奈と勉強をした後、俺は教室に戻ろうとした。

今日は体育があったわけで選択するために体操着を取りに行く。

そして俺は丁度教室の前に差し掛かったとき、

ドアの付近で一つの影がうごめいていることに気付いた。


「今の時間帯……誰がいるんだ?」


俺は、もう一人忘れ物をしているのだと予想した。

そして、なにも躊躇することなくドアを大雑把に開ける。

――伊久磨の癖が抜けない……と思いながら俺は辺りを見渡す。

すると、そこには一人の男子が机の中を漁っていた。

身長は平均程、あまり目立った印象は無く、俺の知らない人だった。


そしてその子は俺を一回視界にとらえるなり、すぐにまた机を漁り始めた。


「やっぱ、コイツも忘れ物か……」


そう思いながら、自分の席に戻ろうとしたとき、

俺はある事にハタと気づいた。

……もしかして、あの席……神崎の席じゃねえのか??

そう勘付いた時の俺の行動は早かった。

素早く座席表を確認し、神崎の席を探した。

―――すると、俺の思っている通りに、今、知らない男子があさっている席は神崎の席であった。


「おい、他人の机漁ってなにしてんだ?」


もちろん、本人から頼まれた可能性もあった。

でもそれにしてもこの時間帯が不自然である。

もう、誰しも下校するであろうこの時間帯、周囲にもこれらのグループ以外で人の気配も無ければ、この子は一人でいたことになる。


「伊久磨メンドクサイやつ。……美紅の彼氏だけど文句ある?」


すると、怪訝そうに彼は俺の方を向いて口を開いた。

……しかし不思議な事に彼の目には俺が写っているとは思えなかった。

いま、ここにいない誰かを見ている。

そして、それを妨害した俺に腹を立てている。

不意に変な感覚に陥った。


「彼氏が彼女の机を漁って何が悪い?別に許可なんてしてなくてもいいよ。

てか、逆に浮気みたいな雰囲気を醸し出している美紅の方が悪いんだよ、」


ぶつくさ言いながらも、彼は手を止めなかった。


「てか、伊久磨はいつも彼女を悲しませてるよな?次に手を出したら容赦しないからな!!」


あー俺としては初対面だけどなんかイライラしている。

その時、俺は記憶がまた少し蘇ってきた感覚になる。

……どうやら記憶をたどっていくと、過去に何度かコイツと出くわしたことがあるらしい。


「神崎の彼氏……お前は庄田か」


「へー、いまさら名前を覚えたんだ」


なんか、伊久磨が俺に対してなんか言っている。

『殴れー!庄田を殴るんだ!!いっけー、やっちまえ!!』

うーん、どうやら俺はすでに神崎に彼氏にまで接触してフラグを立てているかのようだった。

いや、すでに立てているな。

しかしここで俺はある重要な事実に気付いてしまった。

これは俺が一方的に悪いのでは?という、


彼氏がいるというのに彼女を乱暴にしたのは俺、

彼女を泣かせたのは俺、

なーんだ、黒幕は俺ですか。


過去の回想を思い返して、俺はふと立ち止まった。

俺は庄田にどうこういう権利なんてないのか……。


「―――」


そこまで結論を出すと、自分の体操着袋を机から引っ手繰って、すぐに教室を出た。

そしてこれまでの行動の罪悪感を感じながら、俺は教室のドアをゆっくりと閉る。

もう、神崎に介入するのは金輪際おさらばだな。

これまでは弱く、決心もつかなかったが、絶縁しようと決めた。

これで彼女は悪役の俺が居なくなったことで本当の幸せを手に入れられるだろう。


俺は悪役、で、あいつはヒロイン(美紅)を幸せにする主人公。

少々癖のある主人公をヒロインはきっと溺愛するだろう。

それも、俺という障害を乗り越えて……。


心から俺はそんなことを思っていた。




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