忘れたとは言わせない

今回の目的は、神崎との会話。

会話の内容から、過去を覚えていのことを察知させる。


学習委員のため、多目的室で作業する。


「どうすればいいんだよー…」


俺は一人教室で呻いていた。

悩みの理由は、さきほどまで神崎と接触こと。

そして彼女とは委員会という思いのほか接点があったことだ。

流石に絶対に関わらないように生きることは無理だった。


「これは気まずすぎるだろ。誰だ配役決めたやつ?

絶対に先生とかがテキトーに役割分担させただろ」


怒りの矛先は担任の先生に向けられる。

まあ、昼休み中なので目の前にいないが。


実はあの後、昼休み中に仕事を終わらせようと提案されたが、

残り時間が少ないゆえに放課後、仕事をすることになったのだ。


「次の授業なんだったか覚えてるかしら?」


「あー、たしか、数学だった」


「伊久磨君は授業の意味が分からないからって寝ないでよね」


「うい。善処しとく」


てきぱきと話を進める、神崎。

いや……次の教科ぐらい神崎だったらすでに把握しているやろ。

なぜわざわざ話そうとしているのかが分からない。


「過去を聞くのも野蛮だよな。関わり方わかんねえ……」


いつの間にか教室が更に騒がしくなっていた。

そして数分後に五時間目が始まる。

俺は委員会の仕事をどう乗り切ろうか頭を悩ませながら、

授業を聞いていた。



~~~~~~~~~~~~~~


「多目的室は、ここか」


時間はすでに放課後。

あの悪友四人組は、今日はカラオケに行くなどと言ってすでに下校した。

まあ、一応俺も誘われたのだが、仕事がある状況なので断って置いた。

鶴奈からは「じゃあ、終わるまで待つわ」

とかいわれたけど、内心「お前らできるだけ早い時間に帰れ」と考えていた。

なぜなら、夜の街は危険だからだ。

例え日本でも。


子供の頃は、何となく、夜の街は街灯が綺麗。

沢山の社会人が帰宅しているなー。

としか考えられない。

だからこそ夜の街に飲み込まれやすい中学生は格好の的なのだ。


というわけで、先ずに四人を校門まで見送った。

よって俺は一人で委員会の仕事場である多目的室に足を踏み入れた。


「てかもう、神崎居そうだな」


仕事を行う約束の時間丁度ぴったりであった。


俺は多目的室にドアを開けて入ると、

窓の方へ目を向けた。


そこには一人、校庭を眺めながら佇んでいる神崎の姿があった。

いまは、髪をゴムで止めていないらしく、

風で綺麗になびいていた。

一言でいうと可憐だな。

美少女はどんな場所、格好でも彩りがあるんだなと感じるほどに。


一応神崎は、俺の様子には気づいていないらしい。


「…………」


反射的に俺は神崎に近づく。

俺でも何を考えてるのか分からない。

そして、神崎の真後ろまで近づくと、俺はゆっくり片手を出した。


あれ??神崎に向けてなんで手を出したんだ?!

いや、これは本能的に神崎を襲おうとしているのか?


いやな未来を想像して冷や汗がでる。

しかし、そんな俺の状況とは裏腹に俺の手は更に神崎に近づいて行ってしまう。

まだ神崎は俺の存在に気付いていない。

しかしいずれ魔の手が伸びていることに気付く。

そして、周囲から糾弾され、俺は悪役として無残に散る。

―――もう、俺の学校生活終わりだな。


そう思った直後、俺は自然に声が出た。

奇襲をかけたいわけではないことに、少し驚く。


「おい神崎。来てやったから仕事を説明しろ」


全く今の状況を楽しめていない、とでもいうような不愛想な声のトーン。

そして自己中を漂わせるような発言。

神崎は、ゆっくりと後ろを振り向こうとする。


最後に、最後に俺の挙げた手は、神崎に肩に乗った。

それも、人差し指だけを上げた状態で……。

不意に、指にぷにっとした優しい触感が伝わる。


「やっと来たの……え?」


神崎は驚いたように声を上げた。


いや、これは俺も自分自身の行動に驚いた。

状況を説明すると、俺が悪戯を仕掛けたんだよ。

振り返り際に相手の頬を指で指す、あの悪戯。


「~~~~/////!!!??」


俺の悪戯が成功した後、神崎はすごい勢いで顔を手で覆った。

耳まで赤いな。


いや、やっぱ普通に嫌われてますよね。

俺から見れば神崎の様子はまさしく拒絶にしか感じ取れなかった。


「……き」



神崎が何か言葉を発した。

きってなんだろうな?


「本当に伊久磨君は気まぐれね!」


き、気まぐれっすか……。

まあ、確かに拒絶しては悪戯を仕掛けたりして、気まぐれではある。

実は俺も今、自分が何をしたかったのかがいまいち理解できていない。

―――もしかして俺と神崎の中にある気まずさを解消したかったから…とかなのか?

そうであるならば余計な事をした、とだけ言っておこう。



~~~~~~~~~~~~~~


ついに始まった仕事。気持ち切り替えるか。

俺は重そうな箱を持ち上げた。


「この荷物は重いから俺運ぶわ」


「うん。よろしくね」


すでに神崎は冷静を取り繕っており、

俺の雰囲気はいつもの気怠そうな感じに逆戻りした。


仕事内容は、授業プリントの仕分け、そのほか使えなくなった貸し出し筆記用具の処分など、ほぼ雑用のようなものだった。

因みに今は、貸し出し用の辞典の整理をしている。


この頃になると、中学三年生は受験生になり、辞典の貸出が増える。


(本当だったら、年の初めごろの並べた方がよいが、

傾向としては夏休み終わりごろに勉強に力を入れる人が多いためこの時期で間に合う)


そのため、使えなくなった辞典などは廃棄したり、

新しく入荷したものを並べたり色々大変なのだ。


「あとは簡単な仕事だから、神崎は見ているだけでいい」


かと言って、力のある俺が本気を出しちゃえば結構すぐに終わる。

ちなみに爆速で仕事を片付けているのは訳がある。

あのレイプ事件から俺としても、神崎には負い目を抱いているし、

関りを増やすことはお互いを苦しめることだと解釈している。


「……伊久磨君、真面目なのね」


後ろから神崎が何かをつぶやいた。

……あんな悪戯して何が真面目だよ。

しかも、不真面目だったから俺は神崎を……。

しかし、声のトーンから揶揄っている様子もなく、

ただ思ったことを素直に述べているようだった。


「真面目腐っていて、そんなに滑稽か?」


俺ははねのけるような言葉を思わず返した。

この居心地が良い感じが逆に気持ち悪さを感じさせる。


「違うの。私が気遣われているんだなって思って」


―――ちょっと嬉しかった。と言葉を返されてしまった。

完全に油断した俺の脳内にその言葉が反響する。

もちろん、でっかい箱を移動させているため神崎の顔を見ているわけではない。


「そんなつもりはない」


しかし、ここで神崎の顔まで見てしまったら俺はきっと勘違いをしてしまう。

これは……あれだ……社交辞令的なやつだ。

逆にこれで勘違いしたら恥ずかしすぎるし、相手にも迷惑だな。

一か月に一回ほど、このような仕事がある事に俺は危機感を覚えてしまった。


「伊久磨君……もう少しゆっくり作業できる?」


不意に神崎が声のトーンがずっと上がった状態で俺に訪ねてきた。

神崎は緊張でもしているのかという素振りに見える。


俺は重い荷物を指定の位置まで運び終えて、神崎の方を振り向く。

そして答えた。


「やろうと思えばできる。なぜだ?」


俺としては即急でここを立ち去りたいんですがね。

問いただしたことで、神崎の青色の瞳が揺れる。

そして、何か覚悟でも決めたように手をギューッと握ると

彼女はゆっくりと言葉を吐いた。


「――分からないんだ……。そっか」


嘘偽りも無く、取り繕うわけでも無い。ただの真心。

しかしその返答は曖昧なもので、俺を酷く不安にさせた。

そこまで失望される程、俺は何か間違えたりしているのか?

そして、神崎は続けて言葉を出した。


「ねえ、もしかしてさ伊久磨君もとかの病気を患っていないよね?」










~~~~作者より

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