『聖女』の誕生

「出ていけーっ!」

「誰も殺させやしないぞーっ!」


 野菜や果物に混じって石も飛んでくる。


「きゃっ!」

「仕方ありません。さっさとおいとましましょうか」


 当たりどころが悪ければ命に関わる。それでもヴィオレッタは淡々としていた。






 街外れの小高い丘。自分たちを追い出した人々がよく見えた。

 私たちはドライフルーツで腹を満たす。


「まさか本当にこんな目に遭うとは」


 種が多い、苦手な実を袋に戻す。


「あの」

「はい」

「曲がりなりにも、勇者一行なんですよね?」

「順当に勇者一行ですよ?」

「でもこの扱い」

「そうは思えないんでしょう。勇者はいない、呪殺聖女はいる」

「どう見ても魔王の手先」


 苦手な実ばかり残った袋。逃避するように私は、今まで聞かずにいたことを切り出した。



「どうして『呪殺聖女』なんですか?」



「ん?」

「だって、誰も殺さないじゃないですか。『呪われた人を殺すから』って言いますけど、このまえのおじいさんだって」

「あぁー」


 私は嫌いな実を口に放り込む呪殺聖女。しばらく考えるように噛んでから飲み込むと、


「では話しておきましょうか。私が旅に出てから、今に至るまでのことを」











 少女は田舎の教会のいち修道女でしかなかった。それも拾われた孤児。

 しかし国王が魔王討伐のために全ての聖職者を調べた際。

 伸び代込みで最も優れた『僧侶』の素質を持つものとして、彼女が選ばれた。


 少女は『聖女』になった。流されるまま、あっという間に。






『聖女』は王都に召され初めて知った。この世に『呪い』があるということを。

 少女の田舎は魔王すら来ないような僻地へきちだったから。


「兵隊さん。あの、皆さんの胸にあるモヤはなんですか?」

「モヤ?」

「ほら、あそこで列を成している人たち」

「よく分かりませんが、彼らは『呪い』を受けた人々です。体がひどく痛むので、薬を買いに並ぶのですよ」

「『呪い』……」


 ほろの隙間から覗く光景に少女は思った。

 魔王は勝てるかどうか分からない。でも。



『聖女』なら、立派な僧侶になれば。

 きっとあの人たちを癒せる。救うことができる……



 その後『聖女』は素質を発揮し、瞬く間に奥義を習得したという。






 それから彼女は出発まで、王都中の『呪い』を癒してまわった。

 やり方は私が見た方法と大体同じ。ただ当時は、モヤを撫でるよりは切り落として粉砕的な感じだったとか。

 光から直接除去する以外に方法はなく、見て扱えるのも彼女一人。

 だから彼女は一人で癒し続けた。昼も夜もなく、出発前日の送別の宴にも出ず。






 それからも少女は旅のかたわら、行く先々で『呪い』を治し続けた。

 多くの人が苦しみから解放され、感謝した。


「オレたちは魔王を討たないと世界を救えない。でも君はもう、立派に人々を救えるんだな」

「負けてられんな」


 仲間たちも心底から褒めてくれる。それが田舎で祈るだけだった孤児の、生まれてきた喜びだった。



「大丈夫ですか!? いったい何が!?」

「まさかの、魔王が直接出向いてきてな……」


 ある日、自分だけ買い物で不在だった時に


「モヤが!」

「『呪い』をね……」

「こんな効くものなのね……」


 仲間に危機が訪れても。


「大丈夫です。私が治します」


 救うことができる。それが何よりの誇りだった。






 少女の運命が変わったのは、旅に出て一年と少し経ったころ。



『呪い』を癒やされた人々が相次いで死んでいる、との報せが届いた。

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