呪殺聖女の人の殺し方
旅に出てから初めての街。
衛兵たちに苦虫100匹で見送られながら中心部へ。
しかし
「昼の大通りに、人っこ一人いませんね」
故郷で一度見ているというのに、自分が閉め出されると別の景色。
「宿は無理そうですね。廃屋探しましょう。なければ教会でも。軒先で寝るくらいなら追い出されません」
「知識が浮浪者じゃないですか」
「でも、誰もいないくらいの方がいいですよぉ?」
ヴィオレッタは楽しそうな声色で人差し指を振る。
「誰かいる時は大抵石を投げられるか、あと、は……」
その調子が明らかに止まった。足も止まる。
「?」
彼女の背中で見えないので、一歩横にずれるとそこには。
道端のベンチに座り、まっすぐこちらを見据える老爺。
こちらが動かずにいると、彼は杖をついてゆっくり立ち上がった。
そのまま全身を震わせながら歩いてくる。
が、すぐに立ち止まり深呼吸。何度か息を吸うとまた怪しい足取りで進み、また動かなくなる。
それを『聖女』は助けようともせず、静かに眺めている。
どころか
「おじいさっ」
代わりに私が行こうとするのも手で止める。
「どうしたんですか」
「静かに」
誰より静かな、透き通る声で彼女はつぶやく。
「彼の意思の強さが決めることです。私たちが左右するものではありません」
意味はまったく分からなかったが、その後も老爺の動きを辛抱強く見つめ。
ついに二人は会話をする距離まで近づいた。
「『呪殺聖女』さまですか?」
まるで腹部を締め付けられているような声。
「えぇ」
「本日はお願いがありまして」
ヴィオレッタは手で制した。
「あなた、『呪い』を受けておりますね」
老爺は一瞬目を丸くしたが、すぐに深く頷いた。
「おっしゃるとおりです。全身が痛み、呼吸も苦しく、歩く姿もお目汚しするほどで」
彼はヴィオレッタをまっすぐ見据え、彼女も
「私を呪殺していただけませんか?」
少し熱のこもった声。
「家族の辛そうな顔。まともに動けない私のために苦労している姿を見ると、どうしても」
「分かりました」
ヴィオレッタは一度だけ、ため息とも深呼吸ともつかない息を漏らすと、
右の手のひらを老爺の胸の前へ。
すると
「おぉ!」
彼の胸から金色の、光の塊が出てきた。
しかし3分の2ほどを黒いモヤに蝕まれている。
彼女は手のひらを上にし、そっと受け取った。
「これは」
戸惑う私たちに淡々と答える。
「このモヤが『呪い』です」
黒い部分を水晶玉のように撫でると
「消えた!」
モヤはポッカリなくなり、金色の部分だけが残った。
それを呪殺聖女は老爺の胸へ押し込む。
「以上で終わりです」
「えっ?」
私の呟きをかき消すように。
「おおっ! これは! 体が軽い! 痛くない! 杖なしでも立てる! 歩ける!」
歓喜の声が響き渡る。
そのあいだにヴィオレッタ自身も、かき消えるように立ち去っていく。
「ちょっ……!」
慌てて追い駆けるも、少し走って一度振り返った。
道の先に小さく、踊る老爺が見える。
「殺して、ない……?」
そのままヴィオレッタは街を出てしまった。
「ちょちょ、ちょっと!」
城門を通り過ぎても背中は応えないし振り返らない。
肩をつかむとようやく
「なんでしょう」
「何って、もう出ちゃうんですか!?」
「いたって何も買えないでしょう」
「教会の軒先でだって泊まる気だったのに!」
返事はない。この態度、触れないでおくべきかと思ったが。
「あの」
「どの」
「おじいさんの『呪い』を解いた、いや。現れた時から、ずっと変でしたよね?」
これにも返事がないので、勝手に話を進めるしかない。
「何がそんなに気に入らないんですか。殺してほしがったからですか? でも殺さずに済ませたじゃないですか」
一瞬、彼女はピクリと止まった。
「殺したんですよ」
しかしそう呟いただけで、また歩き出してしまう。
「あれで? 生きてるじゃないですか!」
まったくチンプンカンプン。
が、彼女はやはり答えなかった。
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