呪殺聖女が人を殺す時

 旅は過酷だった。正直なめていた。



 ここ数日広場の硬い床で寝起きしていたのだから野宿くらい、と。


 二日目には高熱を出した。街と森、家出と旅は別物と思い知らされる。

 何より、


「お望みどおり死にますか? チャンスですけど」

「……」

「ん?」

「……苦しい、助けて」

「よろしい」


 いざ死が目の前に迫ると怖くなる。どれだけ人生に絶望しても、生きていたくなる。

 死ぬことをなめていたと、重ねて思い知らされた。


「では治癒と、睡眠魔法もかけますか。根本から回復しましょう」


 私は寝たらしい。



 で、目覚めた日の昼には魔物に咬まれ、脚をケガをした。

 小型犬並みの魔物。それでも痛くて、血と涙が止まらなかった。漏らした。小を(重要)。


「これはさすがに災難続きですねぇ。殺されようとしてます?」


 煽り性能はピカイチ。きっと読者の皆さまも、「最初が嘘みたいな畜生」と印象が変化していることだろう。正しい。

 当然私もムッとして言い返した。


「じゃあ逆に、どうなったら殺すんですか」


 彼女はとぼけたような声を出す。


「えー? 殺さないんじゃないかなぁ」

「えっ!? 話が違う!?」


「だって私、呪われてない人は殺しませんもの」


「えっ」

「ほら、もう治りましたよ。立てるでしょ」


 ヴィオレッタは下ろしていたリュックを背負う。


「私について、以前に『情報が不正確』と言いましたか。『呪われてない人も殺してる』は語弊がありますね」


 彼女は振り返り、私を見つめる。


「サヴィが『呪い』に罹っていないのは見れば分かります。なので機会はないかなぁと」

「なんですかその判断基準。呪殺自体はしてるのに」


 我ながら看病や治療してくれた人への物言いではない。それでも彼女は気にせず笑った。


「それも抜け落ちがありますよ。最近は言うほど殺しちゃいないのです! 魔族と食料以外は」

「えぇ……。ではあれも嘘なんですか? 『苦しまずに死ぬ』というのも」

「人間が? 魔族は普通に死ぬなりの目に遭って死にますけど」

「人間です」


 絶対分かっていて余計な言葉を挟んでいる。


「あぁ、そちらなら……。知りません」

「はぁ!?」

「その人次第でしょう」


 意味が分からない私に、「そんなことより」とニンマリ。


「このまえの『殺してください』って。痛いとか苦しいとかが怖いからですかぁ?」

「なっ!」

「いや〜私もね〜? そんな便利屋扱いはね〜?」

「殺してやる!!」


 しばらくキャアキャア騒ぎながら、心のどこかで思った。

 この人が誰かを殺すなんて、絶対嘘だろう、と。



 しかし、それは次の日、唐突に訪れた。

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