旅立ち

「大体そのように」

「田舎だけに情報が不正確と言うか、そもそも伝わっているのが問題と言うか」


 苦笑いともともつかない表情。

 普通はあることないこと流されていたら怒るだろうに、この態度。魔族どころか虫も殺せなさそうなのは驚く。


「それより、あなたの話をしているんですよ」


 驚いているうちに話を戻されてしまった。

 しかも、



「最近ご両親を亡くされましたか」



「……は?」


 さらなる衝撃で。


「どうしてそう?」

「見ればいろいろ。解説しましょうか?」

「えぇ、ぜひ。その代わり」


 衝撃のあまり、ムキになる。


「外れていたら、殺していただきます」

「あはぁ」


 ため息こそつけど、彼女はひるまなかった。予想は正しいと確信したのだろう。


「まず、この家はあなたのですね。勝手に空き家へ住み着く性格なら、わざわざ広場で寝起きしない。早起きしてほっぺにタイル跡つけに行くとも」

「……」


 私の反応を待たず、彼女の視線は宛てがわれた部屋へ。


「では一人暮らしなのかといえば寝室が複数。つまりこの家、少なくとも最初はあなた以外の人も住んでいたことになる。内装のセンスからいって客室でもなく、ご両親。しかしどちらもご不在。あなたは広場にいて家に寄りつかない。かといって」


 彼女が杖を揺らすと、箪笥の上で少しだけ埃が舞った。


「長らく放置されているわけでもなし」


 テーブルに両肘を突き、手に顎を乗せ。彼女は静かに結論を出した。


「だから、最近ご両親を亡くした、と。ぽっかり空いた家にいるのも、思い出があって辛いですよね」


 泣き出す気配を感じ取ったのだろう。泣き顔を晒したくない気持ちも汲み取ったのだろう。

 続いたのは平坦な声だった。


「だから殺してほしかったのでしょうけど。ゲームは私の勝ちみたいですね。要求は却下ということで」


 彼女はサッと席を立った。


「予定変更です。ベッドは惜しいですが、物資を集めたらすぐに発ちましょう」

「そう、ですか」



「だから、あなたも早く荷物まとめてくださいね?」



「は?」

「は? て。あなたも来るんですから」

「え?」


 一転腰に手を当て、ニマーッと小生意気なイタズラ少女の顔。

 初めての二つ名に相応ふさわしい姿だったろうか。


「『外れたら殺してあげる』でしたよね。じゃあ当てた場合もないと不公平ですよね?」

「え? そう、かも?」

「いやぁ、ほしかったんですよ荷物持ち。一人じゃ量運べなくて」


 椅子に座る私の両太ももに手を突き、顔を近づけてくる。


「大丈夫大丈夫。なし崩し的に生きさせようとかじゃないので。むしろ死んだ方が楽な旅ですからね。もうダメってなったらあげます」

「え、えぇ……」


 それはちょっと話が違う。思ってたのと違う。

 しかし話はすぐに切り替えられてしまう。


「あなた、お名前は?」

「えっ」

「お名前」

「サ、サルビア」

「サルビア、ですか」


 腕組みうんうんと頷く呪殺聖女。



「ヴィオレッタです。よろしくお願いしますね、サヴィ」



 さすがにこの時ばかりは、呪殺悪魔だと思った。

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