第14話 きみのきらきら2
「え? 空?」
アユちゃんはおどろいた表情でこっちを見た。
「あの作品は、わたしが……わたしが先輩にもらったうれしい気持ちを書いたの!!」
マイクごしだけど、人生で一番大きな声を出したかもしれない。
「先輩のキラキラしたところを書いたの! それを削除するなんて、モデルを変えるなんて、ぜったいさせない!」
あの小説は、先輩じゃなくちゃ意味がない。
「読書感想文だって演説だってスピーチだって、くやしかったけど、どうでもよかったからアユちゃんにあげたんだよ。だけど、今回の作品はダメ。アユちゃんのお願いだからってぜったい聞かない! あの小説はわたしのものだし、雨音はわたしなの! アユちゃんじゃない!」
こうふんして、頭が真っ白になっていたと思う。
体育館全体がシーン……としずまりかえった。水を打ったように、ってこういうこと?
だけど、中学生が集まっている空間だから、すぐにまたざわざわしはじめた。
「えー? 今のどういうこと?アユの演説って空が書いたの?」
「じゃあ二人で書いたってウソ?」
「感想文も? 加地さんて毎年賞とってなかった?」
うわさしてる声が、ステージにも少しだけ聞こえてくる。
「い、いい加減なこと言わないで!」
アユちゃんがまたわたしからマイクをうばった。
「今、拝島さんが言ったことは全部ウソです!」
「そ、そうだぞ拝島、ウソはだめだ」
担任が止めに入ってきた。
先生はカンタンに信じないよね。だってアユちゃんは勉強もスポーツも、ちゃんと優秀にできるから。
ほかのみんなだって、かわいくて優秀な生徒会長よりもさえないわたしを信じるなんてムリなのかもしれない。
「さっき提出した読書感想文……」
わたしは先生を見て言う。
「加地さんの分まで内容暗記してます。それに、今年の加地さんの感想文は漢字のまちがいとか言いまわしのおかしなところがたくさんあるはずです」
「え!?」
それを聞いたアユちゃんが青くなってる。
アユちゃんはわたしを信用して、まともに読まずに書き写してるって知ってるから、今年はアユちゃんの分をまちがいだらけにしておいた。
「加地さんの感想文も、わたしが書いたんです」
小説が受賞したってしなくたって、今年で最後にするって決めてたから。
わたしは、アユちゃんといっしょにいるより、一人を選ぶって決めた。
気になって、宙先輩のほうをチラッと見る。
「やるじゃん」
先輩が言ってくれた。
〝一人〟になったって〝独り〟じゃないって思える。
始業式は大さわぎになって、先生たちが生徒を落ちつかせるのが大変そうでちょっとだけもうしわけなかった。
それから、わたしとアユちゃんは別々に先生に呼び出されて、今までの作文のことを聞かれた。
わたしがどこまでアユちゃんの作文を書いていたのか聞かれて、小学生のころからだって正直に言ったけど、たくさん賞をとっているからあまりにも事が大きくなってしまいそうだった。
『誰にも迷惑はかけてない』って先輩には言ったけど、会長選で敗れたひとたちとか、迷惑をかけたひともいるって本当は気づいてた。
学校と相談して(っていうか頼まれて)、中学二年生になってからの分だけ調査するってことになった。〝隠ぺい〟ってやつじゃない? って思ったけど、悪いのはわたしとアユちゃんだし。
「それでいいです」
その日は、先生の聴き取りでおそくなってしまって、閲覧室に行けなかったから先輩には会えなかった。
翌日
学校に行くと、アユちゃんの席には姿がなくて、みんなが席についたわたしに話しかけてくる。
「アユ、転校するらしいよ」
「え!?」
たった一日で、びっくりな展開。
聞いた瞬間、目から涙があふれる。
「今まで苦しかったね」
クラスメイトが言ってくれたけど〝苦しい〟なんてひと言じゃあらわせない。
幼なじみとしてさみしい気持ちだってもちろんあるし、自業自得って思う気持ちも、あんなふうに大勢の前で言う必要があったのかな? とか、でもあれしかなかった、とか、謝罪がないのがプライドの高いアユちゃんらしいって感じもする。
それに、やっとアユちゃんから解放されるんだ……って。
その日の放課後。
閲覧室に行って、やっと日常に帰ってこれた気がした。
「転校?」
「だ、そうです……」
先輩はおどろいていた。
「でも多分、アユちゃんはほかの学校に行ってもうまくやっていくと思います」
かわいいだけじゃなくてふしぎな魅力がある子だから、きっとまた誰かをみつけて利用していくんだと思う。
「ふーん。生徒会長選び直すのとか大変そうだよなー」
先輩は興味があるようなないような口ぶりでつぶやいた。
「ところで空」
「はい?」
「大賞おめでとう。……ってやっと言えた」
「あ、ありがとうございます!」
あらためて言われるとうれしいし、ちょっと気はずかしい。
「あの、先輩。コンテストの結果が出たら感想教えてくれるって言ってましたけど」
「ああ、うん」
一番聞きたい感想に、ちょっとドキドキする。
「正直、自分がモデルなんて言われてはずかしかったんだけど、空の目を通した俺ってこんなふうに見えてるんだって、なんかうれしかった」
先輩は照れくさそうに笑ってくれた。
「けどさ」
「はい」
「空はあれを『先輩のキラキラを書いた』なんて言ってたけど、俺の感想としては、あれは空の物語。空のキラキラを書いた話だって感じた」
「え?」
「空が主人公だって思ってる男の子と、そいつの言葉でどんどん変わってく女の子がもう一人の主人公。これが空そのもの」
「ぜんぜん考えてなかったけど、たしかにそうかも……」
びっくりするくらい、自分では意識してなかった。
「きっとあの子みたいに、空自身がこれからもっとキラキラしていくよ」
先輩がやさしく微笑みかけてくれる。
「あの、先輩、今回の主人公たちのお話ってまだまだぜんぜん終わらないんです」
わたしは先輩の目を見て言った。
「うん。だから書いてよ」
先輩もわたしの目をまっすぐ見る。
「高校生になっても、大学生になっても、それからもっと大人になってからもさ、空が書いて。空と俺の物語」
それから、先輩とわたしは指きりをした。
その指がまた、キラキラかがやく。
fin.
おばけなワタシとキラキラのきみ ねじまきねずみ @nejinejineznez
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