第13話 きみのきらきら1

コンテストのページにはもう結果がのっていたから、もしかしたら先輩ももう見てくれたかもしれない。

【大賞 雨音『きらきらのきみ』】

零時ピッタリに更新されたそのページを見たら、本当は飛びはねるくらいうれしい気持ちになるはずだった。だけど、アユちゃんに知られてしまっているからか、見るとユウウツな気分になった。


ことわっても、アユちゃんはあきらめてくれなかった。

絶望するってこういう気持ちなんだ。

「雨音なんてペンネーム、なんかジメジメして暗いから、デビューする前に変えようよ。もっとアユに似合う感じのかわいいやつ」

アユちゃんは、わたしがずっと大事にしてきたものを、こうやってカンタンにゴミ箱に捨てるみたいにとり上げる。

きっと小説もあらすじくらいしか読んでないんだろうな。


表彰なんてされたくないし、アユちゃんといっしょにデビューするなんてイヤでたまらないけど……こんな大ごとになってしまったら、もうことわれない。


始業式が始まった。

うちの学校の始業式は全校生徒が体育館に集まって、イスに座って校長先生の話を聞くくらいで終わり。

夏休みに部活なんかで目立った大会成績なんかがあれば報告したり表彰もある。

だから今日は、校長先生の話の後にわたしとアユちゃんが表彰される。

「今日は特別表彰があります」

進行役の先生が言った。

「二年生の加地歩夢さんと拝島空さんが、小説コンテストで大賞を受賞して、作家デビューすることになりました。二人はステージに上がってください」

その発表に、全校生徒がざわめく。

「え、すごっ」

「中学生作家ってこと?」

いろんな声が聞こえる。

「さすが生徒会長! やっぱ文章うまいんだ」

「え? でもさ、アユはわかるけど、なんで空?」

「幼なじみだからって、いっしょに書いてることにしてもらったんじゃない?」

「幼なじみの七光りってことー? ズルくない?」

こんなふうに言われるのも、予想がついてた。

重い足どりでステージに向かっていると、一番前の三年生の列に座ってる宙先輩と目があった。

きまずくて、思わずパッと目をそらす。

心臓が、小学三年生のあの日と同じバクバクって不安な音をならしてる。

「それでは、校長先生から表彰状の授与です」

アユちゃんから先に、次にわたしに、賞状が授与された。

賞状をもらうのも三年生以来。だけど、あのときとちがってぜんぜんうれしくない。

「では、せっかくなので受賞した二人からひと言ずつお願いできますか?」

そう言って、先生がアユちゃんにマイクをわたした。

「幼なじみの拝島さんといっしょに小説家になれるなんて、ほんとにうれしいです」

アユちゃんは、まったく罪悪感なんて感じてないようなソツのないコメントをした。

そして、わたしにマイクがまわってきた。

「え、えっと……」

わたしがなにを言えばいいのかとまどって、うまくしゃべれずにいたときだった。

「はーい」

三年生の席で、誰かが手をあげた。

宙先輩だった。

「マイク借りてもいいですか?」

先輩は、脇にいた先生に言ってもう一本マイクを用意してもらった。

「とつぜんすみません、三年の青沢です」

それはみんな知ってると思うけど、先輩どうしたんだろう。

「じつは俺、拝島さんに相談されて受賞作の主人公のモデルになってるんですよね」

先輩の言葉に、ほかの生徒がまたざわつく。

「俺の言った言葉なんかも出てきてて」

先輩がわたしのほうを見る。

「俺は拝島さんにはモデルになることも、セリフを使うのも許可してますけど、加地さんには頼まれてないんで。二人で書いたっていうなら、許可できないです」

先輩の言葉は、生徒だけじゃなくて先生もざわつかせた。だって、せっかくの受賞作が発表できなくなっちゃうから。

先輩の発言にはびっくりしたけど、このまま受賞が取り消しになったほうがマシかもしれないって思ってアユちゃんのほうを見た。

そしたらアユちゃんは先輩のほうを見てニコッと笑うと、わたしの手元のマイクを手にとった。

「なら、消します。先輩のセリフ」

「え……」

アユちゃんはなにを言ってるの?

「モデルにしてることもわからないようにして、先輩がダメって言われるセリフは削除して書き直します。それなら文句ないですよね?」

ダメだよ。


「させない、そんなこと!」


わたしは、無意識にアユちゃんのマイクをうばいとっていた。

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